第二十六話:ネット動画
次のお話は、わたしが聞き集めた怪談の中では一番新しい、つい二週間程前に教えていただいたお話になります。
Gさんという、背が低く可愛らしい女子高生の方からご提供いただいたお話なんですけれども、ネット動画に纏わる怪異でして。
インターネットはもう、今はほとんどの人が利用しているサービスだと思いますが、その中には様々な動画を閲覧できるサイトも多数存在しますよね。
そんなサイトの中には、モラル的にはあまり称賛できかねてしまうような、ユーザーの一部で闇サイト等と呼ばれるものもあるそうでして。
ある日、Gさんは学校の友人から人が死ぬ瞬間の映像をたくさん公開しているサイトを見つけたと、声をかけられました。
Gさん、オカルト系の話は好きらしいのですが、人が殺される等のスプラッタなジャンルは苦手で、正直友人の振ってきたその話題に消極的だったのだそうです。
ですが、その友人は得意気にサイトの内容や自分が観た映像の説明を語り、そして一番衝撃的だったという交通事故の映像をGさんにも観るよう勧めてきたのだそうです。
外国の動画らしいのですが、道路を走っていたトラックが歩道に進入し、歩行者数名を撥ねそのうちの一人をタイヤに巻き込んでしまうという、ショッキングな内容になっており、それがモザイク加工も何も無しで閲覧ができると言うのです。
サイトの名前を教えられ、他にも色々衝撃的な動画があるからと得意そうに告げられたGさんは、内心そんな気持ちの悪くなりそうな映像は観たくないと、反応に困ってしまったそうなのですが、やはりそこは人と言いますか、恐いもの見たさの気持ちも湧いてしまったようで。
その日の夜、家に帰ったGさんは部屋で一人になると、教えてもらったサイトにアクセスをしてしまいました。
どんなサイトか、トップページを確認するくらいなら。
そんなことを自分に言い聞かせながら開いたそのサイトは、記載されている文字が全て英語になっており、サイトそのものも海外のものであるのがすぐに理解できた。
しかし、それ故に何が書かれているのかいまいちよくわからず、Gさんは無難そうな箇所を選びいくつかページを閲覧していたそうなのですが、ふといくつか表示されていた動画の中に防犯カメラで撮影されたような、町中を映した映像が紛れ込んでいるのが目に止まってしまったのだそうです。
日中、友人から聞かされた交通事故の話を思いだし、まさかという猜疑心を胸の中に滲ませながら、Gさんは興味本位でその動画を再生させてみたのですが……。
そこに記録されていた映像は、まさに友人が教えてくれた内容と瓜二つで、何気ない町中の防犯カメラの映像が、突如歩道へと突っ込んできたトラックにより一瞬にしてパニック映像に豹変してしまうという、目を逸らしたくなるような内容だったそうです。
嫌だと思いながらも、ついつい目は動画を観てしまい、事故が発生しトラックが歩行者を巻き込み停止したところまで流れた瞬間、Gさんは、え? っとある得体の知れないモノが映像の中に映り込んでいるのに気がついてしまった。
事故を目撃した周囲の人々が、パニックになりながら負傷した人たちを救助しようとしている中、道路の真ん中辺りに十代後半くらいに見える金髪の少女が、まるで上半身だけを浮かび上がらせるようにして地面から出てきた。
周囲の人々はその少女には気がつく様子もなく、トラックに潰された人をどうにかしようとして動きまわっているだけ。
これは何? まさか心霊動画?
予想外の展開に、身を乗り出すようにして画面を見てしまうGさんの視線の先で、その少女はゆっくりとカメラの方を見上げ、そしてスゥッ……と、まるでこちらを指差すように手をあげてきたところで、動画は停止してしまった。
今のは何だったんだろう。ひょっとして、友達が本当に見せたかったのは今の部分だったのかな。
実際に観た時、あたしが驚くようにわざと幽霊が映っていることは公言しなかったのかも。
そう思い至り、しかしGさんはもう一度今の動画を再生する気にはなれず、その日はすぐに就寝したという。
そして翌日、学校へ行くなり動画を教えてくれた友人へ昨夜観た映像のことを話すと、どういうわけか不思議そうな顔をされ「そんな幽霊なんて出てこないでしょ?」と、真面目な口調で返されてしまった。
まだ自分をからかっているのかと思ったGさんだったが、暫く話を続けてみても、どうにも話が噛み合わない。
そこで、それなら今ここで動画を見直して確かめてみようという結論に至り、二人でスマートフォンから問題の動画を再生してみることになった。
だが、どういうわけかそこで観た映像にGさんが目撃した金髪の少女は出てくることはなく、終始ただの道路が映っているだけでしかなかったのだという。
見間違いだったなんていうレベルの話ではない。
それなら、昨夜観たあれは何だったというのか。
釈然としない気持ちのまま一日を過ごし、Gさんは帰宅するなりもう一度自分のパソコンから動画サイトへアクセスし映像を確認してみたが、やはり昨夜の少女はどこにも現れることはなかったという。
おかしなモノを見てしまったけど、あれはひょっとしたら本物の心霊現象だったのかも。
モヤモヤした気分を拭えないままそんなことを考え、ひとまず動画のことはそれでおしまいになったそうなのですが、この動画を観てから僅か半月後、Gさんのお母さんが交通事故を起こし、命は取りとめたものの三日間意識が戻らない程の重症を負ってしまったのだそうで。
このことが、映像に映っていた少女を見てしまったことと何か因果関係があるのかはわかりませんが、Gさんが言うには
「動画の最後に、あの女の子はこっちを指差そうとしてたの覚えてるんですけど……あれって、もしかしたらそっちへ行くぞっていう意味の行動だったのかなとか、思っちゃって。そのせいでお母さんが襲われて事故に遭ったんなら、あたしがあんな動画観ちゃったからじゃないですか。だから、やっぱり観なきゃ良かったのかなって、今になって後悔してるんです」
とのことで。
しかしながら、実際のところ何一つ真相はわからないまま。恐らくこの先もずっと、Gさんは自責の念を抱いて悩み続けていくのかもしれません……。




