第二十七話:寒いよ
次は、ちょっと短いお話を一つ。
印刷関係のお仕事をされている三十代の独身男性、Hさんとしておきましょう。
そのHさんが数年前、冬の夜に体験したという、ちょっと恐いお話です。
一月の終わりくらいだったと言っていたでしょうか。
その日は夕方から一気に冷え込みが強くなり、仕事を終えて帰宅したHさんは、食事と入浴を済ませると早々に布団へ入ったのだそうです。
そうして、眠りについてどれくらいが経過したのか、時計を確認しなかったそうなのではっきりとした時間はわからないのだそうですが、体感的には深夜の一時前後くらいではなかったかとHさんは仰っていました。
Hさん、異様な寒さを感じて目を覚ましてしまったそうで、ちゃんと布団の中に入っているにも関わらず、どういうわけか手足の先がまるでずっと外にでもいたのかと思ってしまうくらい冷えてしまっていた。
随分寒いな。今夜はこんなに冷えるのか……。
あまりにも身体に寒気が走るため、Hさんは身を丸めるようにして頭から布団を被って再び眠ろうとしたのですが、どうにかうとうととし始めた頃――突然、布団の外から
「寒いよ」
と、幼い男の子の声が聞こえて、Hさんは驚いて反射的に布団から顔を出してしまったのだそうです。
だけど、暗い部屋の中には自分以外には誰もおらず、当然子供の姿も見当たらない。
まるで、布団越しに顔をくっ付け囁きかけられたかと思えるくらい、はっきりと聞こえた幼い声。
自分は寝ぼけているのだろうか。
そんな風に考えようともしたが、あまりにもはっきりと聞こえたせいで、どうしても気のせいなどの類とは割り切ることができなかったそうで。
結局、声を聞いたのはこの時に一度だけ。
これ以降不思議なことは起きてはいないということで、ひょっとしたらあれは、あまりの寒さに迷い込んだ幼い子の幽霊だったのでは……と、Hさんはそう解釈をすることにしたのだそうです。




