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怪談遊戯~紅葉語り~  作者: 雪鳴月彦
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第二話:ブラックライト

 これは、ある二十代の男性が数年前の春に体験したお話です。


 仮にその方をSさんと呼ぶことにしておきましょう。


 その春、Sさんは仕事の都合で地元から東京へと引っ越しをされました。


 それまで住んでいた部屋はワンルームで、新しい住居は2DK。


 今までよりも空間に余裕を持って生活できるようになったのが嬉しく、部屋の一つを寝室兼プライベートルームに使おうと、Sさんは趣味の品を持ち込み自分好みのレイアウトへ仕上げていきました。


 このSさんの趣味というのが、金魚やメダカ等の水生物を飼育することで、そのプライベートルームには水槽を並べる棚やその棚を照らすための特殊な照明などが、多く持ち込まれました。


 住む地域が東京に移ったというのも趣味の活動に大きく影響し、地元では手に入り難かった様々な備品も、引っ越し後すぐに買い集めたりしていたそうです。


 そうして、部屋の片づけや引っ越しに関わる面倒な手続きなども一通り終わらせ、ようやく人心地ついた頃、Sさんは自分の大切なコレクションである水槽の並ぶ棚を見ながら、ずっと楽しみにしていたあることを実行しようと思い立ちました。


 そのあることというのは、部屋の中を暗くして、設置しておいた水槽を照らすための照明を点灯させるというもので、ブラックライトと言う蛍光色のような青い光を放つ特殊な照明を用意していたそうなのです。


 そのブラックライトで水槽を照らせば、綺麗で幻想的な見た目を楽しめるに違いない。


 そう思いながら、Sさんは夜になるのを待つと、部屋のカーテンを閉め室内の電気を消灯しました。


 そうして、いよいよ楽しみにしていたブラックライトのスイッチを入れ、青紫色に光る水槽の中で泳ぐ魚たちを眺め、Sさんは暫くの間満足感に浸っていたのですが、ふと水槽から目を逸らし仄かな青を反射している室内を見回した途端、思わず悲鳴を上げてその場に腰を抜かしてしまったそうなのです。


 ぐるりと室内を見回し、そのまま天井へと顔を向けた瞬間――Sさんはその天井から無数の青い顔が、ジーっと自分のことを見つめていることに気がついてしまった。


 老若男女、様々な顔が無表情に自分を見ている。


 Sさんは恐怖のあまり声を出せなくなりながら喘いでいると、その顔たちはやがて一斉に天井の中へと吸い込まれるようにして消えていった。



 ブラックライトには、発光性のある物を光らせる性質があるということですが、それとこのSさんが見た無数の顔との因果関係は不明のまま。


 ただ一つだけSさんが気になったのは、会社が用意してくれたこの部屋が、異様に家賃の安い部屋だった、ということなのですが、会社へ頼み不動産へ問い合わせをしてもらうも、「私たちにも原因はわからないのですが、どうしてか入居する人たちがすぐに別の物件へ移動することが繰り返されているため、仕方なく今の値段で提供をしているんです。決して事件や事故のあった部屋ではありませんよ」といった、何ともスッキリしない回答をされただけだということです。


 この後、どうにか二週間程はもう片方の部屋で寝起きをしながら生活を続けていたSさんでしたが、やはりあの顔たちのことが忘れられないのと、プライベートルームとして用意した部屋へも入ることが恐くなってしまい、すぐに別のアパートへ引っ越しさせてもらったそうです。

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