第四十七話:煽り運転
京都に住む四十代の男性、Zさんが今から一年程前に体験された出来事です。
夏の夜、お盆だったと言います。
夕方仕事を終えたZさんは、そのまま岡山にある実家へ帰省するため一人車を走らせていました。
途中までは高速を使い、その後は地元の人間の利を活かしてあまり交通量の多くない裏道を選びながら実家を目指した。
徐々に外は暗くなり、時刻は八時を過ぎた頃。
裏道を走っていたZさんは、途中でトンネルへと差し掛かった。
そこは山道にあるトンネルで、長さはそれほどない至って普通の、どこにでもあるようなトンネルらしいのだが、その中へと入ったと同時に、Zさんは(あれ?)と首を傾げることとなった。
と言うのは、トンネルへ入ると同時にすぐ後ろに大型のトラックが一台、追走してきていることに気がついたためで、トンネルへ入るまで道は二キロ程一本道であったにも関わらず、いつの間に後続車がいたのか全然わからなかったのだという。
こんな裏道をトラックが走るのか。
少し驚きながらも、Zさんはそのままトンネルの中を走っていると、バックミラー越しに見えるトラックの車体が、みるみるうちに車間距離を詰め迫ってきた。
おいおい、何だよ。急いでんのか?
危なっかしい奴だなぁ。そう思いながらも、道を譲るスペースもないため仕方なくZさんもスピードを上げてトンネルの出口を目指したが、どういうわけか、それでもトラックは更に車間距離を縮めてZさんの車に肉薄し、ほんの少しでも速度を落としたらすぐにぶつかるのではないかというくらいまでピッタリとくっ付いてくる。
何だこの運転手、頭おかしいのか?
さすがに異常な状況だと恐くなり、更にスピードを上げて距離を取ろうとしたZさんは、アクセルを踏み込みそのまま一気にトンネルを抜け出した――その次の瞬間、目の前にガードレールが迫り、慌てて急ブレーキと急ハンドルを切った。
しかし、あまりに突然のことにタイミングが間に合わず、Zさんの車はガードレールを突き破り、その先にあった田んぼへ突っ込み横転して止まった。
幸い、Zさんは鞭打ちだけで命は助かったものの、車は廃車にせざるを得ない状態になってしまったという。
ただ、それよりもZさんには頭に引っかかる不可解なことがあり、それは自分が事故を起こした直後、横転した車の中から道路の方を見た際に、すぐ後ろを追走していたトラックがどこにも見当たらなかったそうで、あんな数秒で姿が見えなくなるほど遠くまで走り去ることなどできるのかと、疑問を抱いたのだという。
後日、Zさんは警察からこんな話を聞かされた。
Zさんが事故を起こした場所では、他にも似たような事故が何度か起きたことがあるそうで、その当事者たちは皆、いきなりトラックに煽られたと、同じ供述をしているのだと。
しかし、警察がその都度そのトラックについて調べてはみるのだが、事故が発生した時間にあの道路をトラックが走っていたという事実は一度も確認できたことがないらしく、毎回警察も首を傾げているのだとか。
Zさんが遭遇したトラック。その運転席に座るモノは果たして何者であったのか。
同じ場所で何度も発生する事故との関りがあるのか。
結局、それらについてZさんは最後まではっきりさせることはできないままだったそうです。




