26週目.反対派の襲撃
街の入り口に到着した。
「よし。行くぞ」
「はい!」
俺はベロニカを抱きかかえた。
「え?え?」
ベロニカが暴れだした。
「おい!動くな」
「どういうことですか?走るんじゃないんですか?」
「は?ソンブラも影の中に居れるから飛んだ方が早い。ベロニカくらいなら担いでも早さは変わんないから心配するな」
「いや、そういうことじゃ!」
俺は無理やり抱え、風魔法で飛び上がった。
「えーーーー!」
「静かにしろ」
「す、すみません」
ベロニカは黙ってしまった。
気まずい。
移動時間も結構ある。
何か話さないと。
「さ、さっきのは妹か?」
「はい。それと近くに居たのは私のように占術を得意としている種族の者達です」
「ずいぶん慕われてるんだな」
「はい。ありがたいことに」
ベロニカは少し照れていた。
「一応幹部ですから。それに昔は占術を得意とする家系は他種族に狙われやすいというのがあったので、昔から手を取り合ってるんです」
「狙われやすいってのは予知とかができるからか?」
「はい。あまり占術を知られていないせいで、自分が見たい時に未来を見れるって思われてるんです。でも実際は急に聞こえてくるんです」
占いなんて不明確なものだと思っていたが、この世界の占術は元の世界のもとは別物みたいだ。
「そうなんだ。俺が来ることは確信してたのか?」
「はい。今までで一番はっきり見えたので」
「なるほど。わざわざゾーエンに伝えてるくらいだもんな」
「逆にゾーエンでよかったです。狸人族の村の近くじゃなかったら、私がその地に居なくちゃいけませんでしたから」
「相当信頼してるんだな」
「はい。長になりたての頃、助け合った仲ですからね」
ゾーエンとベロニカは本当に仲がいいようだ。
「そういえば、手配はしてくれたか?」
「はい。生け捕りにした者を運ぶ人員は確保しています。馬車数台で来ると思います」
「じゃあ1人も逃がさないようにしないとな」
「すみません。よろしくお願いします」
ベロニカは抱きかかえられた状態で頭を下げた。
▽ ▽ ▽
河馬族の村に到着した。
村は沼地のような場所にあった。
元の世界の動物と特性が似ているのかもしれない。
「こんなに早く到着するなんて」
ベロニカは驚いていた。
「私は河馬族と話してきます」
「俺は軍勢の様子を見てくる」
「えーっと。村がここだから、あっちの方角です」
「わかった」
俺はベロニカが指差した方向に向かった。
コンコーン!
なぜかソンブラはベロニカの影に入っていった。
▽ ▽ ▽
数時間飛ぶと、反対派の軍勢と思う集団が居た。数は50~60人。
俺は距離を取って様子をうかがった。
「ん?獣人の体力ってやっぱりすごいのか?」
軍勢は走って村に向かっていた。
どれくらいの距離を走ってきたかわからないが、そのペースのまま村に到着して動けるのか?
それになんか様子がおかしくないか?
