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怪談遊戯~紅葉語り~  作者: 雪鳴月彦
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――最後の幕間――

 四人の話が全て終わり、ひと時の静寂が室内を満たす。


 語られた怪談の余韻を楽しむかのように長椅子に座る紅葉は、やがて


「……本当に、皆さんそれぞれが多種多様な体験をされているものですね。お聞かせいただき、本当にありがとうございました」


 と、座ったままの姿勢で深くお辞儀をしてみせてきた。


 観客席からは、特に返答も拍手も起こらない。


「一言に怪異と言っても、その全てが気味の悪いもの、身の毛のよだつものばかりではなく、一見他愛のないものに思えるけれど、後から振り返るとあれは不思議だったと思えるものや、恐怖とは無縁の切ない内容のものも存在します。どれが良い、というのではなく、先程も申しました通り、全ての怪異に平等な敬意をわたしは払うつもりですし、これまでもそうしてきました」


 無反応な客たちに気分を害する様子もなく、紅葉は自分のペースでまとめの口上らしき言葉を連ねていく。


「今日お聞かせいただいた皆さんの怪談もそうです。全ての内容に、感謝と敬意を表します。これまでそれなりの数の怪談を蒐集しゅうしゅうしてきたつもりですが、やはりこの世にはまだまだ多くの不可思議が漂っているのだとわかり、話を聞きながら嬉しい気持ちになっていました」


 これで、イベントは終わりになるのだろうか。


 体感ではあるが、ここへ来てからそれなりの時間は経過していると思える。


 普通のイベントは大抵一時間から二時間程度のものであるし、頃合いと言えば頃合いだろう。


「さて、この後はもうあといくつかわたしの方から怪談を語らせてもらって、今宵の集まりは終演とさせていただこうかと思います。残り数話、今日ここへお集まりいただいた皆様への感謝を込めて語らせていただきますので、どうぞ不可思議の世界を最後までご堪能なさってください」


 ニィ……っと、今までで一番大きな笑みを浮かべ、紅葉は赤い唇の奥にある白い歯を俺たちの目にさらした。


 残り数話。ライブでいうアンコールみたいなものかと勝手な解釈をしながら、俺はそっと身体の力を緩めた。


 何にせよ、もうすぐこの予定外のイベントは終了する。


 今からであれば、まだ花火大会にも間に合うだろうし、その後も和香と一緒に二人きりでくつろぐ時間も作れるだろう。


 コンビニで酒でも買い込んで、どちらかの部屋へ行きこのイベントの感想を語り合うのも面白いかもしれない。


 ここへ来てからずっと、茫漠ぼうばくとしていた理由も訊いてみよう。


 まさか、気分が悪くなっているとかでなければ良いが。


 もう一度、チラリと和香を横目で見れば、やはり中空を凝視したまま無表情になっている。


「それでは、次の話を始めようと思います」


 和香に気を取られている間にも、紅葉は進行を進めていく。


 もう少しの辛抱だ。イベントが終わったら、さっさとここを出て人のいる場所まで移動しよう。


 場合によっては、すぐに休める場所を探すことも考えなくては。


 そんな俺の思いとは正反対に、紅葉のゆったりとした口調が室内を再び包み始める。

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