第十一話:会いに来てよ
続いてのお話は、仮名になりますが、鏡花さんという方が高校一年生の時に体験したと言って、聞かせてくれたお話になります。
鏡花さんには、小学三年生の頃から中学二年生の夏まで、ずっと仲の良かった友人がいたそうです。
良かった、とはどういうことかと言いますと、その友人は中学二年生の夏休み、家族旅行へ出かけた際に事故に遭い、お亡くなりになってしまったんですね。
旅行先へ向かう途中、父親の運転する車が高速道路で事故を起こしてしまい、一家全員が死亡するという、何とも痛ましい事故だったようで、鏡花さんもかなりショックを受けたと言いました。
それから二年程が過ぎたある夏の夜。
高校一年生になった鏡花さんは、夕食の後、家のリビングに座りながら携帯電話を弄っていました。
すると突然、誰かからメールの着信が入った。
ん? 誰からかな。
学校のお友達が連絡をしてくることなどは珍しくもなかったため、特に訝しがる風でもなくメールを開いた鏡花さんは、その差出人を見た瞬間、驚きに息を詰まらせた。
<久しぶり鏡花。全然会いに来てくれないからつまんないよ。また前みたいにさ、一緒に喋りたいな>
差出人の名前は、無表記。
しかし、そのアドレスを見て、鏡花さんはこのメールの送信先が二年前に亡くなったはずの友人のものだとすぐに気がついた。
どうして……。
既に友人の携帯は解約がされているだろうし、誰かが悪戯で送信してくるとはちょっと考えにくい。
これはどういうことなのかと、打ち込まれた短い文章を凝視していると、お風呂に入っていた姉がリビングに現れ、鏡花さんへ声をかけてきた。
ねぇ、お姉ちゃん。これ、二年前に死んだ友達からメールがきたの。どういうことだと思う?
すぐに事情を説明し、助けを求めるように携帯画面を姉の方へ向けると、その画面を覗き込んだ姉は、すぐにその表情を曇らせ呻くような声を漏らしてきた。
「……え? 何これ、気持ち悪い。不幸のメールみたいなやつ? 削除しておきなよ」
そう告げられて、何を言ってるんだろうと不審に思いながら携帯の画面を自分の方へ戻した鏡花さんは、そこでまた驚きで身を竦ませることとなった。
たった今、姉に見せるまではきちんとしたメール文だった文章が、全て意味を成さない記号の羅列へと変貌してしまっていた。
そんな馬鹿なと送信アドレスを確認するも、そちらも本文と同じような状態に文字化けを起こしていて、つい数秒前までの画面とは似ても似つかないものとなってしまっている。
正直、鏡花さんは気持ち悪いと思ったそうだが、その直後にふとある考えが頭を過った。
もうすぐ夏休み。友人が死んでしまったのも、二年前の今頃。
葬儀後は、何度かお墓参りに行ったきり、友人が生きてた頃を思いだして悲しくなるからと、鏡花さんは足を運ぶことを控えていた。
また来てほしいって、そういう意味なのかな。
本当にまた会話ができるのなら、自分だって話したいことは数えきれないくらいある。
それはたぶん、友人も同じなのかも。
何となく、そう思い浮かんだ鏡花さんはこの次の日、学校が終わると友人のお墓へお参りに行った。
そしてその日の夜、もう一度友人から届いたメールを見てみようと受信フォルダを開いてみると、何故か届いていたはずのそのメールは、消えてなくなっていたそうです。
そんな、少し切ないお話を聞かせていただきました。




