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怪談遊戯~紅葉語り~  作者: 雪鳴月彦
31/61

――些少な気配――

「はい、皆さん素敵な怪談をありがとうございました。一言で怪談や怪異を言っても、やはり多種多様なものがありますね。確かにその存在を認識はできたのに、現れた意図や意思は汲み取ることができず、喉に小骨が刺さったままのようなモヤモヤだけがどこまでも尾を引いて記憶の中に残り続ける。……こういう感覚もまた、霊という存在に触れた者だけが味わえる醍醐味と言えるのではないでしょうか」


 四名の話が終わり静寂が会場内に戻ると、また紅葉が何やら口上を述べ始めた。


「そしてやはり……こういった話を続けていると、異界の者たちが集まってくるようですね。恐らく、今この場にも何体かの浮かばれぬ魂と呼ばれるモノたちが集い始めているはずです。言葉にはせずとも、実は既に何かを感じ取っていらっしゃる方もおられるのではありませんか?」


 長椅子に腰を下ろしたまま、紅葉は観客たちをからかおうとするかのように、ゆっくりと頭を左右へ巡らせる。


「わたしも僅かですが、気配を感じますね。皆さんの座る椅子、その隙間に身を潜ませるモノ、会場の隅にできた暗がりから、顔だけを覗かせているモノ、まるで人恋しいかのように誰かの真後ろへピタリとくっ付きながら、ジィ……っと気配を殺しているモノ。……枯れ木も山の賑わいとはよく言ったもので、見えぬ存在も、いればそれだけ場が盛り上がると言うものです」


 本気か嘘か、よくわからない口調で飄々《ひょうひょう》と語る紅葉の声を聞きながら、俺は先程遭遇したいくつかの不審な現象を思い返した。


 定期的に鳴り響いたラップ音と言われる謎の音。突然起きた照明の明滅。そして、部屋のどこかを素足でペタリと歩くような、謎の足音。


 もしこれらが紅葉の用意した演出でなかったとするなら、どう解釈をすれば良いものなのか。


 今紅葉が言ったように、怪談話に惹き寄せられた幽霊たちの仕業であったとすれば、一人残らず全員がここまで落ち着きを保ち続けていられるのが信じられない。


「さて、見えないギャラリーも増えて参りましたので、更に怪異の深淵しんえんへと沈み込んでいきましょうか。……また暫くはわたしの集めた怪談をいくつか聞いていただきたいと思います」


 揺れていた紅葉の身体が、ピタリと動きを止めた。


「次にお聞かせするのは、ある男性の方が体験なされた食べ物に関わる怪異です。普段当たり前にされる食事という行為にも、感謝を忘れれば見えざる存在は魔の手を伸ばしてくるものなのだと、そんなことを教えてくれるようなお話です」

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