24週目.異世界調理
前回の連絡から、3日間連絡がない。
『メッセージ』も来ないので、今回もバグってるのだろう。
俺は仕事をちょくちょく進めて、呼び出しを待ち続けた。
「あれ?レンダリングでPC固まった?なんでだ?」
こういうことはよくあることだが、今やっている動画編集でPCが固まる要因が思い当たらないので少し焦っていた。
「えー壊れたのか?」
「ううん。壊れてないよ」
「え?」
俺が後ろを振り返ると、女神がダルンダルンのTシャツを着て立っていた。
「壊れてないよ」
「時間を止めたんですね」
「当たりー!」
女神の能天気さは俺のテンポを崩していく。
「こっちの世界に来れたんですね。それで要件は何ですか?」
「ついにマスクが完成したんだよ!」
「あーそういえば修正してるって言ってましたね」
「うん!はい!これだよ」
女神が差し出してきたものは、前と変わらずレッドホーミングのフルフェイスだった。
「デザインは変わらないんですね」
「意味があるんだよー」
「はぁー。そうですか」
俺は女神の能天気さに呆れてきた。
「マスクのおかげで、あっちの世界にいれる時間が増えたよ」
「おーそれはありがたい」
「それにね」
女神がどや顔で俺の顔を見る。
「あっちの世界で料理を作れるようにしたから!」
「え?どういうこと?『ゲーム』で料理?」
俺は意味不明なことを言われて混乱した。
「まあ使ったらわかるから!『デリバリー』と『ゲーム』が合体したから、今後は別々に使えないからね」
「えー!もっと説明してくださいよ!『ゲーム』で料理をするってこと?無理ですよ!」
「大丈夫だよー。『ディフィバース』で新しい体験を!あと3時間ほどで呼ばれると思うから、準備しておいてね」
「え?え?」
俺は聞いたことのないアプリ名を問いただしたかったが、残り3時間のほうが気になってしまった。
「え?俺はどうすれば?」
俺は女神に問いかけるが、すでに女神の姿はなくなっていた。
▽ ▽ ▽
船での移動は今のところ順調だった。
船は魔力で動くマジックアイテムで、俺とゴフェル、約80人の鍬形族、サイルバルタンとアビール、そしてカヌマとセヌイが乗っている。
昨日の話し合いの時に聞いたのだが、カヌマとセヌイは魔獣人族を差別せず、強くなるためにアビールのもとに弟子入りしていたようだ。
昨日の戦いも、俺達が戦闘能力が低い魔獣人だと思って棄権を促したり、手を抜いて戦っていたらしい。
まあだとしてもだいぶ弱いと思う。
船の周囲は俺が警戒し、水中はアビールが警戒している。
今のところ、強いモンスターも嫉妬の悪魔の手先と思われるやつも現れていない。
「大丈夫そうだな」
「そうだな。まあ移動も1日程だから何も起きないだろう」
「やめろ。俺の世界だと、そういう発言をすると逆のことが起きるといわれている」
「そうなのか!だが大丈夫だ!何が来ても私が居れば対処できる」
「やめろ!そういう発言のことだよ!」
ゴフェルのフラグ立てに嫌な予感がしたので、ユーサクを呼び出すと決めた。
俺とゴフェルだけでも料理を食べておけば、最悪の事態は免れるはずだ。
俺はタブレットを取り出した。
昨日枕元に現れたクソ女神からアプリが変わったことを聞かされていた。
いつものようにちゃんと説明はされなかったから、とりあえず使ってみようと思う。
俺は新しいアプリ『ディフィバース』をタップした。
▽ ▽ ▽
タラララランラン♪タラララランラン♪
タブレットから初めて聞く着信音が鳴った。
「女神が言った通りの時間だ」
画面を見ると、[マスクを装着してください]と書かれていた。
「よし。やってみるか」
俺はレッドホーミングのマスクを装着した。
いつもの気絶をするような衝撃に襲われた。
「ディフィバースの世界にようこそ!」
女神の声でアナウンスが聞こえた。
目を開くと目の前にはコータの姿があった。
「え?」
「ユーサク?」
俺はあたりを見回す。いつもと見え方が違う。
本当にその場にいるようだった。
「おい!女神の修正、最高すぎるじゃん」
コータは俺の手に触れてくる。
手にはしっかり触れられてる感触があった。
俺は自分の身体を見た。しっかり身体がある。
自分の顔に触れると、被っていたマスクもなくなっていた。
そして腰にはホルスターに入ったファイアホーミングガン。
「え?俺、転移した?」
「みたいだな」
コータは嬉しそうにニヤニヤしていた。
「まじかー」
俺が戸惑っていると、耳に女神の声でアナウンスが流れた。
「迷っていたら、メニューと言いましょう。あなたができることが表示されます」
俺はアナウンスに従った。
「メニュー」
すると[異世界調理][変身][ログアウト]という文字が目の前に現れた。
「んーじゃあ。異世界調理?」
[異世界調理]とつぶやくと、使い方が頭の中に入ってきた。
「マジか……」
俺はその機能にドン引きした。
「ユーサク!今日は何が食えるんだ?てか、料理も材料もないけど大丈夫か?」
「ああ。大丈夫」
「そうか、じゃあ頼んだ。俺とゴフェルの分を頼む」
俺はゴフェルさんの方を見ると軽く会釈をされた。
「よし、やるか」
俺は頭の中で調理工程を思い出した。
「まずはジャガイモとニンジンを乱切り」
俺がそうつぶやくとジャガイモとニンジンが現れた。
「え?え?どういうこと?何これ?」
コータは驚いている。
「なんか家の台所や冷蔵庫の物を出せるみたい」
「すごー!」
俺の頭の中には台所や冷蔵庫にある物がリスト化されていた。
「まずは乱切り」
包丁が現れ、ジャガイモとニンジンを自動で切っていく。
「おおー!」
「タマネギはくし切り。豚肉は一口サイズ」
タマネギと豚肉が現れ、包丁がどんどん切っていく。
切られたのはボウルに入っていった。
「コータだけじゃなく、俺まで凄い力を手に入れたみたいだなー」
俺は自分の力にワクワクしてしまっていた。