軍勢の中央にはハイエナの獣人がいた。
あいつがガマライアだろう。
ガマライアの様子が一番おかしい。
目が赤く、表情もずっとどこかにやけているように思えた。
「今戦うか、ベロニカに確認を取るか……」
俺は後者を選んだ。
「運搬がだるい。もうちょい村に近づいたらでいいだろう」
俺は軍勢を残し、河馬族の村へ戻った。
▽ ▽ ▽
村に戻ると、ベロニカとソンブラが村の外で待っていた。
「どうでしたか?」
「いたよ。でも様子がおかしい気がする」
「どういうことです?」
「獣人って体力無限にあるのか?」
「いえ、そんなことはないです」
「ものすごいスピードで走ってこっちに向かっていた。スピードが全く落ちずに」
「え?」
「それに目が赤く光ってた。鬣犬族?の特徴なのか?」
「いえ…。ちがいます」
「これは何かおかしいぞ。邪神の影響なのかもな」
ベロニカは黙って考え始めた。
「コータさん。大丈夫ですか?」
「問題ないと思う。レガリオルと同じ強さでも大丈夫だ。少し怪我はさせるかもだけど、ちゃんと回復させる」
「わかりました。よろしくお願いします」
ベロニカは頭を下げた。
軍勢を待っている間、ベロニカは河馬族を避難させていた。
「うーん。どうしようかな」
俺は暇だったので軍勢が通る予定の地面を水魔法でぐちゃぐちゃにしておいた。
「これおもろ。結構深くまでハマるようにしておくか」
水魔法と土魔法を駆使して沼トラップを何個も作って遊んだ。
「何してるんですか?」
「え?」
ベロニカが呆れた表情をして聞いてくる。
「一応足止め用のトラップを作ってるんだけど」
「そうですか……」
ベロニカからは遊んでるように見えたみたいだ。
「たぶんあのスピードなら、夜には到着すると思う」
「わかりました」
「ベロニカは戦えるのか?」
「あまり得意ではないです。どちらかというと防衛向きの魔術が使えます」
「水籠だっけ?」
「はい。他にもいくつか使えます」
「軍勢が到着するまで時間あるし、見せてもらえる?」
「わかりました」
コンコーン!
ソンブラは何かを伝えたそうにしていた。
「ん?ソンブラも戦えるってことか?」
コン!
「わかったよ。一応見るだけな」
俺はベロニカの魔術とソンブラの戦闘力を確認して時間を潰した。
▽ ▽ ▽
夜になった。
想定より早く軍勢はやってきた。
「ベロニカ、頼む」
「はい!炎虫!」
ベロニカは炎でできた虫を出して、辺りを照らした。
照らされた先にはガマライアが率いる軍勢がいた。
急に明るくなったのに、獣人達は驚きもせず村に向かって進行していた。
「コータさんの言うように様子がおかしいです」
「そうだよな。あれが普通とは思えない」
獣人達は次々と沼トラップにハマっていく。
「は?」
沼トラップにハマった仲間を踏みつけて軍勢は進んでくる。
「まじかよ。異常すぎる」
これは早めに終わらせないとな。
俺は風のロープを作り、進んでくる獣人を縛り上げていく。
「「ぐっ!がぁあああ!」」
縛った獣人達が叫んでいるが、やはり様子がおかしい。
縛っているのに永遠に抵抗し続けている。
しかも言語を全く話さない。
「コータさん!明らかに様子が!」
「ああ。さすがにこれは異常だ」
ベロニカは叫んだ。
「ガマライア!何しに来たのですか!」
ガマライアはベロニカを見るが、すぐに視線を外して村に向かって進んでいく。
「「ぐがああああ!」」
縛っていた獣人達が風のロープを引きちぎり始めた。
無理に引きちぎったせいで身体がボロボロになっている。
「魔人領のあれをやってみるか」
俺は大きな水の蛇を作り出した。
邪神に効くかわからないが、聖魔法を織り交ぜておいた。
「全員飲み込め!」
水の蛇は地面を這いながら、獣人達を飲み込んでいった。
「これなら気絶するだろう」
数分すると水の蛇は消え、気絶した獣人達の姿が現れた。
「縛っておいた方がいいよな」
俺は風のロープと土で気絶した奴らを完全拘束した。
ソンブラも影を操り、獣人達を拘束していた。
▽ ▽ ▽
拘束をした獣人達の様子はだいぶ変わっていた。
気絶しているからかもしれないが、荒々しさが消えているように感じた。
邪神の洗脳は聖魔法で解けるのかもしれない。
「一応気を付けてくれ。さっき風魔法だけの拘束は破壊されたから」
「わかりました」
ベロニカは少し離れて、拘束されている獣人達を見ていた。
「とりあえず目覚めるのを待つか」
「はい。そうしましょう!」
俺は起きるのを待ち、ベロニカは河馬族に現状を伝えに言った。




