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怪談遊戯~紅葉語り~  作者: 雪鳴月彦
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第十五話:夜の鳴き声

 場堂の話が終わると、次は五秒程度の間だけを空けて若い男の声が聞こえてきた。


「では、次は僕の話を聞いてください。三年前まで飼っていた犬に関わる話で、恐いとは違うんですが、僕としては人生で唯一体験した不思議な出来事なんです」


 名乗ることをしなかったため、名前を知ることはできなかったが、声の感じからしてまだ二十歳前後くらいだろうか。


 好青年といった雰囲気の声音に、若干の幼さが含まれているのが聞き取れた。





 僕は二年前まで実家で暮らしていたのですが、その実家で十年以上ですかね、犬を飼っていたんです。


 トムという名前のビーグルで、僕が家を離れる一年前、つまりは今から三年前に、老衰で亡くなりまして。


 ペットと言うより、もう普通に家族同然の存在でしたから、母と姉は酷く悲しんで泣いていましたし、正直僕も涙を流してしまいました。


 それで、トムの亡骸なきがらをどうしようかと家族で話し合った結果、いつも側にいられるようにと、庭の隅に埋めることになったんです。


 そうして、父が庭に穴を掘ってそこへトムの亡骸を入れ、家族全員で手を合わせて供養をしたんですけど……それから一週間後くらいでした。


 夜中に、犬の鳴く声が聞こえてきたんです。


 深夜一時くらいでした。庭の方から、クゥーンっていう犬が困った時にあげる声ですね、それが十分くらいずっと聞こえてきて。


 何だろうとは思ったんですけど、時間が時間で眠かったのもあって、初日は特に確認もしないまま、また寝てしまいました。


 それで、翌朝家族にその話をしてみたら、全員が同じ鳴き声を聞いていたって言うんですよ。


 でも、わざわざ外を確かめるのも億劫おっくうだったからと、誰も起きたりはしなかったと。


 どこかの犬が逃げだして、たまたまその辺で鳴いていたのかな。


 そんな結論を皆で出して、その場は丸く収まったんですけれど、その鳴き声、夜になると毎晩聞こえてくるようになりまして、それもいつも決まった時間、深夜の一時くらいにです。


 一週間くらいは家族全員耐えていたんですが、さすがにうるさいと父が痺れを切らしまして、鳴き声がし始めたのを確認して一度庭へ出ていったのですが、どういうわけか父が外へ出た途端、ピタリと鳴き声が止んで静かになってしまいまして。


 どういうことかと訝しみながらも、静かになったのならそれはそれで良いかと、父は家の中へと戻ってまた寝たそうなのですが、結局静かになったのはその時だけで、次の日になればまた同じ鳴き声が聞こえてくる。


 これはさすがに何かがおかしいと、その頃になると家族皆が気がつき始めて、日中に母と姉が庭を調べてみたら、トムを埋めた場所、ちょうどその土の上に、虫が湧いているのを発見したんです。


 ……家族で相談してトムの亡骸を庭へ埋葬したのは良いものの、全員がそういうことに関しては素人だったんですよね。


 トムを埋葬する際、埋めるために掘った穴が浅すぎたんです。


 調べてみたら、ペットを埋葬する際には三メートルくらいは穴を掘った方が良いという情報もあるくらいだったのに、僕たちが掘った深さはその半分もないくらい。


 それで季節も八月初旬でしたから、虫が湧いてしまうのも普通にあり得た結果だったわけでして。


 それで、家族皆思ったんですよ。


 あの毎晩聞こえてくる犬の鳴き声は、死んだトムが僕たちにこのことを知らせようとしていたんじゃないかって。


 人間だって、自分の死体に虫が湧いてそれが土の上にまで出てきていたなんてなったら、嫌ですもんね。


 それで、父親が新しくちゃんとした深い穴を掘って、どうにかトムをそっちの穴へ移してくれたら……本当にその日を境にですよ、毎晩聞こえ続けていた鳴き声がピタリと聞こえなくなったんです。


 トムもこれでやっと、安心して眠りにつけたのかな。


 そんな風に思うと、もっと早く気づいてあげられなかったことに申し訳なかったなという気持ちが湧いてきてしまいました。


 ……こんな体験を、過去にした。


 そんな話でした。以上で終わりです。

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