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27週目.後悔と決断

俺の頭の中に何かが流れ込んでいる。


目の前には暗い部屋で体育座りをして泣いている男性。


「つらい、つらいよ」

「なんでこんなことになっちゃったんだよ」


男性はずっと泣いている。

なぜか俺にはその男性の寂しさと後悔が伝わってきた。


「大丈夫か?」

俺は声をかけてみるが反応はなかった。


どういうことなんだ。

訳が分からない。


俺が戸惑っていると、目の前の光景がだんだんと薄れていった。


完全に消えると、俺の意識は再び遠のいた。



▽ ▽ ▽



目を開くとクシカーロが居た。


「倒せたのか?」

「うん。ありがと」

クシカーロは悲しそうな顔をしている。


「今俺が見てたのは何か知ってる?」

「うん。邪神の記憶だね」

「……邪神の記憶?」

クシカーロは悲しそうな表情のままだ。


「正確には邪神になる前の記憶」

「それについては話せるのか?」

「ううん。まだそのタイミングじゃないんだ」

「わかった。話せるときになったら話してくれ」

「うん。ごめんね」

クシカーロは申し訳なさそうにしている。


「俺もごめん」

「なにが?」

「邪神に街が消滅させられてしまった。俺が最初から本気を出していれば」

「うん。そうだね。でも一番悪い未来ではないよ」

「そうか……」

俺はなんも言えなくなってしまった。


クシカーロの言い方的に一番いい未来ではないことは確かだ。


目線を下に向けると、元の姿に戻ったガビクが倒れていた。

「死んでるのか?」

「うん。邪神の力は身体に大きな負担を与える。今回は封印が完全に解かれていなかったけど、耐えられなかったみたい。コータが殺したわけじゃないからね。あの姿になった瞬間に死ぬのは決まっていたんだ」

