24週目.憤怒と嫉妬
僕はカヌマさんとセヌイさんに連れられ、船を止めている場所から離れている。
さっきから爆発音などが聞こえてくる。
みんなが戦ってくれている。
「サイルバルタン様!こちらに行きましょう!」
「わかった!」
僕はカヌマさんとセヌイさんについていく。
僕は5年前の10歳の時に『憤怒の悪魔』スキルを取得した。
魔獣人族が大罪の悪魔スキルを手に入れたことで、魔人領は荒れたらしい。
すぐにゴフェルさんが僕の元にやってきてくれて、いろいろと手助けをしてくれたが、他の幹部や魔王にはひどい扱いを受けた。
僕が自分の島の管理ができるように、ゴフェルさんがアビールさん達を連れてきてくれた。
ほとんどの仕事をアビールさん達が僕の代わりにやってくれている。
今、僕を連れてる2人もそうだ。
悪魔族なのに僕に敬意を払ってくれている。
アビールさんの弟子だからなのかもしれないが、接していて僕が嫌な気持ちになることはない。
他の魔獣人族のことはゴフェルさんに丸投げしてしまっている。
僕がちゃんと自分の島を管理出来ていたら、そんなことにはなっていないだろう。
みんなはスキルも使えない僕をしっかり立ててくれている。
僕のために力を尽くしてくれている。
だけど僕にはみんなに何かを返す力がない。
今だって、みんなを守るために戦わないといけないのに。
「サイルバルタン様!」
「え?」
目の前にいたはずの2人が居なくなった。
代わりにいたのは嫉妬の悪魔ヴィルダーグだった。
「探したぞ。獣風情」
「ヴィルダーグ!」
吹き飛ばされたカヌマさんとセヌイさんが僕に向かって叫ぶ。
「逃げてください!」
「ここは俺達が!」
「黙れ!裏切者の面汚しが!ウォーターランス!」
ウォーターランスがカヌマさんを貫く。
「ぐっ!」
「カヌマ!」
セヌイが立ち上がり、ヴィルダーグに向かっていく。
「近づくな裏切者!ウォーターカッター!」
ウォーターカッターが脚に当たり、セヌイさんは倒れこんだ。
「うっ!サイルバルタン様!早く逃げてください」
「ギャハハハ!さすが獣風情。仲間を見殺しにして逃げるか?」
「逃げない!」
「だ、ダメです!逃げてください」
「そうです!早く!」
ヴィルダーグはセヌイさんに近づき、倒れているセヌイの頭を踏みつけた。
「裏切者は黙ってそこで見ていろ!お前らが肩を持った獣風情の死に様を。ウォーターランス!」
ウォーターランスは僕に向かって飛んできた。
僕は防御しきれず、肩にウォーターランスが刺さった。
「あああああああ!」
「ギャハハハ!獣らしく鳴くじゃないか」
僕はヴィルダーグを睨みつける。
「目付きが気に食わないんだよ!獣風情がぁ!」
ヴィルダーグは僕を蹴りつける。
「ぐっ!」
僕はヴィルダーグ睨みつける。
これしか抵抗ができない自分が悔しかった。
力があれば、スキルを使えていたら。
「痛めつけられても心が折れないみたいだな。じゃあこれならどうだ?」
ヴィルダーグはマジックバッグから剣を取り出し、倒れているセヌイさんの腹を刺した。
「ぐっ!あああ!」
「セヌイさん!」
「セヌイ!」
カヌマさんがヴィルダーグに飛び掛かるが、剣で斬りつけられる。
「があああああ!」
「カヌマさん!」
ヴィルダーグはにやにやしながら僕を見る。
「ギャハハハ!どうだ?お前がに死ぬ前に、仲間を先に送っといてやるよ!」
ヴィルダーグがカヌマさんに剣を突き立てようとした。
「やめろおおおおおおお!!!」
僕は叫んだ。
その瞬間、意識が遠のいた。
