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怪談遊戯~紅葉語り~  作者: 雪鳴月彦
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第二十八話:花束の呪い

 さて……次のお話ですが、これはある男性の方、仮に袴田はかまださんとここでは呼びましょう。


 その袴田さんが高校生の時に体験した……と言うよりは巻き込まれたと言うべきでしょうか、まぁ、身近で起きてしまったある呪いに纏わるお話になります。


 この話は正直、わたしが知る怪談の中でもそれなりに印象深いと言いますか、実際に体験する側であったのなら、間違いなく強いトラウマとなって一生付きまとわれるだろうなと、そう思った話でもあるのです。


 袴田さんは、高校時代はかなりやんちゃだったそうで、校内ではよく教師に目をつけられていた生徒だったのだそうです。


 だから当然、周りに集まる友人たちも似たようなタイプが多くなり、普通の生徒たちからは恐がられて距離を置かれたりしていたのだとか。


 無免許でのバイクや車の運転、コンビニ等での万引き、他校生との喧嘩、喫煙にカツアゲ……一通りの非行は制覇したと、話をし始めた最初のうちは少し自慢そうに語っていたのですが、それが花束……正確には献花ですね。


 ある献花に纏わるエピソードを語りだした辺りから、袴田さんの表情から笑顔は消えていきました。


 初秋の頃だったと言います。


 袴田さんは悪友たち五人で深夜の町を歩いていたそうで、確かコンビニへ出かける最中だったと言っていましたか。


 その道中に、大きなT字路があるそうなのですが、そこに花束と何やら食べ物が置かれているのを友人の一人が発見した。


 そこでは過去に交通事故があったそうで、袴田さんたちが見つけたのはそのお供え物と献花であったと考えられます。


 全員、お酒を飲んでそれなりに酔いが回っていたため、普段以上に悪ノリをしてしまったのでしょうね。


 それを見つけた友人の一人が、ふざけながらお供え物を蹴り飛ばし、一緒に置かれていた花束も、笑いながら地面や壁に叩きつけ、最後は路上に投げ捨ててしまった。


 他の友人や袴田さんも、誰一人その愚行を止めることをせず、一緒になって笑いながらはやし立てていたのだそうです。


 オレらからしてみれば、あの程度のおふざけは普通のことだったから、その時は全然悪いとも思えなかった……と、本人が仰っていたくらいですから、本当に罪悪感も何もなく行為を行ってしまったのでしょう。


 そんなことがあってから数日が経過した時、突然友人の一人、お供え物を荒らしたその本人が学校へ姿を見せなくなった。


 最初の数日は勝手にサボって何かしているんだろうと、袴田さんたちはあまり深刻には意識していなかったそうなのですが、四、五日が経過しても姿を見せず、電話やメールにも一切返事をしてこないことに不信感を抱き始め、全員で一度様子を見に行ってみようということになったのだそうです。


 その友人が住んでいたのは二階建ての一軒家で、両親は離婚をしており父親との二人暮らしだったと言います。


 しかし、その父親とは仲が悪く、一緒に暮らしてはいるものの普段は口も利かなければ顔を合わせることもほとんどしない間柄だったとかで、父親も息子が学校を休んでいることに無関心だったのかもしれません。


 そんな友人の家へ行き、不愛想な父親に中へと入れてもらうと、袴田さんたちは友人の部屋がある二階へと上がっていった。


 そうして、ドアをノックしながら声をかけ、そっと中の様子を窺った瞬間、袴田さんたちは一瞬ゾッとして目を見開きました。


 部屋の中、日中だというのに窓もカーテンも閉め切った薄暗いその空間で、友人は頭から布団を被り、ベッドの上で芋虫のように丸くなっていたのだそうで。


 いったいこれはどうしたことかと、袴田さんは恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れ、ベッドへと近づき友人に声をかけてみた。


 すると、友人はモゾリと布団から青白くなった顔を出し、怯えるようにギョロギョロとした目つきで部屋の中を見回し、「ずっと、花の臭いがするんだ……」と、掠れた声を漏らしてきた。


 お墓とかによく供えられえているきくの花、その臭いがずっと自分の周りに付きまとい続けているんだと、そう訴えてきたのだそうです。


 しかし、様子を見に来た袴田さんたちは誰一人、そんな花の臭いなど感じてはおらず、気のせいなんじゃないのかと説得をしてみたものの、友人はブンブンと首を横に振り、「こんなにはっきり臭いがするのに、気のせいなわけがあるかよ!」と、何とも異常な反応を返してまた布団を被って隠れてしまう始末。


 それから、袴田さんたちがどんなに声をかけても布団から出てこようとはせず、無理矢理布団を捲ろうとすると、キレたようになって抵抗されてしまったため、これはどうしようもないなと全員で判断し、この日は一旦帰ることとなった。


 しかし、この友人ときちんと会うことができたのは、その時が最後となってしまい、約一週間後……相変わらず姿を見せない友人宅へ赴いた袴田さんたちは、自室のカーテンレールで首を吊って自殺している友人の姿を目撃してしまいます。


 この時、袴田さんが強く印象に残ったと言うのが、友人の部屋の床に、恐らくは自殺をする前に自身で買い集めてきたのであろうお供え用の花束が大量に置かれていた光景で、ドアを開けた瞬間に流れ出てきた強烈な菊の香りが、今もはっきりと鼻腔に染みついてしまっているのだとか。


 友人が言っていた菊の臭いとは、結局強い妄想か何かによって引き出されたものであったのか、まるで自分の死体へ手向けるように床中に置かれていた花束は、どういった考えで用意をしたのか。


 そして――それらの奇怪な行動と、あの日の夜に交通事故現場でしてしまった悪ふざけは、何か常識では説明できない因果関係があるのか。


 袴田さん本人も、この一件をどう受け止めて良いものなのか未だにわからず、未だに思い返す度に薄ら寒い気持ちに襲われるのだそうで。


 ただ、この悲惨な一件があって以降、袴田さんを含めた友人一同、過度な悪ふざけは一切できなくなったのだと言っていました。

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