「ああ」


俺は自分の選択ミスを悔やんだ。

ガビクを助けられる未来があったのかもしれない。

そう思うだけで心が苦しくなった。


クシカーロが近づいてきた。

するとクシカーロは俺を抱きしめた。


「え?」

「自分を責めないで。少しだけど邪神の記憶の影響が出てる。自分を責め続けちゃうと元に戻れなくなっちゃう」

「ああ」

俺は動揺したが、クシカーロの優しさを感じた。


「ありがとう」

「ううん。元気出た?」

「う、うん」

クシカーロは俺に笑顔を向けてきているが、やはりどこか悲しそうだった。


「俺はこの後どうすればいい?」

俺はクシカーロに問いかけた。


「2人。街で生き残った人がいる」

「え?」

「ユーサクが守ってくれたんだけど全部は防げなくて、今は瀕死の状態」

「それって」

俺は思い当たることがあった。


「うん。ベロニカだよ。邪神のせいで身体の一部が消滅しちゃってる。それにソンブラは攻撃の衝撃で瀕死になってる」

「急いで回復魔法をかけないと」

「ソンブラにはそれでいいけど、ベロニカには回復魔法は効かない。消滅した部分に黒い靄がついているせいで回復魔法じゃ治せない」

「じゃあどうすれば?」

クシカーロは俺の目を見た。


「答えは教えられないけど、1つヒントあげる」

「頼む!」

「邪神から受けた傷は長期間魔力を注いで靄を消す必要がある。そして靄を消している間も身体は弱っているから生命維持をしないといけない。ちなみに獣人は魔力が少ないよ」

「は?まさか!?」


クシカーロは笑顔で口を開いた。

「あと今回のお手伝いは終わり。次の石の日に元の時代に戻るからね。今回は頑張ってくれたから、何でも1つお願いを聞いてあげるからね」

「この状況じゃお願いすることなんて1つしかないじゃんか!」

俺が叫ぶとクシカーロの姿はなかった。


俺はすぐに街があったところへ向かった。

そこには右足と右腹部が消滅しているベロニカと血だらけのソンブラが倒れていた。


俺はソンブラに回復魔法をかけた。

呼吸もだいぶ安定していた。


「こうしろってことだよな。未完成だから使いたくなかったんだが」

俺は再生の繭にベロニカを入れた。

「魔力を注ぐ必要があるのか」


再生の繭に触れて魔力を注ぐ

「ぐっ!まじか」

想像以上に魔力を吸われた。

「ベロニカの治療を獣人達に求めるのは難しそうだな」

俺はベロニカの入った再生の繭をインベントリに入れた。


「この後どうするか。誰に報告すればいいんだ?」

とりあえず俺は賛成派の街に戻ることにした。


風魔法を身体に纏って飛び立とうとした瞬間、目線の先に獣人の軍勢がいることに気づいた。


▽ ▽ ▽


獣人の軍勢はレガリオルが率いている賛成派の獣人達だった。


「コータ!どうなった」

「すまない」

俺はレガリオルに頭を下げた。


「どうしたんだ?てか街はどうした?ここら辺にあったはずだが」

「説明させてくれ」

俺は邪神との戦いについてレガリオルに話した。


「まさか……」

「すまない」

俺は再び頭を下げた。


「いやコータは悪くない。それでベロニカは?」

「いま回復能力のあるマジックアイテムに入れている。治すためには膨大な魔力を長期間注ぐ必要があるんだ。獣人で魔力が多い種族はいるか?」

「いや、いない」

レガリオルは首を横に振った。


「コータが大丈夫であれば、治療をしてくれないか?」

「いいのか?俺に預けて。いつ治るかもわからないんだぞ?」

「ああ。コータに頼むのが一番治る可能性が高い」

俺は考えた。


「ベロニカには妹や慕ってる人が多く居ただろ?どう説明するつもりだ?」

「英雄としてこの戦いを終わらせたことにする」

「本当に大丈夫なのか?」

「ああ。ベロニカの身内のケアは第一優先でやる。だから治ったらすぐに会いに来てくれ」

「わかった」

俺はまた頭を下げた。


「これからお前はどうするんだ?」

「ああ。長の集まりを再開する。邪神の話は伝えないが、今回の戦いについて共有をする」

「その方がいいかもな。邪神と言っても伝わらないだろう」

「それで中立派や反対派の意見を聞き、獣人達をまとめることにするよ。人間の国のようにな」

レガリオルの顔は寂しそうだったが、しっかり前を向いていた。


「俺はあと数日でいなくなる」

「元の世界に戻るのか?」

「そんなところだ。この地にいる間、教えられることや協力できることはするから」

「助かる」

レガリオルは頭を下げた。




▽ ▽ ▽




ここ一週間。

俺はレガリオルに元の世界での様々な国の在り方などを伝えた。

歴史や政治に詳しいわけではなかったからだいぶざっくりだが、少しは参考になっているだろう。


ソンブラは無事に回復したが邪神の影響なのか、身体に大きな傷跡が残ってしまった。

俺についていけないと察したのか、ベロニカを守れなかったことを悔やんでいるのか、レガリオル達の手伝いをしていた。

俺とソンブラは意思疎通ができないなりに話し合い、ソンブラはこのまま街に残ることになった。


そして俺は元の時代に戻る前に狸人族の住む島に来ていた。


村に行くとすぐにゾーエンがやってきた。

「コータ。大丈夫だったか」

「ああ。少し話させてくれ」

俺の表情を読み取ったのかゾーエンは真面目な表情になった。


俺はゾーエンに邪神との戦いについて話した。

そしてベロニカのことも。


「そうか……」

「すまない」

俺は頭を下げた。


「コータが謝ることじゃない。逆にベロニカをよろしく頼む」

ゾーエンも頭を下げた。

「ああ。任せてくれ」


ゾーエンは寂しそうな顔をしていた。

「俺が戦えたとしても、今の状況は変わらなかったんだろうな。それが悔しいよ」

俺はなんと返答すればいいかわからなかった。


「まあ狸人族は長寿だから、治ったらいつでも会いに来てくれ」

「わかった」

「ベアトリス達のことも任せてくれ」

「ああ。頼んだ」

俺は再び頭を下げた。



▽ ▽ ▽



狸人族の村を出ると、目の前にクシカーロが現れた。


「コータ。頼みは決まった?」

「ああ」

クシカーロは笑顔だった。


「このタイムトラベルにベロニカを連れていきたい」

「うん!わかったよ。再生の繭はインベントリに入れたままでいいからね」

「ああ。ありがとう」

「じゃあ戻るよ!」


瞬きをすると、見慣れた部屋にいた。

ラドニークに借りている家だ。

そしてベッドにはユイが眠っていた。




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