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怪談遊戯~紅葉語り~  作者: 雪鳴月彦
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第七話:滝に溺れる

 私は以前、趣味で全国の観光地等をよく巡っていたのですが、北陸にある滝を見に行った際にとても不気味で不思議なモノを目撃したことがあるのです。


 あれは、今からだと……もう八年くらい前になるでしょうか。


 十月の終わり、晩秋といった時期に一人旅を決行しまして、その滝へと足を運んだんです。


 観光地と言えば観光地なのですが、そこまで有名でもないというか、まぁ知っている人は知っていると言った程度の知名度の場所です。


 なのでちょうどその日は、他に観光客等はほとんどおらず静かに散策を楽しむことができていました。


 お昼頃には目的の滝へ到着して、私は秋の終わりを目前に控えた山々の風景を写真へ収めたりして楽しんでいたのですが、ここまで来たのだから当然滝の写真は撮って帰らねばと、構えていたカメラを滝の方へと向けたまさにその時に、おかしなモノを見てしまいまして。


 カメラのファインダー越しにですね、滝の上方を覗いていましたら、その、流れ落ちる水の奥から、まるで慌てて暴れるように上下へ揺れる人の腕が二本、突き出ているのが確認できまして。


 それが滝の速い流れに乗って、一気に下の滝壺へと落ちていったんです。


 驚いてすぐ柵越しに下を確認したのですけれど、いつまで経っても人らしきものは浮いてこない。


 これは水底へ沈んで浮いてこれなくなっているのか、警察に連絡をするべきか。


 このような場面に遭遇するのは初めてのことでしたので、私もどうすれば良いものかパニックになりかけてしまいまして。


 人気のない周りを見回しながら、おろおろとしておりましたら、滝の上からですね、またさっきと同じ二本の腕が、ばたばたと上下へ揺れながら落下していくのを見てしまいまして……私、その瞬間になってようやく、あ、これはひょっとするとまともではないモノだなと思い至りました。


 それで慌てて荷物を抱え、逃げるように下山をしたんです。


 ですがやはり、その後数日間は悩みました。


 もしあれがちゃんとした生きている人間だったら、私は落ちた二人を見殺しにしたことになるのではないかと。


 しかし、それから何日が経過しても、その滝から遺体が見つかったというようなニュース等は、一切聞かなかったんですよね。


 ……今になって思ったりしているのですが、滝から落ちていったあの腕がばたばたと上下に揺れていたのは、助けを求めたり慌ててパニックになっていたからではなく、ひょっとすると、私のことを必死に手招きしていたのではないかな……と、そういう風にも受け取れる動きだったように感じるのです。


 流れ落ちる水の中から必死に両腕を振って、お前もこっちへ来いと……何かが呼んでいたのかもしれません。


 そして今も、あの滝を訪れる人をいざなうために、何度も滝壺へ落下しながら手招きを続けているのでは。


 そんな風に、私は思ったりしています。





 こんな体験を、私は過去にいたしました。ご静聴いただきありがとうございました。

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