25週目.深海の旅
虫人族の戦闘訓練はそこそこ上手くいったと言っていいだろう。
剣術や格闘術はあんまり自信がないが、魔法は自信しかなかった。
鍬形族や蠍人族だけではなく、他の島で暮らしている虫人族にも教えた。
そのおかげで、戦闘訓練を希望した全員が魔法でお手玉ができるようになった。
そして今、俺の目の前には海が広がっている。
▽ ▽ ▽
「ここでは何をするんだ?」
俺はクソ女神に問いかけた。
「ここでのお手伝いは簡単だよ。マイホームは余ってる?」
「ああ。何個か持ってる」
「それを使って、この海の深海に安全なエリアを作ってほしいんだ」
「どういうことだ?」
「うーん。どこまで話そうかな?」
クソ女神はかわいこぶりながら悩んでいる素振りを見せた。
「早く話せ」
「うーん。将来的にマイホームで作ったエリアで海に住む種族が暮らしてくれたらいいなーって」
「海に住む種族?魚人とか人魚がいるのか?」
「うん。そうだね。当たりー」
クソ女神のテンションに少し腹立った。
「どういうのを作ればいいんだ?」
「魚人族以外の種族には気づかれにくくしてほしいんだ」
「人魚はいいのか?」
「あー。魚人と人魚は総じて魚人族って言うんだ」
「ややこしいな。まあわかった」
「凄く大きいのと、中くらいのを何個か作っておいて。あと空気問題とか重力問題とかもうまくやって!将来的には魚人族にもいろんな種族と関わってほしいから」
「注文が大雑把なのに多いな」
「あと誰かに会っても、タイムトラベルとか異世界とか僕のことは話しちゃダメだからね」
「わかったよ」
わざわざ言ってくるってことは、やっぱりゴフェルに言って問題なかったみたいだ。
クソ女神を見ると、足元にユイが寝ていた。
「連れてきてくれたんだな」
「うん。短期は連れて行っていいって言ったしね」
クソ女神と話していると、ユイが目を覚ました。
「あれ?ここどこ?」
「ユイ。依頼だ」
「依頼?やったー」
ユイは寝起きなのに元気だった。
「すぐに出発するけど大丈夫か?」
「うん!大丈夫!!」
俺は風魔法で俺とユイの身体を包んだ。
これで深海に入っても問題がないだろう。
「ユイ、気を付けろよ」
「うん!」
俺達は海に飛び込んだ。
▽ ▽ ▽
当然だが海は広い。
餌だと思って攻撃してくるモンスター達を倒しながら、深くまで潜っていく。
「うーん。まだ底が見えてこないな。てか暗い」
俺は聖魔法で周り照らした。
「海の中すごーい!」
明るくなって見えやすくなったせいでユイははしゃぎ始めた。
泳いでいると、遠くの方に人影が見えた。
よく見てみるとそれは人魚の集団だった。
「あれは接触するべきなのか?」
「コータ。あの人たちは?」
「人魚っていう海に住んでる種族だ」
「へー」
俺は悩んだが、接触せずに距離を取りながら進んでいった。
「ねー何してるの?なんでこんなに明るいの?」
「わ!」
俺達の目の前に人魚の男の子が現れた。
明るくしていたせいで、普通に気付かれていたみたいだ。
周りを見てみると、先ほどの人魚の集団もこちらに向かって来ていた。
「えーっと」
俺はどうしようか悩んだ。
人魚の集団は俺達を囲んだ。
「お前達は人族か?」
人魚の男性は俺に問いかけた。
「そ、そうだね。人族だね」
「うん。そうだよ」
「こんなところで、何をしている」
「えーっと、さ、散歩?」
人魚の集団は俺に疑いの目を向けている。
この状況はよくないかもしれない。
すると先ほど話しかけてきた男の子が口を開いた。
「大丈夫だよ。この人族は良い人達だよ」
「え?」
俺は戸惑った。
何を根拠にいっているのかもわからないし、子供の言うことなんて誰も信じないだろう。
そう思っていたが、人魚の集団の反応は予想に反した。
「セドラールが言うなら、良い人族なのだろう」
「そうだな」
「うん。セドラールが言うなら」
俺はこの状況に首を傾げた。
「子供が言ったことを鵜呑みにしちゃっていいのか?」
