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27週目.いなり寿司

「よし!下準備はできた」


俺は今日作る料理の下準備をしていた。

コータは獣人達と交流をしてるはず。

いままでの流れを考えると、今回は大量の料理を要求されるはずだ。


「筋トレもあれから続けているし、今回は活躍できるはずだ」

筋トレというよりも、ダイエットに近い。

何もしてなかった男がいきなりムキムキになるのは無理だ。


「そういえばもうすぐコータの誕生日だな。また酒でも用意するか」

来月はコータの誕生日だと思い出した。

出来ればユイがいるタイミングで祝ってやりたい。


そんなことを思いながら、ソファに腰かけてテレビを付けた。


ニュースがやっていた。

「次のニュースです。都内の撮影スタジオで火災が発生し、撮影をしていた歌手の朝比奈さくらさんが無くなりました。朝比奈さんは……」


「あれ?この人って清水さんがマネージャーしてなかったっけ?」

俺は高校の同級生の清水さんのことを思い出した。

コータの葬式で話したときに、この歌手のマネージャーをしていたと聞いた気がする。

「大変だな。清水さんも……」



タラララランラン♪タラララランラン♪


そんなことを思っていると、タブレットが鳴った。

「おっ!きたきた」


俺はレッドホーミングのマスクを装着した。

いつもの気絶をするような衝撃に襲われた。


「ディフィバースの世界にようこそ!」

いつものように女神の声でアナウンスが聞こえた。


目を開くとコータがいた。

コータの後ろには獣人が2人。


「おー来たか」

「ああ。どういう状況?」

2人の獣人は俺を凝視していた。


「紹介するわ!こっちがキツネの獣人のベロニカ。もう1人はハイエナの獣人のガラマイアだ」

「どうも」

俺が会釈すると、ベロニカもガラマイアも会釈を返してくれた。


「そしてこいつがソンブラだ」

コータがそう言うと、影の中から真っ黒なキツネが現れた。


「うわ!モンスター?」

「俺がテイムした」

「はぁー。お前はいつも想像以上のことをしてくるな」

「ははは。だろ?」

コータのどや顔に少しむかついた。


「それで今回は何をすればいい?」

「今から邪神を倒しに行く!だからその前に飯を」

「了解。4人分でいいのか?」

「ああ。頼む!」


俺の予想は外れたみたいだ。

明日から大量に準備したものを処理する生活決定だ。

だけど奇跡的にキツネの獣人とキツネ型のモンスターに食べさせるには最適な料理を用意していた。


「今日は何だ?」

「いなり寿司だ」

「おー!ベロニカとソンブラは絶対この料理好きだぞ」

「え?どういうことです?」

ベロニカは困惑し、ソンブラは首を傾げている。


「元の世界のキツネが好物の食べ物なんだ」

「そうなんですか!」

ベロニカは嬉しそうに反応していた。


正直、油揚げをキツネが食べてるシーンを見たことない。

本当に好きなのか怪しい所ではあった。


「じゃあ作るよ!異世界調理!」


目の前にお米が入った大きなボウルが現れた。

俺がしゃもじを持つと、寿司酢とごまと刻んだ沢庵がボウルに入った。

それを俺はかき混ぜていく。


下準備をしていた油揚げが宙を舞っている。

しっかり炊いて、味がしみ込ませている。


混ぜ終わったお米を適度なサイズに丸めていく。

すると目の前に開いた油揚げが列を作り出した。


丸めたお米は油揚げの中に入っていき、皿の上に並んだ。


「「おお!」」

ベロニカもガラマイアは声を上げた。


「大量に作る想定で多めに油揚げを準備しちゃっててさ、あんまり余らせたくないから多めに作った」

「おう!残さず食うから安心しろ」

「助かる」

まだ家に4倍以上の油揚げが残っているとはさすがに言えなかった。


「2人も食べていいからね。手で食べて平気だから」

俺はベロニカとガラマイアに喋りかけると、2人は無言でうなずいた。


ソンブラ用に皿にいなり寿司を乗せて、地面においてあげた。

コンコーン!

ソンブラは嬉しそうにしていた。


コータはいなり寿司を掴み、口に運んだ。

「うおー!上手い!」

コータは叫びながら次々と口に頬張っていった。


ベロニカとガラマイアも恐る恐る口に運んだ。

「「んー!!」」

2人の耳はピンと立ち、目を見開いた。


「どう?おいしい?」

「はい!」

ベロニカは笑顔で近づいてきた。


「これはなんて料理なんですか?別の世界にはこんなに美味しいものがあるんですか?」

「いなり寿司って料理だよ。美味しい物は他にもいっぱいあるかな」

「素晴らしいです!」

ベロニカは目を輝かせている。


ソンブラもものすごい勢いで食べている。

やはりキツネには油揚げだったのかもしれない。

ガラマイアは無言でいなり寿司をどんどん口に放り込んでいた。


目を輝かせているベロニカにコータが喋りかけた。

「ベロニカ、昨日見た予知の赤い奴はユーサクだぞ」

「え?」

俺は何を言っているかわからなかった。


「予知?」

「ベロニカは予知や予言が聞けるんだ」

「なにそれ、すご!」

「ベロニカ、ユーサクに話してやれ」

「はい!」

ベロニカは俺の目を見た。


「未来が数秒見えたんです」

「どんな?」

「私に飛んでくる攻撃を赤い化け物が身体で受け止めて防いでくれたんです」

「赤い化け物……」


ベロニカから見たら、レッドホーミングは赤い化け物なのか……。

ちょっと凹んだ。


▽ ▽ ▽


いなり寿司は綺麗に無くなった。

ベロニカとガラマイアとソンブラが思った以上に食べてくれてよかった。


「それでこれから何するんだ?」

「反対派の拠点に乗り込む」

「どうやって?」

「ガラマイアが俺達を人質にしたってことにする」

「そっか。俺は?」

「あっ!」

コータは何も考えていなかったようだ。


「さすがに人の姿じゃダメだよな?」

「うーん。私とコータさんと人の姿のユーサクさんだと不自然ではあると思います」

「どうするか。あれも数少ないしなー」

コータは悩んでいた。


するとベロニカが閃いたように口を開いた。

「赤い化け物の姿はどうですか?」

「え?」

傷ついた。


「うーん。ユーサク、変身できるか?」

「え?なんで?」

正直、変身したくはなかった。


「ガラマイアは変身した姿を見たことないからさ、見ないと人質として成立するかわかんないじゃん」

「でも一回変身したら戻れないぞ?」

「あー。じゃあ成立しなかったら、拠点外で待機だな」

「えー」

やる気満々だったから、待機は嫌だった。


「しょうがないかー、変身!」

身体が光に包まれ、視界が狭まった。


「お、おお」

ガラマイアはなんか引いている。

「ど、どうかな?」

「これはなんと説明すればいいかわからん……」

「よし!ユーサクは拠点の外で待機」

「えーまじかー」


レッドホーミングはユイには大人気なのに、獣人には不評の様だ。




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