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怪談遊戯~紅葉語り~  作者: 雪鳴月彦
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第四十話:霧に見る

 ドライブが趣味という花部はなべさんは、休日になるとよく一人で遠出をしていたのだと言います。


 早朝に家を出て、景色を楽しむためなるべく高速道路は利用せず、のんびりと車を走らせることが好きだったそうなのですが、ある夏の早朝、海沿いの道を走っている時に背筋の凍るような体験をしたと言うのです。


 その日は三連休を利用し遠出をしており、一日目を車中泊で過ごし、二日目を迎えたその早朝であったそうで。


 ほとんど車も走らない、朝の四時くらいと言っていましたか。


 右手に海が一望できる道路に車を走らせていた花部さんでしたが、その日は異様に霧が濃く、前方もライトを点けて走らないと危ないくらいに見通しが悪かった。


 これはちょっと、普段以上にスピードを抑えて走らないといけないなと、ハンドルを握る手も緊張しそうになりながら暫く進んでいくと、前方に突然おかしなものが見えたのだという。


 何だろう? 動物?


 走っている道路の中央付近に、霧の奥から何か黒っぽいシルエットが見えている。


 それはどうやら何かが左右に動いているようで、花部さんは一瞬動物がいるのかと思った。


 しかし、徐々に車が近づきそのシルエットとの距離が縮まるにつれ、そこにいるモノの正体が明確になっていくと、花部さんはうぅぅぅっ……! っと、声を詰まらせるようにしながら身を竦ませ、慌ててスピードを上げその正体の真横を通り過ぎていった。


 道路の真ん中、中央線のある付近にいたのは、腰の辺りから身体の千切れた若い男だったという。


 その男が、べったりと血で汚れた顔を苦悶に歪ませながら、必死に花部さんに向かって右腕を振っていたのを、近づいた車の窓越しにはっきりと見てしまったのだという。


 長い時間直視したわけではなかったが、生きている存在とは到底思えなかったそうで、千切れた身体と、おかしな方向に捻じれた左肩、そしてあの赤く染まった生気のない顔を見て、即座にこれは駄目なやつだと判断し、スピードを上げてその場から逃げたのだと花部さんは語った。


 大人の人間があんな風になるのは、トラックなんかに轢かれて潰されたりした時じゃないでしょうかね。調べたりはしなかったからわからないですけど、過去にあそこで通行人かバイクか、事故に巻き込まれていたのかもしれません。


 ひょっとしたら、僕が通った時みたいな、霧の濃い早朝とかに……。


 思い出したくないことを無理矢理思いだしていたせいか、不快な表情を浮かべながら、花部さん、そう話を締めくくってくれました。





 ……余談ですが、どうしても気になって、帰る際、今度は人通りの多い日中にもう一度その道を通ってみたと言うのですが、そこには最近事故が起きたような痕跡は見つけられなかったそうで、それで余計にあの朝見たモノは生きた人間ではなかったのだと、花部さんはそう確信を強めたのだそうです。

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