「ああ。私の息子は『見極目』を取得している。相手の嘘や悪意などを見極めることができる。なので息子が言うならあなた達は悪い人族ではない」
「なるほど……」
「私はセドラールの父親のセドロだ」
「俺はコータだ」
セドラールという人魚の男の子のおかげで、めんどくさい事態にはならずに済んだ。
俺は詳しい内容を伝えず、海底にまで行きたい旨を伝えた。
すると人魚達は動揺していた。
「海底は今は駄目だ」
「どうして?」
「海底には、狂暴なモンスターがいる。私達は何度も討伐を試みたが失敗している」
「なるほど……」
クソ女神、このことを知ってて黙っていやがったな。
「モンスターならコータが倒しちゃうよ!コータはものすごく強いんだよ。ユイもちょっとだけ強いよ」
「「「「え?」」」」
人魚達はユイの発言に驚いていた。
「そのモンスターのことを詳しく知りたい。もし話を聞いて、倒せそうなら俺達で倒す」
「本当ですか!?わかりました。では私達の棲み処に来てください。そこでお話しします」
「わかった」
俺は人魚の集団に付いて行った。
▽ ▽ ▽
人魚達の棲み処は村や街と言えるものではなかった。
岩影や巨大な珊瑚の下で寝泊まりをしているらしい。
棲み処には人魚のほかに魚人と思われる人も多く居た。
「それでモンスターについて教えてくれ」
「わかりました」
セドロは口を開いた。
「南にここよりも深い場所があります。そこがこの海の最深部です。そこにはキングクラーケンというモンスターが住んでいます」
「キングクラーケンか」
たぶん大きなイカのモンスターだろう。
「元々そこで魚人族が暮らしていたのですが、どこからかキングクラーケンが現れ、私達はその地を追われました」
「なるほど。じゃあ奪還するために戦っているのか」
「はい。最深部は他種族が簡単に来れないですし、モンスターが現れにくいので我々にとっては最高の棲み処だったのです。キングクラーケンに棲み処を取られてから、人族や悪魔族に同胞を拉致されることもあり、早く棲み処を取り返したいんです」
「わかった。一度俺達で最深部に行ってみる」
「本当ですか!?」
人魚達は喜んでいる。
「まだ倒せるかわからない。だけど一度そのキングクラーケンを見てみないと何とも言えない」
「わかりました。よろしくお願いします」
俺とユイは人魚達と別れ、海の最深部に向かった。
▽ ▽ ▽
かなり深くまで潜った。
「コータ。暗いねー」
聖魔法は最小限にしていた。
「そうだな。ユイ、離れないようにな」
「うん!」
俺はユイの手を引き、より深い場所を目指した。
進んでいくと、目の前に大きなイカが現れた。
「こいつだな……」
あまりにもデカいイカに俺は少しビビってしまった。
キングクラーケンの目がギョロっとこっちに向いた。
「コータ。話しかけてもいい?」
「え?」
「お願い!」
「ああ。良いよ」
ユイは無言でキングクラーケンを見た。
時折頷いている。
会話はできているようだ。
ユイは数分経つと俺の元に戻ってきた。
「どうだった?」
「住んでるところが襲われて、家族で逃げてきたんだって。それでここに住もうとしたら魚人の人がいて、仲良くしようとしたら攻撃されたんだって」
「なるほど。キングクラーケンは仲良くしようとしたが、魚人達は襲われたと思ったってことか」
「たぶんそうだと思うー」
俺は少し考えた。
最終的な目標は最深部に魚人族の住みやすい環境を作ること。
キングクラーケンの棲み処を取り返しに行ってもいいが、もし違う脅威が現れたらキングクラーケンはまたここに戻ってきてしまう。
キングクラーケンの棲み処を奪ったやつを倒し、最深部で魚人達とキングクラーケンを共存させるのが良さそうだ。
「ユイ。キングクラーケンに魚人族と仲良くできるように協力すると伝えて。あと棲み処を奪ったモンスターを倒しに行くって」
「うん!わかった」
ユイは再びキングクラーケンの元に行った。




