表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/76

29週目.お別れ会

今日の俺は気合が入っていた。


ユイと会える最後の日。

そしてコータの誕生日サプライズ。


今週の仕事を秒で終わらせて、ユイのために全力で準備をした。

『メッセージ』が使えるのでヤリネも来ることも確認した。


「完璧なはずだ。いつでも来い!」



俺の気合はまた空回りした。

もう夕方だ。

「冷静に考えたら、夕飯のタイミングで呼ぶよな」


タラララランラン♪タラララランラン♪


タブレットが鳴った。

俺はレッドホーミングのマスクを装着した。


「ディフィバースの世界にようこそ!」


目を開くと3人がいた。



▽ ▽ ▽



ここ数日はユイのためにいろいろ動いた。


ラドニークには俺が居ない間、ユイを気にかけてほしいと伝えた。

家は帰ってくるまで残しておいてくれるらしい。

さすが領主だ。

無償だとさすがに申し訳なかったので、過去に倒したモンスターの素材を渡しておいた。


ヤリネに話したときは大変だった。

ユイよりも泣いた。

ほぼ同世代のガチ号泣がこんなにきついとは思っていなかった。

最終的には納得してくれて、ユイを友として支えると言ってくれた。


そして俺は冒険者ギルドに来ていた依頼を大量にこなした。

俺が居なくなったあとユイが危険な依頼を受けないように、資金をたんまり稼いだ。

いつ戻ってこれるかわからないけど、心配は少し和らいだ。


家にヤリネがやってきた。

「コータさん。ラドニークさんがお酒を少し分けてくれました」

「おーそうか」

この世界のお酒は口に合わないが、ラドニークからの懇意はありがたく受け取ろう。


「コータ!ユーサク呼ぼうよ!」

ユイは待ちきれないようだ。


「本当にユーサクさんが来るんですか?タブレット越しじゃなく」

「ああ。そうだぞ」

ヤリネは『ディフィバース』を取得してから会っていなかったから、ユーサクと初対面だ。


「じゃあ、呼ぶか」

俺は『ディフィバース』でユーサクを呼び出した。


すると目の前にユーサクが現れた。

「おーやっとか」

「待ってたのか?」

「昼から気合入れっぱなしで少し疲れた」

ユーサクは首を回しながら言った。


「ユーサクさん!」

ヤリネが目を輝かせながらユーサクに近づいていく。


「おーヤリネ!直接会うのは初めてだな」

「はい!うれしいです」

ヤリネはユーサクの手を握った。


「ユーサク。今日の飯は?」

「今日は凄いぞ!みんなに今まで食べて人気だったものを全部用意した」

「「「おー!」」」

「じゃあ頼んだぞ」

「任せろ。異世界調理!」


ユーサクの周りにフライパンやら包丁が現れ、調理が始まった。


▽ ▽ ▽


今日のユーサクは本当に凄かった。

テーブルの上には、寿司・サーロインステーキ・餃子・牛タンなどが並べられていた。


「おいおい。こんなに食べれるか?」

「食べれるだろ。3人共、食欲凄いんだから」

ユーサクはニコニコしていた。


「じゃあ食べるか」

「うん!」

「はい!」

「「「「いただきます!」」」」

俺達は料理を食べ始めた。


ユーサクの料理はいつも通り最高だった。

俺達は楽しく会話をしながら食事を続けていた。


「ユーサク!」

ユイが何やらユーサクに合図を送っていた。

「了解!」

ユーサクがそう言うと、テーブルの上にショートケーキが現れた。

ケーキに乗っているプレートには[誕生日おめでとう]と書かれていた。


「ん?誰の誕生日なんだ?」

「お前だよ」

「え?」

「いろいろあってズレてるかもだけど、あっちでは今日は4月9日なんだ」

「まじか。ガチ誕生日じゃん」

サプライズで誕生日を祝われると恥ずかしくて正解のリアクションができなかった。


「コータ!おめでとー!」

「おめでとうございます!」

ユイとヤリネはニコニコで俺を見ていた。

「ありがとう」

俺は照れながらお礼を言った。


「実際はもっと歳を取ってるかもだけど、日本では30歳だ。30になった感想は?」

「うわー30かー。30ってもっと大人だと思ってた」

「そうだな」

「結婚して子供いて、とかいろいろ考えてたな」

