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怪談遊戯~紅葉語り~  作者: 雪鳴月彦
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第十話:ハンドクリーム

 ……これは、わたしが直接ではなく、わたしの知り合いがこんな話を聞いたことがあるよと言って教えてくれた、ある母娘に纏わるお話です。


 母親は、沙紀さきさんとでもしておきましょうか。


 沙紀さんには、中学生の娘さんがいたそうなのですが、ある冬の朝、学校へ向かう途中交通事故に巻き込まれ帰らぬ人となってしまった。


 雪の残る道路でスピードを出して走行していた車がスリップし、不運にも側にいた娘さんを跳ね飛ばしてしまい、即死だったそうです。


 その娘さんが亡くなって、三ヶ月が過ぎた頃。


 ほんの少しではあるものの、ようやく娘を失った喪失感から立ち直ろうと気を持ち直し始めていた沙紀さんは、ふとあるおかしなことに気がつきました。


 沙紀さんは乾燥肌で、普段からよくハンドクリームを愛用していたというのですが、どうにもその減るスピードが速いように感じ、気になった。


 娘がいなくなり、今は旦那と二人暮らし。旦那はハンドクリームを使うようなタイプの人ではない。


 ……気のせいだろうか。


 そう最初のうちは思うようにしていたらしいのですが、その後も意識して使っていると、やはり自分一人で使用するスピードの減り方ではないように感じる。


 念のためにと旦那へ確認を取ったりもしてみたが、予想通りと言うべきか、ハンドクリームなんて蓋を開けたことすらないよと、あっさりと言葉を返されてしまうだけ。


 どうしてこんなに減るのか。まさか、成分の関係で勝手に蒸発でもしているんだろうか。


 そんなことまで考えながら、ずっといぶかしんでいたある日、沙紀さんはハンドクリームの蓋を開けた瞬間、おかしな跡を発見した。


 ハンドクリームの白い表面。そこに、細い指先でクリームをすくったような一筋の跡が残されている。


 自分の指と重ねてみても、どうにもサイズが違い小さい。


 旦那はもっと指が太いし、これは何? どういうこと?


 困惑しながら暫しハンドクリームを凝視していた沙紀さんは、そこでやっとある可能性に思い至る。


 このハンドクリームは自分以外にももう一人、共有して使っている家族がいたことを思いだした。


 今はもういなくなってしまったから、そのことを失念していた。


 亡くなった娘さんは、沙紀さんと同じ乾燥しやすい体質で、よくハンドクリームを貸してあげていた。


 そのことを思いだして、沙紀さんはクリームが減る原因はそういうことだったのかと妙に納得したのだという。


 それからは使いやすいようにと、ハンドクリームを娘さんが使っていた部屋へ置いておくようにしたらしいのですが、その後は少しクリームが減ったような痕跡があったものの、それを最後にこの不思議な現象は起こらなくなったそうです。


 こっそり使っていたのがばれてしまい恥ずかしくなったのか、それとももうあちらの世界へ行ってしまったのか。


 真相はわかりませんが、たぶんそのどちらかじゃないのかなと、どこか寂し気に笑いながら、沙紀さんはそうおっしゃっていたそうです。

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