第三十九話:ネットゲーム
三年前、当時はまだ大学二年生だった男性、Wさんから聞かせてもらった話になります。
わたしは一度も触れたことがないのですが、インターネットを利用し世界中の人とリアルタイムに遊んだりテキストや音声でやり取りができる、ネットゲームというものがあるそうですね。
これはそのネットゲームに纏わる不思議な怪異となります。
当時、Wさんはこのネットゲームに夢中になっており、一時期は講義やバイトを休んでまで熱中していたことがあるのだそうです。
そして、そのゲームの中にはすごく仲の良い友人がいたそうで、休み前の夜などは共に徹夜でゲームをしていたりもしたのだとか。
その友人とは、あくまでもネットゲームを通してだけの付き合いで、やり取りも全てゲーム内のサービスを利用したものだけ。
リアルで顔を合わせたこともなければ、お互いの電話番号やメールアドレス等も交換はしておらず、本名すら把握していなかったと言います。
なのでお互い、ボイスチャット機能を利用していたため性別だけはわかっていたものの、実際の年齢や住んでいる地域も正確には共有せず、ゲームの中で設定したアカウント情報のみでそれぞれのことを共有していた。
そんな友人とゲームの中で出会い、一緒にパーティーを組んで遊ぶようになって二年が経過した頃、つまりはこのお話の時期である三年前ですね。
Wさんは、困惑する出来事に襲われてしまうことになってしまった。
三月の始めくらいだったそうです。
普段通り、パソコンの前に座りゲームを始めると、何故かその日はいつまで経っても友人がログインをしてこない。
おかしいな、明日も大体同じ時間に来るって言ってたのに。急用でもできたのかな。
長くやっていれば、こんなこともあるだろう。
そう思い、その日はずっと一人でゲームを遊んでいたWさんでしたが、翌日も、またその翌日も、友人は全然ゲームにログインをしなくなってしまった。
何だろう、まさかあいつ、このゲームに飽きてやめちまったんじゃないだろうな……。
万が一そうなら、せめて一言メッセ残すくらいはしてくれたって良いだろうに。
いなくなった友人にがっかりしながら、それでも念のためにとWさんはその友人へ向けてメッセージを送信し、暫く様子をみることにしてみた。
そうして、メッセージを送った数日後。
ゲームにログインしたWさんは、友人から返信が来ていることを確認し、嬉しい気持ちになりながらすぐにそれを開いた。
しかし、そこに書かれていた文章は、Wさんが期待していた内容のものとはあまりにも違う、言葉を無くすような事実が記されていたと言うのです。
まず、返信をしてきたのは友人本人ではなく、その兄だと書かれている。
そして、今まで一緒に遊んでいた友人は既に亡くなっており、連絡をしても反応がないことを不審に思い家族がアパートへ訪れると、死後数日が経過した状態の友人を見つけたのだと。
それが、友人がログインしなくなった日付と同じ日の出来事。
つまり、返信の内容を鵜呑みにした場合、家族が亡くなった友人を発見した日を最後に、Wさんはこの友人と連絡が取れなくなった、ということになる。
しかし、そう考えるとあまりにもおかしな矛盾ができてしまう。
ログインしなくなった日に友人が死んでいたのなら話はわかるのだけれど、死んだのはその日よりも前。
ならば、その死んで発見されるまでの間、どうしてWさんは友人と一緒にネットゲームを遊べていたのか。
他の誰かが代わりに遊んでいた? 人が死んでいる部屋で、友人に成りすまして遊んでいた人物がいたのかと想像するも、そんなわけはないとすぐに思い至った。
ログインしなくなった前日も、Wさんは普通に友人とチャットで会話を交わしていた。
その声は、紛れもなく聞き慣れた友人の声で、他の誰かが成りすましている声だとは絶対に思えなかったという。
であれば、この返信自体が実は嘘で、友人が兄だと名乗りWさんを騙そうとしているのか。
だとするのなら、それは何のために? そんな嘘をつく理由がないし、仮にWさんと遊ぶのが嫌になったのであれば、素直にゲームを引退するといって引き下がるなり、黙ってブロックリストに指定したりすれば済むだけの話のはず。
釈然としないまま、Wさんはもう一度友人のアカウントへ真偽を問うメッセージを送信した。
すると、それから数日して、また兄と名乗る人物から返信が届き、そこに一枚の画像が添付されてきた。
――これが弟です。これくらいしか証明する手段が思いつきませんでしたので、写真を送ります。本当に、弟と仲良くしてくれてありがとうございました。
そんなメッセージと共に送られてきた画像は、ずっと遊んできた友人のものと思しき、遺影と祭壇の写真だったという。
写真に映る人物は、Wさんよりもずっと年上の三十代くらいに見える男性。
ここまで手の込んだ嘘なんて、わざわざつくはずがないよな……。
その画像を見ながらそう判断したWさんは、この日を境に友人のアカウントへメッセージを送ることをやめ、それから暫くして遊んでいたゲームのアカウントを削除し、以後ネットゲームをすることはなくなったのだそうです。




