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5週目.お祝いのチキンカレー

今日は珍しく日中に出かけていた。

久々にオフラインで打ち合わせだった。


打ち合わせを終えて、家に帰っているとふと買い物欲が沸いてきた。

俺は最寄り駅より手前で降り、ショッピングモールに向かった。

「皿とかのバリエーションないから、買っておくか。転送された食器は翌日返ってくるけど、買っておいて損はない」


俺は食器売り場を物色し、いろんなタイプの食器や調理器具をカゴに入れて行った。

「お?これ姫にいいじゃん!」

俺は子供用の箸とスプーンとフォークセットを見つけた。

それをカゴに入れて、会計を済ませた。


「今日の料理の食材は揃ってるから、このまま帰るか」

俺は出口に向かう途中、ある店を見つけた。

「おっ!これは喜ぶかもな。よし、買ってくか」

俺はその店に寄って、ショッピングモールを後にした。


▽ ▽ ▽


俺は家に着いた。

慣れない外出に身体が悲鳴を上げていた。

「はーー。久々の遠出は疲れたー。よし、料理を作り始めるか」


俺キッチンに向かった。

冷蔵庫から玉ねぎとじゃがいもとにんじんとりんごを取り出す。

玉ねぎは細かく切り、じゃがいもとにんじんは乱切りで一口サイズにする。

りんごは半分すりおろす。

「3人分の材料切るのはやっぱり大変だな」


小鍋を二つ用意して、火にかける。

小鍋にバターを入れ、1口サイズに切った鶏もも肉を2人前と1人前に分けていれて炒める。

鶏肉に火が通ってきたら、玉ねぎを入れる。

玉ねぎが透明になってきたら、ジャガイモとにんじんを投入。

ある程度、火が通ったら水を入れて煮込み、すりおろしりんごを1人前の小鍋に入れる。


「アクがやっぱり出てくるな」

煮込みながら、アクをしっかり取っていく。

「めんどくさいけど、こういう細かい作業をちゃんとして美味しいものを食べてもらわないとな」


2つの小鍋はしっかり煮込まれているようだ。

「そろそろルーを入れてもいいかな?」

1人前のほうには甘口、2人前のほうには辛口のカレールーを入れて少し煮込む。

「あとは、連絡来るまで放置でいいかな?」

俺は蓋をし、火を止めた。



▽ ▽ ▽



トゥントゥルルン♪トゥントゥルルン♪


タブレットが鳴った。

俺が緑の受話器マークを押すとビデオ通話になった。


「ユーサク!!」

タブレットから聞こえてきたのは姫の声だった。

「姫!!そんなに喋れるようになったの?」

「なったよー!」

「姫はいつもかわいいな」

「ありがと、ユーサク」

姫は照れている。本当によく喋るようになっていた。

1週間練習してたんだろうな。

それにしても、コータの姿が見えない。


「あれ?コータは?」

「コータは大きいモンスターと戦ってる!」

「え?大丈夫なの?」

「コータは強いから大丈夫!私も強いよ!」

「すごいね!姫も強いんだね」

喋る姫の姿は本当に楽しそうだった。



コータが来るまで姫と喋っていると、急に姫が少し不安そうな表情で話し始めた。

「ユーサクにお願いがあるの」

「え?どうしたの?」

姫は不安そうに話し続ける。

「ユーサクとコータに名前を決めてほしいの」

「え?誰の?」

「わたし!」

俺は姫のお願いに驚いた。

当然、いままで誰かの名前を考えるなんてしたことがないし、そんなことをお願いされるなんて思ってなかった。


「姫の名前を俺達が決めるの?」

「うん…。私もユーサクとコータみたいに名前が欲しいの」


俺はこんな大切なことを1人が安易に決めちゃダメだと思い、コータが戻ってくるまで待つことにした。

「わかった。コータが戻ってきたら考えようか」

「うん。ありがとう」



▽ ▽ ▽



コータを待っている間、姫といろいろ話した。

ここ1週間なにをしてたか、漬けマグロをまた食べたいとか。

リンゴジュースが美味しかったとか。

元気よく話す姫は本当に楽しそうだった。


「姫、ユーサク、お待たせ」

コータが戻ってきた。

「大丈夫だったのか?」

「ダイヤモンドグリズリーってモンスターがめちゃくちゃ硬くて手間取った」

「そうか、無事ならよかった」


俺は姫からのお願いの事をコータに話した。

「姫から名前の話をされてたんだが、コータは何か聞いてるか?」

「漬けマグロ丼を食ってた時に言ってくれたよ、俺たちみたいに呼び合える名前が欲しいって。姫は物心ついたときにはもう親はいなかったらしい。暮らしていた街も孤児院も劣悪な環境だったみたいで、名前も無く暮らしてたらしい」

