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怪談遊戯~紅葉語り~  作者: 雪鳴月彦
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第十三話:フィギュア

 私の部屋には、大体……百種類くらいですかね。買い集めたフィギュアがありました。


 世間的にはあまり良い顔をされないのはわかってはいるつもりですが、俗に言う美少女系のフィギュアがほとんどでして、可愛いアニメキャラをコレクション棚に並べて眺めているのが好きだったんです。


 結婚もしておりませんでしたので、仕事が終わると真っ直ぐ家に帰り、一人で好きなゲームをしたりアニメを観たり、漫画を読んだりと、気ままに趣味優先の暮らしを続けていたのですが、ある日、ネットオークションのサイトでずっと欲しかったフィギュアが出品されているのを見つけたんです。


 そのフィギュアは、もうかなり以前に数量限定で発売されたレアなアイテムで、当時はまだ学生だった私にはとても手の出る値段じゃなくて諦めていたフィギュアだったんです。


 なので、その出品を見つけた瞬間、これはきっと運命だなんて思いましてね、即座に入札し落札をしました。


 それから一週間程が過ぎた頃でしたでしょうか、そのフィギュアが家に届きまして。


 早速さっそく開封して眺めてみたのですが、出品者もかなり大切にしていたのか中古とは思えないくらい状態の良いものでした。


 満足した私は、埃が被らぬようにとすぐにフィギュア用のケースへ収め、コレクション棚の一番目立つ場所へそのフィギュアを飾ることにしたんです。


 そうして、また普段の生活を続けていたわけですが……どういうわけか、そのフィギュアを飾った頃から、部屋にいると頻繁に人の視線のようなものを感じるようになってしまいまして。


 アパートに一人暮らしで、同居人もいませんでしたから、そんな他人の視線に晒されるような環境ではないにも関わらず、何故だか誰かに見られているような気がして落ち着かなくなることが頻繁に増えてしまって。


 何だろうな、気のせいなのは間違いないだろうけど、どうして急にこんな

おかしな感覚がするようになったんだろう。


 そんなことを自問しながら、最悪病院に行って検査を受けなくてはいけないタイプのものかと疑うくらいまで疑心暗鬼になった頃、ふとしたきっかけでその視線の正体に気がつくことになってしまったんです。


 仕事を終えて帰宅したある日の夜、私は普段から使っているデスクに座りながら鏡を見ていました。


 そのデスクのちょうど正面、つまりはデスクの前に座る私の真後ろにコレクション棚が置かれていて、たくさんのフィギュアが陳列してあったわけなのですが、ふと何気なく鏡に映る自分の背後を見たら、その並べてあるフィギュアたちが全て……私のことを見つめていたんですよ。


 フィギュアってそれぞれ顔の表情が違いますし、目線が向いている方向も様々ですから、全部のフィギュアが全く同じ場所を見ているなんてあり得るわけがないんです。


 実際、これまでに何度も鏡越しでコレクション棚を眺めたことはありましたが、当然ながらフィギュアたちが自分を見ているなんて状態は一度もなかったんです。


 私は驚いてすぐに振り返りました。


 でも、その時にはもう普段と変わらない光景があるだけで、どのフィギュアもそれぞれ別の方向を向いているだけでした。


 当然中には飾った角度の都合で私の方を見ているものもありましたけど、それは別におかしなことではないし、自分もわかっていることでしたから。


 またすぐに鏡に顔を戻して確認してみても、ほんの一瞬前に見えた光景は一変し、いつもと変わらない普通のコレクション棚が映っているだけ。


 こっちを見ているフィギュアなんて、初めからそういう角度で置いておいたもの以外は一つもありませんでした。


 疲れてるのか……。


 そう思いながら、私がふっと肩の力を抜いて気を緩めた刹那に、今度ははっきりと見てしまったんです。


 元に戻った景色を映す鏡の中で、例のオークションで落札したフィギュアだけが、一度だけゆっくりとまばたきをしたんです。


 驚きで身体を硬直させた私は、暫しそのフィギュアから目を離すことができなくなりましたが、不可思議な現象が起きたのはそれっきり。


 その後暫く、私は視線を逸らせずにいたのですが、フィギュアが動くことはもうありませんでした。


 念のため言っておきますが、私の集めていたフィギュアは全て、可動式のものではありません。


 電池で動くとか、関節が曲げられるとか、そういう仕様のものは一切ありませんでした。


 私はその後、この落札したフィギュアだけはすぐに手放しました。


 だって、あのフィギュアを部屋へ迎えてからおかしな感覚に襲われるようになったわけですし、実際に動くところまで目撃してしまいましたから。


 ……あのフィギュア、たぶん何かの魂が入り込んでいたんじゃないのかなって、思うんですよ。


 それが、部屋に飾っていた他のフィギュアたちにも影響を与えて、あんな不気味な現象を引き起こしたんじゃないかって。


 安い値段で出品されていたのも、前の持ち主が一刻も早く手放したい理由があったからだったのかな、なんていう邪推もしたりしていますけど。


 元々はどんな経緯があって、あのフィギュアが世渡りを始めたのかは知る由がありません。


 でも間違いなく、今も誰かの手に渡りながらあのフィギュアはどこかに存在しているはずです。


 私はショップへ持ち込んで売却しましたので、安い値段にはならずに済んだのが、唯一の救いでしたけどね。

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