33週目.人命救助
俺とユイは数十年前に来ているらしい。
今回は人命救助の仕事だ。
再生の繭は未完成だが使うしかない。
治癒の代償に年齢が若くなるのは消せなかったが、魔力は少量で平気になった。
「コータ、助ける人は2人なんだよね?」
「うん。そうみたいだね」
「霧が凄いけど見つかるかな?」
俺達の周りは霧が発生していて、視界が悪かった。
「うーん。とにかく探そう」
「うん!」
俺は周りを見渡す。
両サイドには大きな岩壁がある。
多分俺達がいるのは崖の下。
救助が必要な人は崖から落ちたみたいだ。
「ユイ、霧が凄いから離れないようにね」
「はい」
俺とユイは霧の中を探すが全く気配がない。
今回の仕事は色々ややこしい。
クシカーロは救助した2人を誰かに預けろと言った。
誰に預ければいいか聞いたが答えられないらしい。
この選択をミスったら最悪の事態になるか聞いたが、それもクシカーロは答えてくれなかった。
多分なるのだろう。
安定ならラドニーク、次点でゴフェルかコングだ。
「コータ!」
「ん?」
「ここ、なんか変だよね」
俺はユイに近づく。
ユイの言う通り何かが変だ。
この場所だけ霧も発生していないし、見た目は他と変わらないがなんか違和感がある。
「ちょっと調べよう」
「うん」
俺とユイは周辺を調べた。
俺は岩の壁に触れる。
「え?」
手が壁をすり抜けた。
勢いでそのまま壁の中に入ってしまった。
「なんだここ」
壁の中は大きな空間になっていた。
洞窟などの岩や土ではない。
金属製の床と壁で完全に人工物だ。
明かりもついているし、何かの器具のようなものが大量においてあった。
「コータ!」
外からユイの声が聞こえる。
「ユイ、壁の中に入れた!」
「コータ!どこ行っちゃったの?」
「壁の中!!」
俺の声はユイに届いていない。
俺は壁の中から出て、ユイを呼ぶ。
「ユイ!」
「コータ!どこ行ってたの?」
ユイは不安そうな顔をしていた。
やっぱり声が届いていなかったみたいだ。
「壁の中に入れた。見て驚くなよ、すごいぞ」
「え?うん、わかった。」
俺はユイを連れて壁の中に入る。
「えー!!!すごーい」
ユイはものすごく驚いた。
俺を見て、すぐに平然を装ったが全然遅い。
「危険な物があるかもしれないから、一緒に探索しよう」
「うん」
俺とユイは壁の中の空間の探索を始める。
まず気になったのは、人型のロボットが大量にあった。
壊れているのか燃料が無いのか、オブジェのようにあちらこちらに倒れている。
中には武器を装備していて、返り血のような汚れが付いているロボットもいた。
サイズも大人・子供・2頭身など様々だ。
「マジックアイテムなのかな?」
「あーそうか。マジックアイテムか」
あまりにも近代的な雰囲気のせいでマジックアイテムに結び付いていなかった。
俺達は奥の部屋に進む。
奥の部屋には人が入れるカプセルのようなものが4台あった。
その中には中年の男性と女性が入っていた。
この2人が救助者だろう。
「コータ。この人達怪我をしてる」
「本当だな」
見てみると身体がえぐれている場所があったりしていた。
「これは回復させるマジックアイテムじゃないのか?」
俺はカプセルのようなものをタブレットのカメラを通して見てみた。
やはり回復させるアイテムみたいだが、魔力量が足りないせいで治療できなくて延命だけをしているみたいだ。
「ここに呼ばれた理由が何となくわかったな」
俺は2人を再生の繭に入れて回収した。
俺とユイはさらに奥の部屋に入る。
この部屋で最後みたいだ。
ベッドや机があり、誰かの私室のようだ。
ベッドの上にはこの部屋の主と思われる白骨死体があった。
白骨死体は身体の何割かが機械になっていた。
「…コータ、あれって」
「ユイ、ここは俺が見るから今まで見てた部屋を見てきてくれ」
「…うん」
ユイは部屋を出た。
俺は埃の被った机を漁る。
すると見たことないマジックアイテムとノートがあった。
再びタブレットのカメラを通して2つを見る。
「オオニシカズヒコの日記?日本人?なんか聞いたことがある気がするな…」
ノートを『鑑定』したら日本人の名前が出てきて驚いた。
この白骨死体は転移してきた人の可能性がある。
