26週目.レガリオル
レガリオルは鉤爪が付いた小手のようなものを付けていた。
俺の横にはベロニカが居た。
「レガリオルのわがままを聞いていただき、ありがとうございます」
「いいんだけど、賛成派の代表があんなんで平気なの?」
「アホなところはありますが獣人族の事をしっかり考えてる人です。戦いたいのもあると思いますが、コータさんの実力を幹部に理解させるっていう意味もあるんだと思います」
レガリオルの周りにはガタイの良い獣人がちらほらいた。
あいつらが幹部なのだろう。
「魔法は使わない方がいいよね?この姿で魔法はまずいでしょ?」
「大丈夫です。幹部以外には見えないようにします。それに魔法を使わないと少し厳しいかもしれません」
「え?」
俺はレガリオルの強さは見抜けていないのか?
「水籠!」
ベロニカが唱えると、庭にかぶさるように水のドームが現れた。
魔術を使えると聞いていたが、これのことだろう。
「これで外からは見えません。水籠の中にいるのは幹部なので魔法を使っても平気です」
「本当にいいんだな」
「勝敗は見えていますが、レガリオルは簡単には負けないですよ」
ベロニカがそこまで言うんだから、本当に少しはやるんだろう。
「コータ!やれるか?」
「おう。いつでもいいぞ」
レガリオルは幹部の方を見た。
「ガン!開始の合図を頼む」
するとカメの獣人が前に出た。
「合図はやるが、絶対に防具は壊すなよ」
「わかってるよ」
「はぁー。頼むぞ」
カメの獣人はレガリオルより防具の心配をしていた。
「はぁー。では始め!」
模擬戦が始まった。
「とりあえずこんなものか」
俺は10個の石の球をレガリオルに飛ばした。
「詠唱なしか!凄いな」
レガリオルは石の球をすべて殴って破壊した。
「まあ防ぐよねー」
俺は身体に風魔法を纏って、宙に浮いた。
風の矢を何本も放つが、レガリオルは想像以上の速さで攻撃を避ける。
「接近戦も試すか」
俺は石の槍を持ち、レガリオルに接近する。
「いいのか近づいて!」
「え?まじか」
いつの間にかレガリオルは俺の背後にいた。
「ギャハハハ!あの量の魔法はなかなか凄かったぞ」
レガリオルは俺を地面に叩きつけるが、風魔法のおかげでほとんどダメージがなかった。
「ほーこれも効かないか」
レガリオルはニヤニヤしながら俺を見ている。
「接近戦は無理だな。ササっと終わらせるか」
俺は土魔法で石の壁を2枚出し、レガリオルを勢いよく挟む。
そして大きな水の球で石の壁ごと覆った。
「数分したら、呼吸ができなくなって気絶するだろう」
俺は怪我をさせずに勝利することができた。
と思っていた。
ボーン!
石の壁と水に球が弾け飛んだ。
「え?」
さっきまでレガリオルが居たところには、完全に2足歩行のライオンが居た。
獣人ではなく魔獣人に近い姿だ。
「ガルルルル。コータ、強いな。まさか『獣化』を使わされるとはな」
「その姿強そうだな。悪いが手加減できないかもしれない」
「構わない!来い!」
俺は石の武器を持った石の腕を10個作った。
それに風魔法を纏わせる。
俺が攻撃を仕掛けようとしたその時。
「ベロニカ様!いらっしゃいますか?大変です!」
水籠の外から叫び声がした。
「武装した反対派の軍勢が河馬族の村に向かっている情報が!!」
「「何!?」」
レガリオルとベロニカは驚いていた。
「コータさん」
ベロニカがこっちを向いたので、魔法を解除した。
すると庭を覆っていた水籠が消えていく。
レガリオルが近づいてきた。
「コータ。すまない。緊急事態だ」
「わかったよ」
「決着はまた後日だ」
「まだやる気かよ」
「当たり前だ」
レガリオルはそういうと、叫んでいた獣人の元へ駆け寄っていった。
▽ ▽ ▽
叫んでいた獣人の元に集まっていた人達が、一斉に散り散りになった。
聞こえた情報だけで考えると、河馬族の村に反対派が攻めこんでいるのだろう。
ベロニカが俺の元にやってきた。
「大丈夫なのか?」
「はい。内容は聞こえてました?」
「河馬族の村に反対派が攻め込んでいるのは分かった」
「その通りです。ただ今までと違い、完全武装で数も多いです」
ベロニカは苦い表情をした。
「レガリオルが居れば問題ないんじゃないか?想像以上に強かったし」
「いえ。レガリオルはこの街で待機です」
「なんで?」
「強いからです」
「ん?」
言ってる意味が理解できなかった。
「コータさんのように強すぎるのであれば手加減ができます。ですがレガリオルは手加減ができず、反対派の軍勢に怪我を負わせたり、殺してしまう可能性があるのです」
「賛成派は負傷者や死者を出さないように戦っているのか?」
「はい。獣人同士で殺し合う意味がないので」
「でも相手は……」
「殺す気で挑んできます」
「はぁー」
理想や信念があるのは良いが、このままだと賛成派の戦力がどんどん削られていく。
「殺した方がいいとは俺も思わないが、殺す気で立ち向かわないと賛成派で死者が出るぞ」
「……そうですね」
ベロニカのリアクション的に、既に死者は出てるようだ。
この完全に無駄とは言い切れない信念に俺はもどかしさを感じた。
むしろ怒りすら覚えてくる。
「ベロニカ。河馬族の村の場所を教えろ」
「え?」
「俺が全員生け捕りにしてくる。肩入れじゃないぞ。無駄な死を防ぐためだ」
「あ、ありがとうございます」
ベロニカは俺に場所を伝えた。
「軍勢はまだ到着してないんだよな?」
「はい。あと1日程の距離にいるそうです」
「わかったすぐ向かう」
「コータさん!」
「ん?」
「軍勢を率いているのは、幹部のガマライアです」
「邪神に憑りつかれている可能性があるやつか」
「はい」
ベロニカは何か決心したような表情で口を開いた。
「可能でしたら、私も連れていくことはできますか?」
「え?」
「お願いします」
俺は悩んだ。
「わかった。30分後出発するから早く準備しろ」
「わかりました」
ベロニカは家に向かって走って行った。
▽ ▽ ▽
ベロニカが戻ってきた。
「お待たせしました」
「よし。向かおう」
「はい」
街の外に出ようとすると、数人の獣人がベロニカの元にやってきた。
ベロニカよりもだいぶ若そうだ。
「お姉ちゃん!」
「ベアトリス。私が居ない間、街をよろしくね」
「わかったの!」
「みんなもよろしくね」
「「「はい!」」」
ベロニカが戻ってきた。
「すみません。行きましょう」
「おう」
俺達は街の入り口に向かった。




