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怪談遊戯~紅葉語り~  作者: 雪鳴月彦
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第三十三話:憂鬱な釣果

 千葉に住む男性、Dさんは趣味でよく釣りをしているのだそうで。


 海釣りだけに留まらず、渓流釣りや池等での釣りも普段からよくやっていたのだと言っていました。


 そんなDさんでしたが、ある出来事をきっかけにして池での釣りだけはやめてしまった。


 数年前、旅行か何かで出かけた際に偶然見かけた池へ、休日を利用して釣りに出かけたことがあったそうなのですが、そこでDさんは不可思議なと言うのか、気持ちの悪い体験をなされたそうでして。


 それが原因で、池での釣りができなくなったのだそうです。



 目的地の池へ到着すると、山の中だけあり、他に人の姿もなく貸し切り状態。


 これは静かで良いスポットを見つけたぞと内心浮かれながら、Dさんは釣り竿の用意をし始めた。


 そうして、いざ釣りを始めてみると、面白いことに次から次へと魚が釣れ、Dさんは時間を忘れて没頭してしまった。


 釣りを開始して、約二時間半。


 時刻は午後の一時を過ぎた頃、Dさんはそろそろ休憩し昼食を食べようかと、あと一匹釣れたら一旦終わりにすると決め餌を仕掛けた釣り糸を池の中へ放り込むと、またすぐに何かが掛かった手ごたえを感じた。


 即座に竿を引き、釣れた魚を引き上げたDさんだったが、掛かった獲物が近づき水面から見える位置までくると、どうやらそれは魚ではなくスニーカーらしき靴であることがわかった。


 何だ、外れか。こんな山ん中にゴミ捨てていく馬鹿とかいるのかよ……。


 と、胸中で文句を言いながら靴を引き上げ、引っかかった釣り針を取り外そうとスニーカーを手に持った瞬間――。


 ――うわぁ!?


 Dさんは、思わず悲鳴をあげる事態に陥ってしまったのです。


 手にしたスニーカーは、水をたっぷり吸っているせいか異様に重く感じていたのだそうですが、そのスニーカーの内側、足を入れる部分ですね。


 そこを覗いたと同時に、Dさんは慌ててスニーカーを放り投げた。


 靴の中、そこに見えたのは、人間の足首と思われる生々しい断面。


 靴を履いたまま足を切断すればこういう風になるだろうという感じで、赤黒い肉と骨が露わになった切断面が、そのスニーカーの足を入れる部分から覗いていた。


 何だ今のは? まさか誰かの死体?


 早鐘のように心臓を鳴らしながら、もう一度、今度は手に持たぬよう注意しながらスニーカーの中を確認すると、そこには肉塊など一欠片ひとかけらもなく、ただ空っぽになった靴の内側があるだけだったという。


 Dさんはこの後すぐに荷物をまとめ池を離れたそうですが、手にした靴の中に見えたあの足首の切断面は、どう思い返しても見間違いや思い込みなどの錯覚なんかじゃなかったはずだと、強く断言しておりました。


 では、Dさんが見たものは何であったのか。


 その明確な答えは知る由もありませんが、ただ一つ、家に帰った後にDさんがこの池のことについて調べてみると、どうやらこの訪れた池では以前、バラバラにされた若い女性の遺体が発見された場所であったことがわかったそうで。


 Dさんが見てしまったモノは、ひょっとすると遠い昔にあった惨劇の名残り……報われないままの残滓ざんしのようなモノであったのかもしれません。

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