中身はボロボロだが、微かに日本語っぽいのが見えるが読むことはできない。
「マジックアイテムの方はホログラムオーブ?壊れてて使えなさそうだ」
ホログラムオーブは撮影した映像を立体的に投影するマジックアイテムらしい。
直せるか今度試してみよう。
俺はノートとホログラムオーブを回収した。
「ユイ!なんかあった?」
「ないー!」
俺は修理できるかもしれないのでロボットも数十体回収した。
壁の中から出ると、クシカーロがいた。
「コータ。どこに行く?」
「コングの所に頼む」
「わかったよ」
クシカーロは無駄な会話をしないようにしているのか反応が薄い。
「コングに俺のことを話していいのか?」
「うーん」
クシカーロは悩んでいた。
「コータに任せるね」
「いいのか」
「…うん」
どっちにしても、良い未来も悪い未来あるのだろう。
「念のため、ユイは先に帰してくれるか?コングの所には俺だけで行く」
「問題ないよ」
ユイは不安そうにしているが、口を出してこないということは納得してくれているのだろう。
「じゃあ時代はそのまま。場所だけ移動するね」
「頼む」
▽ ▽ ▽
目の前の景色が一瞬にして変わった。
前に来た時から数年は経っていると感じられる街並みに変わっている。
俺が作った家も数軒だが残っている。
少し歩くとコングの姿が見えた。
隣には木製の車椅子に乗ったベンジーとベンジーの奥さんがいた。
「久しぶりだな、2人共!あとそこのお姉さんは俺のこと覚えてるかな?」
俺が声をかけるとコングとベンジーは驚いていた。
「コータか?」
「ああ。久しぶりだな。2人共老けたか?」
「お前は変わらないな」
コングは俺を見て笑っていた。
「コング、ちょっと頼みがあってきた」
「どうした?」
俺が真剣な顔をしているからか、コングも真面目な表情に変わる。
俺はコングに案内され、冒険者ギルドマスターの執務室へ行く。
「それで頼みって?」
「このマジックアイテムに入ってる2人を保護してほしい」
「ん?」
コングは首を傾げた。
「2人は怪我をしていて、このマジックアイテムで回復させてる。いつ治るかわからないし、治療が進むごとに年齢が若くなる副作用があるんだ」
「そんなのがあるのか?」
コングは驚いていたが、コングのマスクも大概だぞ。
「どこまで若くなるかわからないから、2人の生活の支援もしてほしい。精神は若くならないはずだから子供とかになったら生活というか稼ぎとかが大変になると思うんだ」
「わかった。とりあえず2人は俺が預かろう」
コングは信頼してくれているのか、即答で承諾してくれた。
「俺はまた色々と出かけなくちゃいけないから、落ち着いたらまた来る」
「わかった。この2人は普通に生活させてればいいんだよな?」
「ああ。頼む」
コングは深く頷いた。
俺はコングの街を後にした。
「コータ。ありがとう」
俺の背後にクシカーロが現れた。
「これでとりあえずは良いんだよな?」
「うん。あの空間で回収したゴーレムとかノートとか預かってもいい?」
「え?」
「色々修理とかしたいのはわかるんだけど…」
クシカーロは申し訳なさそうに言った。
「わかった」
俺はあの空間で回収したものを全てクシカーロに渡した。
「色々選択させてごめんね」
「いいよ。俺に決めさせないと色々悪影響を及ぼすんだろ?」
「うん」
「まあこれくらいの仕事ならいつでもやるから」
「うん。ありがと」
クシカーロは視界から消え、目の前にユイが現れた。
「あれ?」
ユイが俺を見て驚いている。
「クシカーロが時間を止めてたんだよ」
「そうなんだ。びっくりした」
すぐに帰ってこないと思っていた俺がいて驚いたみたいだ。
「とりあえず仕事は終わり」
「うん」
「明日からは王都の連続殺人の捜査をしよう」
「がんばるよ!」
ユイは笑顔で答えた。
俺の選択が間違えてなければいいんだが。
あの2人をラドニークとゴフェルではなくコングに預けたのは理由があった。
ラドニークはクシカーロが言うには重要人物らしいから忙しくなると思う。
ゴフェルの所に人族は厳しいだろう。
オオニシカズヒコの日記があったから日本人に任せた方がいいと思い、コングを選んだ。
クシカーロの表情も暗くはなかったから大丈夫なはずだ。