▽ ▽ ▽
俺の目の前で獣風情が覚醒した。
『憤怒の悪魔』が発動したようだ。
『憤怒の悪魔』は通常時は全く使用できない。
所持者が怒り狂ったときにだけ発動する。
そして本人の意識はなく、対象に対しての怒りのみで行動をする化け物となる。
前任の憤怒の悪魔は幹部という地位をうまく利用して、金儲けをしていた。
一度その金儲けを邪魔した馬鹿が居た。
そいつの家やその周辺の地区は一瞬にして壊滅に追いやられた。
獣風情が覚醒する前に殺しておくべきだった。
だが、問題はない。
意識がない獣風情など簡単に倒すことができる。
必ず殺す。
穢れた者が俺と同じ高さにいるのは目障りだ。
▽ ▽ ▽
身体がポカポカしている。
いつもとは違う感覚だ。
僕はどうなったのだろう。
身体は筋肉質になり、いつもの3倍ほど大きくなっている。
これが『憤怒の悪魔』の力なのだろうか。
頭もすっきりしている。
僕がやらなきゃいけないことは、ヴィルダーグを倒すこと。
だけどその前に。
僕は素早く動き、カヌマさんとセヌイさんを回収した。
「は?どういうことだ?なんでそんな行動を?」
何故かわからないが、ヴィルダーグが驚いている。
僕はカヌマさんとセヌイさんは少し離れたところに置いた。
「ちょっと待っててください。すぐに終わらせますから」
「さ、サイルバルタン様なのですか?」
「「「うん。僕もびっくりしてる」」」
僕はすぐにヴィルダーグ元へ行った。
「獣風情が調子に乗るなよ!」
「「「ヴィルダーグ。お前を見ていると怒りがこみ上げてくるよ」」」
「だからどうした!」
「「「そのおかげで今ならお前を倒せそうだ。ロックアーマー!」」」
岩の鎧が身体を覆う。
魔法をちゃんと使えたのは初めてだ。
でもスキルや魔法の使い方が頭の中にどんどん入ってきた。
僕はヴィルダーグの正面に移動して拳を腹にぶち込んだ。
「ぐっ!速い。ま、マッドアーマー!」
ヴィルダーグの身体を泥が纏う。
「「「たぶん無駄だよ。ロックガントレット」」」
僕の腕をトゲトゲした岩が纏う。
そのままヴィルダーグを殴り続ける。
マッドアーマーがボロボロと砕け落ちていく。
「くっ!予想外だ。だがこいつには勝てないだろ!サモン!這い寄れ、ジャジャ!」
ヴィルダーグが叫ぶと、巨大な魔法陣が現れた。
そして魔法陣から水の身体の巨大なスネーク型のモンスターが出てきた。
巨大なスネーク型のモンスターは島を覆うほど巨大だ。
「捕らえろ!そして奪えジャジャ!」
僕は跳び上がり、ジャジャの攻撃を避けた。
自分のすべき行動がどんどん頭に入ってくる。
「「「サモン。躾けろ、マザー!」」」
僕がそう唱えると魔法陣が現れ、大きなウルフ型のモンスターが召喚された。
「「「あのジャジャとかいうモンスターに僕の怒りをすべてぶつけろマザー!」」」
ワオーン!
マザーか雄たけびを上げると大量のウルフ型のモンスターが召喚された。
大量のウルフは島に散らばり、ジャジャを攻撃していく。
「なんでサモンまで使えるんだ?それになぜ意識がある」
ヴィルダーグは僕を見て戸惑っている。
「「「なんのことだかわからないよ。それよりジャジャが消えちゃったよ」」」
「え?」
ジャジャはウルフ達の攻撃で消え去っていた。
「「「悪いけど。僕の怒りを受け取ってくれ」」」
僕の右手が巨大化・硬化・変形していく。
「や、やめろ!獣風情が!」
「「「僕は獣じゃない。魔獣人族のサイルバルタンだ」」」
僕は思いっきりヴィルダーグを殴り飛ばした。




