25週目.摩訶不思議空間
ユイとキングクラーケンが話したことで、いろいろわかった。
キングクラーケンは魚人族とコミュニケーションを取ろうとして、脚で魚人を掴んだそうだ。
それが襲われたと認識されたんだろう。
こいつには魚人とのコミュニケーションのやり方を教えないといけない。
そしてキングクラーケンを襲ったのはリヴァイアサンだ。
俺でも知ってる、海の王者。
これは気合を入れないといけなそうだ。
まず俺達は人魚の棲み処に戻った。
「人族が帰ってきたぞ!」
「おい!あいつも一緒だぞ」
魚人族は俺達に気づいて騒ぎ始めた。
キングクラーケンも付いて来させたのが間違いだったかもしれない。
俺はユイとキングクラーケンをその場で待たせ、魚人族の元に向かった。
「おーい。慌てるな」
俺が声をかけるとセドラールとセドロが近づいてきた。
「あいつが何でここにいる?」
「いや、うちのユイのスキルでキングクラーケンと話したんだ」
「え?」
「そうしたら、あいつは自分の棲み処追われ、家族と共に最深部に行きつき、お前らを見つけた。それで仲良くなろうとしたんだが、モンスターだし力加減もわからずお前達に恐怖を与えてしまったらしい」
「その話は本当なのか?」
セドロは疑っているようだ。
「嘘だと思うなら息子に聞いてみろよ」
俺はセドラールを見た。
「お父さん、人族は嘘を付いてないよ!それにあのモンスターからも悪い感情は見えないよ」
セドロは悩み始めた。
「お互い怪我をしてしまったけど仲直りはできないか?俺的には、魚人族とキングクラーケンの家族が共存してくれるとありがたいんだけど」
「わ、わかった。他の者と相談させてくれ」
「ああ。キングクラーケンにはユイから関わり方について伝えるから」
「わかった」
セドラールとセドロは魚人達の元へ戻っていった。
▽ ▽ ▽
魚人族は30分ほど話し合っていたが、決着がついたようだ。
セドロが俺の元にやってきた。
「人族。あなたの話を受け入れます。キングクラーケンと話したいので取り持ってもらえますか?」
「うん。わかった」
俺とセドロはキングクラーケンの元へ向かった。
「ユイ。この人がキングクラーケンと話したいんだ。お願いできる?」
ユイはキングクラーケンをジーっと見て、セドロのことを見た。
「え?なんだ?どういうことだ?」
セドロが急に戸惑い始めた。
俺は何が起きてるか理解できなかった。
「ユイ!何かしてるか?」
ユイはきょとんとして口を開いた。
「え?キングクラーケンとお話できるようにしたんだよ?」
「え?ユイじゃなくても話せるのか?」
「うん!さっき出来るようになった!」
「俺にもやってくれるか?」
「うん!」
ユイはキングクラーケンをジーっと見た後、俺のことを見つめた。
(できたよ)
ユイの声が頭に入ってくる。
(ありがとう。キングクラーケンは俺の言葉が理解できるか?)
(ああ)
キングクラーケンの声は思ったより渋かった。
(色々と迷惑をかけてすまない。魚人族が私に攻撃をされたと思っているとは思わなかった)
(お前は身体もでかいし、力も強い。加減しないとダメだ)
(すまない…)
キングクラーケンは落ち込んでいるようだ。
(魚人族はお前達と共存すると言ってくれている。そうだよな?)
俺はセドロに話を振った。
「ああ。そのつもりだ」
(声に出してもダメだ。頭で伝えようとしろ)
(す、すまない。キングクラーケン。私達はあなたと共存するつもりだ)
(ありがとう。私には家族がいる。争いはしたくない)
(私達も争いは好まない。うまく共存していこう)
(ああ。よろしく頼む)
キングクラーケンと魚人族の仲裁は何とかうまくいった。
そしたら次は棲み処作りだ。
(魚人族とキングクラーケンに提案があるんだ。俺は特別なマジックアイテムを持っている。それを使って、住みやすい環境を作ろうと思うんだが、どうだ?)
(本当なのか?)
(ああ。一旦、最深部まで行かないか?)
(わかった。付いて行こう)
セドロは頷いた。
(移動をするなら私の脚を掴んでくれ。お前達より早く移動ができる)
(助かるよ。ありがとう)
俺達はキングクラーケンの脚を掴んだ。
すると勢いよく動き出した。
▽ ▽ ▽
俺達は最深部に到着した。
(キングクラーケン。ここが最深部の中心か?)
(ああ。大体そこらへんだ)
俺は地面にマイホームを埋めた。
「何か要望はあるか?」
「え?」
セドロは困っていた。
「人魚は泳ぎで、魚人は歩いたりするのか?」
「ああ。魚人は泳ぎも得意だし、地面を歩くこともできる」
「そしたら摩訶不思議空間作らないとダメそうだな。それに街を作らせるなら建材とかも必要か?それにこの暗さはいただけないな」
俺は悩んだ。
「とりあえず、一旦作るか」
俺はマイホームに魔力を目いっぱい注いだ。
すると最深部は明るくなり、地面には芝が生え、遠くの方では樹木も生え出した。
「え?え?ん?これは地上ですか?」
セドロは戸惑っている。
「いや泳いでるじゃん」
俺はセドロに作った空間のことを説明した。
「この空間の中では泳ぐか歩くか考えるだけで変更できる。ほら見てみろ」
俺は風の魔法を解除して、地面に降りた。
「ほら。水の中とは思えない動き方だろ」
「は、はい」
「それにこの明かりは地上の天気に左右される。朝なら明るいし夜なら暗くなる。天気が悪かったら薄暗い。雨や雪は降らないから安心してくれ」
「は、はあ」
「あと木が遠くの方に生えてるだろ?あれで家を作れ。切り株を残しておけば、また生えてくるようになっている」
セドロはとうとう返事もしなくなった。
「あとなにかあるかな?」
俺は自分が想像した内容を頑張って思い出そうとした。
「ああ。この空間は魚人族以外には見つかりずらくなっている。だけど完全に見つからないわけじゃないから気を付けろ」
「……」
「これよりも小さめの同じような空間を何個か作るから、魚人族でうまく使ってくれ」
セドロは放心状態なので、俺はキングクラーケンの棲み処を作りに行くことにした。
さっき作った空間から少し離れた場所に移動した。
「ユイ、頼む」
「うん!」
ユイはキングクラーケンをジーっと見た後、俺のことを見つめた。
(キングクラーケン。どういう棲み処がいい?)
(洞窟なようなところがいい。入り口は狭くていいが、家族がいるから中は広めで頼む)
(わかった)
俺はマイホームを取り出し、魔力を注いだ。
すると洞窟が現れた。
(中に入ってくれ。キングクラーケンに悪意がある者には見つかりにくくなっている)
(ああ。見させてもらう)
そういうとキングクラーケンは洞窟に入っていった。
ユイはニコニコしながら俺のそばに来た。
「ユイがいなかったら解決できなかったよ。ありがとう」
俺は頭を撫でた。
「うん!ユイも冒険者だもん。依頼だからがんばった!」
ユイの無邪気さに癒された。




