第三十二話:冬の怪
次は六十代の女性、仮に清水さんとお呼びしますが、この清水さんが子供の頃に体験されたというお話になります。
清水さんがまだ小学二年生の時、ある冬の雪が降り続ける寒い日に、留守番を頼まれて一人家にいたのだそうです。
時刻はまだ午前中と言っていました。
特にやることもなく、炬燵に入り寝転がりながらノートに絵を描いて遊んでいた清水さんは、不意に玄関の方からト……ト……ト……と、誰かが歩いてくるような足音を聞いたような気がして、身体を起こした。
親が帰ってきたのであれば、まず最初に玄関を開けるガラガラという音が聞こえなくてはおかしい。
今の音は、何だろう……。
不思議に思いながら、暫くジッと周囲の様子を窺っていた清水さんでしたが、特にそれ以上不思議な音は聞こえてこなかったため、気のせいか、でなければたまたま外で聞こえた音が家の中で鳴ったように勘違いしたのかなと都合よく判断し、またゴロリと横になると絵の続きを描き始めようとしたのですが……。
再び横になり足を炬燵の中で伸ばした瞬間。
――っ!?
清水さんは、驚いて咄嗟に炬燵から飛び出してしまった。
足を伸ばした瞬間、自分の対面に当たる位置からひんやりと冷えた誰かの足が入ってきて、清水さんの足とぶつかった。
それで驚き反射的に炬燵から飛び出たと言うのですが、慌てて見回した部屋の中には、当然の如く誰の姿も見当たらない。
念のためにと、恐る恐る炬燵のカバーを捲って中を覗いてみるも、そこにも人が隠れているようなことはなく。
対面から入り込んでこようとしたあの冷たい足はいったい誰のものだったのか。
ひょっとしたら、通りすがりの幽霊が暖を求めて家の中に入り込んできていたのかもしれないと、清水さんはそんな風に思い、恐くなってしまったのだそうです。