「実際は俺は独身で、お前は異世界」

「人生って何があるかわかんないな」

「そうだな」

俺達はなぜかしみじみ語り合っていた。


「ユーサク!」

ユイがまた合図を送った。


「待ってて!持って来れるかわからなかったからさ、冷蔵庫に入れたんだよ。たぶん取り出せるはず」

コータがそう言うと小さな箱が4つ現れた。

ユーサクはそれをユイに渡した。


ユイはそれを受け取り、俺の元にやってきた。

「はい!誕生日プレゼント」

「え?プレゼント?」

俺は箱をユイから受け取った。


「ユイと相談して決めたんだ。開けていいぞ。冷蔵庫に入れてたから冷たいかもだけど」

ユーサクはどや顔で言った。


箱を開けると中にシンプルなデザインの腕輪が入っていた。

「腕輪?」

「ああ。ユイ、ヤリネにも渡して」

「うん!」

「え?僕のもあるんですか」

ヤリネは嬉しそうにしていた。

「4人でお揃いだからな」


ユーサクもユイも箱を開けて、腕輪を付けた。

俺とヤリネもそれを見て腕輪を付ける。


「なんで腕輪なんだ?」

「ユイが離れていても家族だよってわかるようにしたかったんだって」

ユーサクがそう言うとユイは少し照れていた。


「ありがとうな、ユイ」

「うん」

本当にユイは可愛かった。


「当然家族ってなったら、ヤリネの分もないとダメだろ?」

「あああああああ」

ヤリネは泣き始めた。

「おいー。泣くなよ」

ヤリネは俺達といると、幼児化がすごい。


「ユイ。何か言うんじゃなかったんだっけ?」

「うん」

ユイはもじもじし始めた。


「頑張ってお留守番するから、依頼頑張ってね」

「ああ。頑張るよ」

さすがに俺も泣きそうになった。


「あああああああああ」

「ヤリネ、泣き止め」


俺達は食事が終わるまで、話しつづけた。



▽ ▽ ▽



お別れ会兼誕生日会から1週間。

あと数分で石の日だ。


お別れ会以降は、ユイとたくさん過ごすことを意識した。

今日も依頼に一緒に行ったので、今は疲れて寝てしまっている。


明日ユイが起きた時、俺は居なくなってる。

ヤリネには家に寄ってくれとは伝えているがやっぱり心配だ。



時間になった。


「もう大丈夫?泣いてない?」

クシカーロの声が聞こえた。


「泣いてねーよ」

「そうだね。最後までちゃんと我慢してたもんね」

「うるさい」

さすがに30にもなって、泣いたいじりはダルかった。


「またユイと会えるんだよな」

「うん。絶対会えるよ」

「そうか」

「それに次会った時にはタイムリープについて話してもいいから」

「わかった」


俺は眠っているユイの頭を撫でた。

「必ず帰ってくるからな」

ユイはすやすや眠っている。


「じゃあ準備はいい?」

「ああ!」

俺がそう言うとクシカーロの声は聞こえなくなった。



「………。ん?」

全く景色が変わらない。


「クシカーロ?いつでもいいぞ」

俺はクシカーロを呼ぶが、景色は一向に変わらない。

「え?」


俺が戸惑っていると背後に気配を感じた。

「ん?」


振り向くとさっきまでユイが寝ていたところに誰かが寝ていた。

寝ている人物をよーく見てみると、その顔に見覚えがあった。


「ユイ?」

顔はユイそっくりだ。だけど身長も体格も全然違う。

ユイは5歳くらいだったが、目の前に寝ているユイは10歳くらいだ。


「まさか…」

俺はクシカーロのいたずらに気づいた。


あえて言わなかったんだ。

次のタイムワープ先にユイがいることを。

「クソーやられた」


クシカーロに怒りを覚えるものの、ユイにまた出会えたことのうれしさの方が勝った。


「んー。ん?」

ユイが目を覚ました。


「え?誰?」

ユイは居るはずのない人影に驚いていた。


「ただいま、ユイ」

「え!?コータ?コータなの?」

ユイは俺に飛びついてきた。


「遅くなってごめんな」

「あああああ!6年もお留守番頑張ったよー」

ユイは泣きじゃくっていた。


「6年か。ごめんな」

「よかったぁああー!帰ってきてくれたああ!」

俺はユイの頭を撫でた。


だけどユイは全く泣き止むことはなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