28週目.ミックスフライ定食
元の時代に戻ってきた。
色々凹むようなことがあったが、ユイの寝顔に癒された。
ユイの寝顔を見ていると、ユイの呼吸が止まった。
「クシカーロ、どうした?」
俺がそう言うと目の前にクシカーロが現れた。
「コータに伝えないといけないことがあったんだ」
「まじか……」
クシカーロが伝えようとしている内容を俺はすぐに察した。
ユイとの別れだ。
「いつだ?」
「再来週には新しい時代に行ってほしい」
「わかった」
俺がそういうとクシカーロは驚いていた。
「いいの?」
「しょうがないだろ?俺にはやらなきゃいけないことがあるんだ」
「ありがと」
クシカーロは笑顔で俺を見た。
「ユイにはどう伝えればいい?」
「うーん。遠くに行くとか?」
「無理ないか?」
「次会う時に全部話してもいいんだけどねー」
「また会えるのは確実なのか?」
「うん。それは約束する」
「わかった。うまく説得する」
「よろしくね」
クシカーロはそういうと姿を消した。
「少し寝るか。起きたらユーサクを呼ぼう」
俺はベッドに入り、眠りについた。
▽ ▽ ▽
ここ最近の俺は本当にふがいない。
俺は珍しく落ち込んでいた。
先週、俺はベロニカを守れたのだろうか。
ベロニカの予知通り、謎の攻撃からベロニカを守ったつもりだが、すぐにこっちに戻ってきてしまったせいでどうなったかわからなかった。
「はぁー。料理以外も活躍したい」
タラララランラン♪タラララランラン♪
タブレットが鳴った。
「よし」
俺はレッドホーミングのマスクを装着した。
いつもの気絶をするような衝撃に襲われた。
「ディフィバースの世界にようこそ!」
いつものように女神の声でアナウンスが聞こえた。
目を開くとコータがいた。
そして画面越しに何度も見たことのある景色だった。
「あれ?帰ってきたのか?」
「ああ」
コータの表情が少し暗いように感じた。
「そうだ!ベロニカは?てか邪神は倒せたのか?」
「ユーサクが帰ってからいろいろあったんだ」
俺はユーサクから話を聞いた。
「まじか……。俺がベロニカを守れていれば」
「いや、邪神の攻撃は俺の魔法も消滅させた。消滅させなかっただけで十分だ」
「うん……」
「ベロニカも今は再生の繭の中で治療中だ。俺が必ず治すから、ユーサクは気負わないでくれ」
「すまん。ありがとう」
「あともう1つあるんだ」
「え?」
コータは言いづらそうにしていた。
「なんだ?」
「再来週の金曜日に別の時代に行く。だから来週の金曜日がユーサクがユイに会える最後の日だ」
「まじかよ。延ばせたりしないのか?」
「クシカーロに頼むことはできるだろうけど、それをすることでよくない未来になってしまうのが俺は怖い」
コータの表情は真剣だ。
俺は簡単に言ってしまった。
コータの背負っているものの大きさを知っているはずなのに。
「すまん」
「いや大丈夫。そこでユーサクに頼みがある」
「飯だろ?来週は盛大にやろう」
「ああ。ヤリネも呼んでな!だから2人が好きなものを頼む」
「任せろ!」
俺は良いメニューを思いついた。
「そういえば、ユイに伝えたのか?」
「帰ってきたら伝えようと思ってる」
「了解。それでユイは?」
「いまは冒険者ギルドの依頼を見に行ってもらってる」
「じゃあ今のうちに作っておくか。異世界調理!」
俺は異世界調理を始めた。
▽ ▽ ▽
「ただいまー!」
ユイが帰ってきた。
「あっ!ユーサクがいるー」
「いるよー。冒険者ギルドに行ってたんでしょ?」
「うん!でもいい依頼なかったんだー」
「そっかー」
ユイとユーサクは楽しそうに話している。
「ユイ。ちょっと話がある」
「なーに?」
ユイは俺の元にやってきた。
「実はな、次の次の石の日に俺は遠くに行かないといけないんだ」
「うん!」
