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24週目.肉じゃが定食

俺の能力は本当にすごかった。


切った野菜と肉は自動で鍋で炒められ、今は調味料と水を入れて煮込まれている。

鍋は宙に浮いているし、鍋の下にはなぜか火があった。


俺には台所自体がいらなくなったようだ。



「ユーサク!これって肉じゃがか?」

「ああ。いま味噌汁も作ってるから、肉じゃが定食だな」

「よっしゃ!」

コータは喜んでいた。


まだ料理をしかしていないから料理中限定の能力かもしれないが、同時に複数の作業をすることに難がなかった。

並列思考とでもいえばいいのか、これなら複数の品目を一度に作ることができる。


鍋の下にあった火が消えた。

たぶん完成したのだろう。

俺は白米・肉じゃが・味噌汁を器に盛り、コータ達のもとに運んだ。



「おおー!うまそー」

「いい匂いがするな」

「ユーサク!食べていいか?」

「いいよ。ゴフェルさんはこれを使ってください」

俺はスプーンとフォークを渡した。

「ありがとう」


2人は肉じゃがを一口食べる。

「うまい!うまいぞ」

「初めて食べる味だが、手が止まらん」

2人はどんどん食べていく。

「おかわりもあるから、いっぱい食べてくれ」

俺の言葉を聞かずに2人は夢中で食べていた。



「コータ。魔力が漲っている気がするのだが」

「ああ。ユーサクの料理には能力をあげる効果があるんだ」

「なるほど。異世界はすごいな」


ゴフェルさんは異世界の力だと勘違いしていた。


▽ ▽ ▽


2人が肉じゃが定食を食べ終わると、食器が消えた。

たぶん家のシンクに転送されたのだろう。


「美味かった!ありがとう」

「今まで食べた中で一番美味しかった」

コータもゴフェルも喜んでくれたようだ。


「よかったよ。喜んでもらえて」



俺は2人に今の状況を確認した。


「なるほど。だから船の中なのね」

「ああ。あとどれくらいで到着するんだっけ?」

「あと数時間もすれば到着するはずだ」

「それじゃ、俺は島に着くまでに元の世界に戻ってしまうかもな」

俺がそういうとコータは驚いた。


「え?完全に転移してきたんじゃないのか?」

「いや、たぶんそれはない。『異世界調理』もうちの冷蔵庫の具材を転送してたから、補充をする必要がある。ということは俺が元の世界に戻らないとダメなはずだから」

「そうか…」

コータは珍しくしょんぼりした。


「まあ、前よりも長くいれるみたいだし!それに画面越しじゃなくなったんだから!」

「そうだな!」


俺は元の世界に戻るまで、コータとゴフェルに船に乗っている人達を紹介してもらった。


サイルバルタンさんやダザさんの見た目に異世界初心者の俺はワクワクしてしまった。


▽ ▽ ▽


俺の予想は大きく外れた。


なにも起きず島に到着してしまった。料理の効果も無くなった。

まさかコータが言うように完全に転移をしてしまったのだろうか。


「えーっとこれからどうするんだっけ?」

「ゴフェルが鍬形族が住む場所に案内してるから、戻ってきたら魔獣人族が住んでいるところに向かう」

「わかった。俺はいつまでいれるんだろ?」

「さあ?なんか情報はないのか?」

「うーん。メニュー!」


メニューを開くと[変身][ログアウト]という文字だけになっていた。


「あとやれそうなのは変身?すごい嫌な予感するけど」

「え?やってみようよ」

「うーん。わかった」

コータの勢いに押され、俺は[変身]をすることに決めた。


「変身!」

すると身体が光を発し、何かに包まれた。

光が止むと、今までより視界が少し狭まった気がした。


「あれ?」

身体を見てみると、全身タイツのようなものを着ている。

「嘘だろ……。やっぱり……」


コータは俺を見て驚いていた。


「ユーサク。それって…」

「ああ。レッドホーミングに変身したみたいだ」

「すげー!」


コータのテンションとは裏腹に、俺の恥ずかしさは凄かった。

この歳で全身タイツを着ることになるとは。


そんなことを思っているとアナウンスが聞こえてきた。

「身体能力が通常の2倍になっています。その他の機能は頭に送信しておきます。ではディフィバースライフで新しい体験を!」



▽ ▽ ▽



私は鍬形族を島の中央の山に案内していた。


「ゴフェル様。もし人手が必要な時は言ってください!20人程ですが、戦闘ができるものが居ますので」

ダガは熱いまなざしを向けて言った。


「虫人族は戦闘が苦手だと思っていたが?」

「戦闘が得意な種族もいます。まあ私達は前任の憤怒の悪魔に兵士として使われていたので、普通の虫人族よりかは戦闘が得意だと思います」

「前任とはいえ、私と同じ幹部が申し訳ない」

「いえ気にしないでください。そのおかげで戦えるようになったので」


ダザ達は過去に捕らわれず、前向きに生きようとしているようだ。

私はこの者達の未来を守ろうと心に誓った。


山を登っていくと、蠍人族のピロと火人族のアピンガが出迎えてくれた。

「ゴフェル様。お疲れ様です」

「わざわざすまない!この者が鍬形族の代表ダガだ」

ダガは頭を下げた。


「他の種族と相談して、一緒に暮らしてくれ」

「わかりました」

私は2人に鍬形族を預け、船に戻ろうとした


ドゴーン!

大きな爆音が鳴り響いた。


「え?」

音のする方を見ると、先ほど上陸した海岸付近で煙が上がっていた。


「みんなはしっかり隠れていてくれ」

「「「は、はい!」」」


私は急いで船へ向かった。



▽ ▽ ▽



ユーサクがレッドホーミングに変身をした。

心の底からうらやましかった。


「ユーサク。それは戦えるのか?」

「た、たぶん。身体能力も上がっているみたい」

「いいね!他に何ができるんだ?見せてくれよ!」


俺がユーサクに絡んでいると、焦った様子のカヌマとセヌイがやってきた。


「「コータさん!」」

「どうした?」

「襲撃です!海と空に多数のモンスターとそれに騎乗した悪魔族です」

「え?」

俺はカヌマが指差す方向を見ると、大量のモンスターが島に向かって進んできていた。


「すぐにアビールに伝えろ!それとサイルバルタンは安全な場所に!」

「「わ、わかりました!」」

カヌマとセヌイは走り去っていった。


「ユーサク。悪いが手伝ってくれ」

「ああ。どこまでやれるかわからないけど、できることはするよ」

「頼んだ」


俺は気合を入れなおした。




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