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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その50 SNS新規約

作者: 天城冴

根拠もなく専門家でもないにもかかわらず様々な発言をSNSに投稿してきたハシゲン・テツ。今日もロクに知識もないことに大上段に構えた文章を投稿しようとしたが…

ニホン国時間23時 西のとある都市の高層マンションの一室。熟年男性が机に向かって、パソコンの電源を入れていた。

「さてと、今日もSNSに書き込むことにするか。まめに更新しておかないと世間から忘れ去られてしまうからな」

部屋の主、ハシゲン・テツは新聞、雑誌、ネットニュースなどをざっと読んで、話題の記事をチェックした。いくつか盛り上がりそうなものを拾い上げるが、ほとんど、事前知識や教養不足のものばかり。だが、掘り下げて調べようともせず、思いついたことを面白く書くことにだけ集中した。

「何、よく知らない事だろうが、曖昧な聞きかじり知識だろうが、さも正しいことのように強い調子で断言しときゃいいんだ。どうせ、ロクに検証なんかしやしない、サヨクどもが騒がしいだけだ。それより、注目されなくなって、講演会やら、出版の話が途絶えることの方が怖い。なにしろ、本業のほうがまるっきりだし、頼りにしていた政党の顧問も辞めざるを得なかったし…うん?」

文章をアップしようと、サイトに接続した途端、警告文が目に入った。

「“社の方針の変更とニホン国における法改正により、新規約が発行されました。規約への同意がないとお使いいただけません”か。この会社は確かトップが変わったんだっけ。で、言論の自由とかが変わるとか言ってたな。それと侮辱罪か、まあニホンの侮辱罪なんて俺たち権力にいたような側が有利になってるんだろう、どうせ。訴訟でもなんでもやってやる、俺は弁護士だし、なんとかなるだろう…とりあえず同意しておこう」

と、長々と表示された規約をよく読まずに飛ばして、同意にチェックして、先に進んだ。

 いつものように文章をアップしたが、

「あれ?終わらない?」

昨日と同じように手順通りにしたはずなのに、首をかしげているハシゲンの前の画面から警告音が発せられた。

“ピー、ピー…。文中に曖昧情報、誤解を招く表現多数。その情報の真偽を確認できないという表現なし、さらに攻撃的、抗争を誘発する文言を含む、違反!違反!”

「な、なんだと、どういうことだ?違反って、昨日まではちゃんとできたぞ、なんで、こんな」

驚くハシゲンにおかまいなしに画面の表示は続く。

“…投稿者の以前の投稿文を精査、…上記のような文章をたびたび投稿いる。さらに投稿者の登録情報から社会的影響力のある人間で有ると判断…、社会的な混乱を招き、侮辱罪を悪用する恐れあり。…投稿者の以前の言動を調査、…社会的弱者を威圧する行為を多数行ったこと、行政の長としてのあるまじき言動…、よって今回の違反のみでも強制排除の対象とみなせる。さらにその影響力そのほかを加味し、重大違反者と認定”

「ど、どういうことだ。なんだよ、俺が何をしたというんだ!」

ハシゲンはパソコンに向かって怒鳴ったが、当然何の反応もない。

「ちょっと、いい加減なことを断言しただけだろ!保健所やら学校の改革がうまくいかないのは、そのウイルスの蔓延や民間校長だのがドジッたせいだ!俺のせいじゃない!…生意気な女子高生に世間の厳しさを教えてやったのが悪いのか!」

と、いいわけじみたことを言い散らすと

“…、以上の反応より反省なし、強制排除決定。完全排除に向けて規約に基づき第二段階に移行“

「な、何?完全排除?」

と、ハシゲンがつぶやくと同時に

カシャ、カシャ

指がキーボードを勝手に叩いていた。

「お、おい、なんだよ、なんなんだよ。いったいどういう規約なんだよ!」

彼の言葉と裏腹に彼の手は彼の意志とは関係なく文章を作成していく。

“今まで、不適切な言動を多数行い、大変申し訳ありませんでした。私の言動により不利益をこうむり、不愉快な思いをされた方々に深くお詫びいたします。また、虚偽の発言、よく知りもしないことに対して断定的な発言をしたことで社会的混乱を招いたこともあわせてお詫びいたします。私の犯した罪を償うため、また二度とこのようなことがないよう自ら処置をいたします…以上の文章を最後に投稿”

文章をみて、ハシゲンは目を剥いた。

「しょ、処置?処置って!」

“第二段階の文章投稿終了、規約に基づき第三段階に移行”

「この規約って、ま、まさか、重大な違反者は使用できなくなるだけじゃなくて」

青くなったハシゲン。だが、彼の手足はもはや彼の思い通りに動かせなかった。机から立ち上がり、窓の方に近づいていく。

「こ、この世から消し去るっていうのか!ど、どういう仕掛けなんだ!ま、まさかあの投稿サイトの新CEOが後押ししていた研究ってのは!」

喚くハシゲンの体はすでに窓のそば。手が窓のカギをあけ、ベランダに一歩踏み出している。

「こ、ここから落とそうっていうのか!嫌だ、俺はまだ死にたくない!誰か助けてくれ!」

深夜の高層マンションの最上階のベランダ。周りに人は誰もいない、家族も誰も起きてこない。

「悪かった、反省するから、助けてくれー」

ハシゲンの叫びとは裏腹に彼の体はベランダから身を乗り出し

「ぎゃああああ」

彼の悲鳴も体が地面に激突した音も聞いている人間はいなかった。

だた、部屋に残されたパソコンの画面から

“第三段階終了。完全排除に成功。次の対象、ガワゼ・ナンミ自称映画監督の処置に移る”

と機械的な音が響いていた。


どこぞの国では、トップが国会で嘘をつこうと、法廷で黒塗りの文章を証拠として行政がだそうと放置したわりに、SNSなどの投稿での侮辱罪とかが成立したらしいですが、大丈夫なんでしょうかねえ。判断も定義もすべて曖昧なまま、逆手をとってトンデモナイ言いがかりをつけられそうなんですけどねえ、権力者も庶民も。

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