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怪談遊戯~紅葉語り~  作者: 雪鳴月彦
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第十二話:虫取り

「……次は、尾野高おのたかさんという、東北在住の五十代男性から聞いた、幼少時代に体験した少し気味の悪いお話をしましょう」





 尾野高さんが生まれ育ったのは、四方を山に囲まれた自然豊かな村だったそうで、実家は農業をして生計を立てていました。


 長男の尾野高さんは小学生の頃から農作業を手伝い、将来は家を継いで農業をやるようにと、両親や祖父からよく言われていたのだそうです。


 そのためなのか、祖父は父親以上に尾野高さんを可愛がり、仕事が暇な時などはよく遊び相手になってくれていたと言います。


 ある夏の昼下がり、まだ小学三年生だった尾野高さんは、祖父と一緒に近所の山へ虫取りに出かけました。


 カブトムシやクワガタ虫がよく集まるクヌギの木が密集する場所があり、毎年そこで虫取りをして遊ぶのが恒例になっていたそうです。


 その日も、クヌギの木へ到着した尾野高さんは、祖父と競争してカブトムシ探しをして遊び、夢中になって木々の間を歩き回っていた。


 そうして三十分程が経過し、それなりの収穫を得て満足しかけていた尾野高さんは、


 おーい、ミヤマクワガタがおったぞぉー。


 と、祖父の呼ぶ声を聞いて一目散に駆けだした。


 正直なところ、わたしはクワガタ等には興味が薄く、知識も乏しいのですが、当時の尾野高さんはそのミヤマクワガタというのが一番のお気に入りだったそうなのです。


 それが見つかったと言われれば、黙ってなどいられない。


 興奮気味になりながら急いで祖父の元へ向かった尾野高さんは、嬉々としながら祖父の捕まえたミヤマクワガタを受け取り虫かごへと入れた。


 尾野高さんの虫かごと祖父の虫かご、それぞれに充分な数の昆虫が採取できている。


 これだけ捕れたらもう良いだろう。


 そろそろ家へ戻ろうか。


 祖父にそう促され元気に頷いた尾野高さんは、その祖父の顔を見上げた瞬間に、あれ? と眉をしかめた。


 自分を見て笑う祖父の顔。そのこめかみの辺りに、黒くツルツルした毛虫のような形の虫がくっ付いている。


 それも片方だけでなく、左右両方のこめかみに。


 何だこの変な虫?


 その虫は、尾野高さんが見ている前でウネウネと這いながら、祖父の耳へと入ろうとしているのに気づき、慌てて祖父へと声をかけそのことを知らせた。


 だが、祖父は自分の顔に付いているその虫に全く気がついていないようで、頭に虫が付いていると勘違いをしたのか髪の毛を払っている間に、黒い虫は二匹とも祖父の耳の中へと潜り込んでいってしまった。


 しかし、驚き口を開けながら見上げる尾野高さんを、祖父は何事もないかのように笑って見つめ、「そんじゃあ、帰るか」と手を引いて歩きだしてしまう。


 大人の小指くらいはある虫が両耳に入り込んだのに、気がつかないなんておかしい。


 そう思いながら、帰りの道中何度も祖父の耳を気にし見上げていたが、その後尾野高さんが知る限り黒い虫が外へ出てきたことは確認できなかったという。



 それから僅か一週間後。


 あれほど元気だった祖父が突然倒れ、亡くなった。


 死因は脳梗塞のうこうそくだったそうですが、尾野高さん、大人になった今でも祖父の死んだ本当の原因はあの黒い謎の虫だったのでは……と、そう疑うことがあるそうです。

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