第四十六話:夢の中の男
実家で農業をされているOさんが、こんな体験をしたことがあると語ってくれたお話です。
Oさんが暮らしているのは地方にある田舎町で、自然に囲まれた静かな場所で、自分が管理している土地以外にもたくさんの田畑が広がっている長閑な町なのだそうです。
その町で大学を卒業後は家業を継ぎ、本格的に農業を始めたそうなのですが、地元へ帰ってきて六年程が経過した頃、初冬くらいの時期と言っていましたか、Oさんはおかしな夢を見るようになったのだと言います。
その夢というのは、毎回自分は家の中にいるのだけれど、突然家の中に四十代くらいの見知らぬ痩せた男が現れ、ズルズルと這うように移動しながらずっとOさんを追いかけまわしてくる、という内容のもの。
Oさん自身、その男には全く見覚えがなく、何故か顔だけが鬱血でもしているかのようにどす黒く、苦しそうに歪められた形相をしたままどこまでも追いかけてくるのだとか。
二階へ逃げても、階段を這い上がって迫ってきて、トイレ等へ隠れても、ずっとドアの前でOさんが出てくるのを待ち構えるようにして居座っている。
いつもどこから現れるのかもわからず、突然視界の中へ入ってくると、目を覚ますまでひたすらに付きまとってくるため、Oさんは夢を見るのが恐くなりあまり眠ることができなくなってしまった。
疲れているせいなのか、何か精神病にでも罹患してしまったのか、悪夢を見るようになってしまった原因が思い当たらず、病院へ相談にいかなくてはまずいかと自らを疑いだした頃。
突然、家に警察が訊ねてきて、Oさんの家が管理する土地――雑木林になっている場所だったそうですが――で、男の死体が発見されたと告げられた。
その後、死んでいたという男は知り合いに首を絞められて殺害された後、雑木林へ遺棄されていたことがわかり、その犯人も捕まったことで事件は解決したそうなのですが、どういうわけか警察が訊ねてきた日を境にして、Oさんが這う男に追いかけられる悪夢を見ることもピタリとなくなったのだという。
鬱血した顔の男というのは、ひょっとしたらこの首を絞めて殺害されていた男で、自分が遺棄されていることに気づいてほしいがために、ほぼ毎晩自分の元へ現れていたのではないか。
暫くしてから、そんな風に思ったりもしたOさんでしたが、もしそうであるならもう二度と、あんな最悪な夢は見せられたくはないなと、今でも思い出す度に眠るのが恐くなってしまうことがあるのだと、参った様子で語ってくれました。




