第三十一話:クローゼットの中には
三戸口さんという、三十代女性の方がいるのですが、その三戸口さんが高校三年生の夏に、友人の家へ泊まり込みで遊びへ行った際に体験したというお話をしましょう。
高校三年生の時、夏休みを利用して三戸口さんは友人の家へ泊まりへ行くことになり、お菓子や遊び道具をあれこれと持ち込んで、夜遅くまでお喋りをしながら楽しんでいた。
その友人のご家族は、何か用事があったらしく不在で、気兼ねなく馬鹿騒ぎができて楽しむことができたのだそうです。
そうして、時刻が深夜の一時を過ぎた頃、そろそろ寝ようかということになり、友人の部屋に布団を敷くと三戸口さんは床で、友人は自分のベッドでそれぞれ寝ることとなった。
真っ暗にしては万が一トイレへ目を覚ました時に不便だろうということで豆電球を点けた状態で眠ることになったのですが、普段と違う環境だからか、それとも脳が興奮していたからなのか、三戸口さんはその夜、なかなか寝つくことができずにいた。
布団に入って最初の十数分は、友人とポツポツ会話をしていたものの、やがて友人は眠ってしまい静かな寝息だけが時折耳に届いてきた。
寝つけないなぁ。でもまぁ、どうせ明日も休みで予定があるわけでもないし、別に良いけど。
そんな風にお気楽な考えで、ぼんやりと時間が過ぎていくことに身を任せていた三戸口さんでしたが、寝返りを打ち身体を横へと向けた瞬間――え? っと、その身体を硬直させてしまうこととなった。
友人が寝ているベッドへ背を向けるかたちで横を向いた、三戸口さん。
その視線の先には、茶色いクローゼットが置かれていたそうなのですが、そのクローゼットの扉が、ゆっくりと開いてきているのを豆電球の明かりの中で見てしまった。
え? 何であれ勝手に扉動いてるの?
意味がわからず、目を大きくしながらその開かれていく扉の奥、真っ暗なクローゼットの中の闇を凝視していると、そこから突然にゅう……っと白く細い腕が伸びてきて、次に真っ黒い頭がその姿を現した。
……何、あれ?
いきなり現れた得体の知れないモノに、三戸口さんは恐怖心で胸の中がゾワゾワとした気分になりながら、それでも目を逸らすことができずにその何かをジッと見つめることしかできずにいた。
その三戸口さんの見ている前で、クローゼットから出てくる何かはズルリと上半身を露わにし、白い服を着た姿をさらしてきた。
そこまで見て、三戸口さんはやっとそれが女の人であると理解したらしいのだが、どうして見ず知らずの女性が友人のクローゼットから這い出るようにして現れるのかその理由がわからず、同時にこれはこのまま見ていてはまずいという直感が働き、そこでやっと布団を被るようにして息を潜めたのだという。
しかしその後、クローゼットから出てきた女が部屋の中を移動するような気配や物音は一切せず、三戸口さんもいつの間にか眠ってしまっていたようで、次に目を開けた時には既に朝を迎えていた。
ただ……。
「え? ちょっとこれ何? ねぇ、何か悪戯した?」
そんな友人の声で目を覚ましたという三戸口さんは、そこでまた言葉を失くしてクローゼットのある場所を凝視する羽目になった。
朝、目を覚まして見たその場所には、まるでクローゼットから這い出してこようとしていたかのような不自然な状態で、白い服が一着、床に落ちていた。
そしてそれは、昨夜三戸口さんが見た謎の女が着ていた白い服と、全く同じ服であったのだという。
友人が言うには、過去にこのような服が勝手に外に落ちているなどという現象は起きたことがないそうで、どうしてあの夜にだけ謎の女が三戸口さんの前に現れたのか。
白い服に、何かしらの霊が憑依でもしていたのか。
それらの謎は、何もわからないまま現在に至るのだそうです。