「そうか、姫も辛かったんだろうな」

俺は姫に名前を付けてあげることを決めた。


「コータは名前の案はあるのか?」

「うーん。かわいい名前にしたいのと、俺がつけてあげるなら日本人っぽい名前がいい」

「俺とコータが決める、かわいい名前」

俺とコータは悩んだがふと思いついた名前を口にした。

「「ユイ」」


俺とコータは笑い出した。まさかハモるとは。

「いやーそうなるよな。俺らの高校のアイドル」

「まさか一致してるとはな」

「ユイって名前はいいんじゃないか?」

「俺はいいと思うぞ、姫にピッタシだ」

「一応漢字だけは変えておこうぜ」

「おう!いい漢字あるぜ」



コータは姫の元に行き、話しかけた。

「姫、ユーサクと話したんだけど、ユイって名前はどうだ?今ユーサクがいる世界ではこういうふうに書くんだ」

コータは地面に「結」と書いた。

「この文字には、結ぶだったり繋ぐって言う意味があるんだ。姫のエクストラスキルにもピッタリだと思うんだけど」


姫はコータの話を聞くと物凄い笑顔になった。

「ユイ!良い!私、ユイが良い!」

ユイは喜んだ。

「じゃあ、ユイ姫だね」

「姫は残すのね」

「ユイはいつまでも俺らの姫だろ!」

「そうだね。あだ名として呼ぶのはあり」

「ユイ姫、そろそろユーサクにご飯出してもらおう」


ユイがニコニコしながらタブレットの前にやってきた。

「ユーサク、今日もご飯お願いします!」

「わかったよ、ユイ。ちょっと温め直すね」


俺はキッチンに向かった。

小鍋2つを火にかけ、温め直す。

そして、昼間買ったとっておきのものを皿に乗っけて、テーブルに置く。


カレーが温まったので、

お皿にご飯を盛り、カレーをかける。

出来上がったカレーと今日買ったユイ用の箸とフォークとスプーンセットを置いた。

「よし、転送!」


テーブルの上のものが光ってなくなった。

そしてカウントダウンが始まった。


俺が転送した料理を見て、コータは目を輝かせていた。

「おい!ユーサク、これはまさか」

「そうだ、ユイが喋れた記念で買ってきた」

「しかもそれにカレーだと?」

「俺もおじさんとして本気を出してみた」


テンションが上がっているおじさんを見てユイが質問してきた。

「コータ、これなーに?」

ユイが指を刺しているのは、俺がユイを喜ばしたくて買ったショートケーキだった。


「ユイ、それはショートケーキというものだ。何かお祝いの時に食べるものだよ。ユイが喋ることができたお祝いでユーサクが用意してくれたんだ」

「え!ほんと?ユーサクありがと!」

ユイはショートケーキをずーっと見ていた。

「どういたしまして。ショートケーキは甘い食べ物だから、先にカレーを食べるんだぞ」

「はーい!」

ユイは本当にうれしそうだった。


「久々のカレーいただきまーす」

コータはカレーを口にした。

「うまい!いつも最高だよ、ユーサク」

コータは物凄く喜んでいた。


「あ、あとユイ用の箸とフォークとスプーンセット送っておいたから、回収されなかったらそっちで使ってくれ」

「回収?え?いままでの食器とかって、ユーサクのところに戻ってたの?」

「そうだよ。しっかり水につけて、シンクに置かれてるよ」

「知らなかったわ―!」

俺らが話している間に、ユイはカレーを食べ始めていた。


「ユイ、辛くない?」

「辛くないよ。美味しい!」

「良かった。甘口にしておいて。早くケーキを食べたユイのリアクションが見たい」

ユイは美味しそうにカレーを食べ進めていた。

その様子を見てたら、急にディスプレイは暗くなった。



「あっ!時間か!ユイのケーキの反応見れなかったー!しかも、来週の金曜日、なに食べる?って聞けなかったー!」


俺はうなだれながら、キッチンに向かいカレーを皿に入れた。

「我ながらうまそうにできたなー」


俺はユイのかわいさを思い出しながら、

カレーを食べた。




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