ユイはよくわかっていないみたいだ。
「ユイには長い間お留守番をしてもらうことになる」
それを聞いたユイの表情が変わった。
「なんで!ユイも行く!」
「ダメなんだ」
「なんで!なんで!」
ユイの目に涙が溜まっていった。
「ごめん。でも連れていけないんだ」
「なんで?ユイも行きたいよ!」
「ごめん」
俺は頭を下げた。
「長い間ってどれくらい?」
「わからない」
「やだ!ユイも行く」
「連れていけないんだ。わかってくれ」
ユイの目から涙がこぼれた。
「もうコータなんて大嫌い」
ユイはそういうと家から飛び出していった。
「はぁー」
俺が落ち込んでいると、ユーサクがやってきた。
「本当にこういうの下手だよな」
「うるさい」
「俺がユイを追いかけるよ」
「ああ。頼む」
ユーサクはそう言うと家から出て、ユイを追いかけに行った。
▽ ▽ ▽
ユイは思ったより近くにいた。
追いかけるために外に出たものの、ここら辺の土地勘がないことを思い出して焦っていたから、近くに居てよかった。
「ユイ!」
振り向いたユイの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「おいで!」
そう言うとユイは俺に抱き着いた。
俺はユイが泣き止むまで、背中をさすり続けた。
「大丈夫?」
「うん」
ユイは少し落ち着いたようだ。
「さっきの話なんだけど、俺もコータもユイとは離れたくないんだよ」
「じゃあなんでユイを連れて行ってくれないの?」
「危ない依頼だからかな。ユイに怪我してほしくないんだ」
「ユイは強いよ」
「それでも俺とコータはユイが大好きだから、危険な目にあってほしくないんだ」
ユイは黙って下を向いた。
「ユイはこのままお別れするときまでユーサクの事を嫌いのままでいいの?」
「……いや」
「じゃあ仲直りしよ。お留守番を頑張ったら、コータもちゃんと帰ってくるから」
「ほんと?」
「うん」
コータの話では、いつになるかわからないがまたユイと会えると言っていた。
「じゃあさ。ユイにいい事教えてあげようか?」
「なーに?」
「来週の石の日がコータの誕生日なんだ」
「そうなの?」
「うん」
実際は転移やらなんやらでずれてはいるのだろうが、元の世界では誕生日だ。
「だから、お別れする前にコータに何かあげない?」
「プレゼント?」
「そう!ユイが考えたものを俺が買っておくからさ」
「ほんと?」
「うん」
ユイの心情はまだ複雑なようだが、コータの誕生日に関しては少し前向きになってくれそうだ。
「何が良いと思う?」
「うーん。何がいいんだろ」
俺とユイはコータの誕生日プレゼントの相談をした。
▽ ▽ ▽
ユーサクとユイが帰ってきた。
「ユイ、ちゃんと言いな」
「うん」
ユイは頷くと俺の元へやってきた。
「コータ。さっきは嫌いって言ってごめんなさい」
「いいよ。いきなりお留守番の話なんてしちゃったからだよな。ごめんね」
「ううん。お留守番頑張る。コータもユーサクもちゃんと帰ってくるんだよね?」
「ああ。何があっても帰ってくるよ」
「じゃあ頑張る!」
ユイの表情を見る限り、我慢して言ってるのが伝わった。
「ありがとう」
「うん!」
俺はユイを抱きしめた。
「仲直りは済んだ?」
ユーサクが声をかけてきた。
「うん!」
「ああ」
「それじゃあご飯にする?」
ユーサクがそう言うとユイは笑顔になった。
「うん!」
「今日はミックスフライ定食だぞ」
「なーにそれ」
「食べてからのお楽しみ!」
ユーサクはテーブルにエビフライとコロッケとチキンカツが乗った皿を並べた。
しっかり味噌汁と漬物も用意されていた。
「じゃあ3人で食べよう」
「うん!」
俺達は3人でミックスフライを食べた。
残りの時間を精いっぱい楽しみたいのか、自然と会話が多くなっていた。




