24週目.憤怒のサイルバルタン
姿が戻り、アビールに案内されて大きな扉の前に到着した。
「ここに憤怒の悪魔が?」
「そうです。サイルバルタン様がお待ちです」
アビールが扉を開けると部屋の中には頭が3つのオオカミの魔獣人が座っていた。
ケルベロスの魔獣人なのだろうか。
「こないだぶりだな、サイルバルタン」
ゴフェルはサイルバルタンに近づいていった。
「そうですね。ゴフェルさん!」
サイルバルタンの尻尾はブンブン動いている。
真ん中の顔がずっと喋っていて、両サイドに顔はニコニコしている。
「おい、言っただろう。私に敬称はいらん。ほかの大罪の悪魔にも舐められてしまうぞ」
「そうでした。すみません」
尻尾はしゅんと垂れ下がった。
両サイドの顔もしゅんとした。
2人の様子を見ていると、サイルバルタンはガタイがいいが背が少し低めなこともあり、年齢が若いように感じた。
そしてゴフェルへの信頼しているのがとても感じられた。
「えーっと、それでそちらの人間は?」
サイルバルタンはゴフェルに隠れながら俺を見た。
「こいつは私の手伝いをしてくれているコータだ。見た目通り人間だ」
「コータだ。よろしく」
俺がそういうとサイルバルタンがものすごい勢いで近づいてきて、俺の手を握った。
「そうなんですか!よろしくお願いします!!憤怒の悪魔サイルバルタンです!」
サイルバルタンは俺の手を振りながら、尻尾をものすごく振っている。
魔人領を治める幹部とは思えない姿だ。
「サイルバルタン。コータには良いが、外でそのような態度は絶対にするなよ」
「わ、わかってますよ!」
サイルバルタンの尻尾はまたシュンとなった。
なんか見た目通り犬みたいな反応で、少し愛着がわいた。
「それで本題だが、前任者に虐げられていた虫人族を保護したいのだが」
「はい!アビールさん、お願いします」
「わかりました」
アビールはそういうと部屋から出て行った。
▽ ▽ ▽
アビールは頭に鋏をつけた虫人族の男性を連れてきた。
たぶんクワガタの虫人族だろう。
「こちらの方が鍬形族の代表をしているダザさんです」
「ど、どうも…。それで何で呼ばれたんでしょうか?」
「え?説明してないのか?」
ゴフェルは驚いていた。
前もってサイルバルタンが説明をしていたと思っていたのだろう。
サイルバルタンは申し訳なさそうな表情をしていた。
「しょうがない。私が説明しよう」
ゴフェルはダザに自分の治めてる土地で保護したい旨を伝えた。
「えーっと。いいんでしょうか?サイルバルタン様」
ダザはサイルバルタンに問いかけた。
「うん。僕ではみんなをちゃんと守り切れないから、ゴフェルさんの所で安全に暮らしてほしい」
「わかりました。ゴフェル様、お世話になります」
ダザは頭を下げた。
無事に保護することが決まり、今後の計画を話し合うことになった。
「まだあいつからの嫌がらせはあるのか?」
「はい。時々ですが食料の運搬などを襲撃されてます。アビールさん達が対応してくれているのでどうにかなっていますが…」
「嫌がらせ?襲撃?」
俺が問いかけるとゴフェルが答えた。
「嫉妬の悪魔が魔獣人族が幹部になるのを未だに認めて無くてな。サイルバルタンが憤怒の悪魔になってから、何度も嫌がらせをしてきてるんだ」
「そういうことか…」
「だから私もここに来るときには龍の姿では来にくかったんだ。嫉妬の悪魔が変に勘ぐって邪魔してこられると面倒だからな」
「じゃあどうやって鍬形族を運ぶんだ?」
俺が問いかけるとアビールが答えた。
「船を準備しておりますので、そちらを使ってください。移動の際は我々が護衛しますので」
「いいのか?」
「はい。サイルバルタン様もゴフェル様に保護された者の様子を確認したいとおっしゃっているので、一緒に連れてってもらえますでしょうか」
サイルバルタンは首を激しく縦に振っている。
「うーん。わかった。それで行こう」
ゴフェルは頷き、運搬方法が決定した。
▽ ▽ ▽
話し合いが終わり、出発は明日の朝になった。
今日出発する予定だったが、明日が石の日ということをゴフェルに伝えたら変更になった。
もし嫉妬の悪魔からの妨害があった場合、ユーサクの料理が必要となる。
俺はゴフェルと共に客室に案内された。
そこで俺は今日感じた疑問をゴフェルに問いかけた。
「ゴフェル。サイルバルタンはなんでお前に懐いてるんだ?」
「ああ。それはサイルバルタンが幹部になったときにいろいろと手助けをしたからだろう」
「手助け?」
「エクストラスキルに目覚めるのは5歳から10歳の間。大罪の悪魔スキルを取得したものは、幹部として働けるように魔人領内の学院に行って学ぶのだ。だがサイルバルタンは魔獣人族ということで学院に入ることができず、何もわからない状態でこの土地を治めることになった」
「うわ!きついなそれは」
「私も学院に入れなかったが、龍人族の手助けがあった。だがサイルバルタンには手助けするものがいなかった。なので、仕事の仕方や部下の選出などを手伝ってやったんだ」
ゴフェルは懐かしそうに語った。
「アビール達も私が選んだ。とても優秀で、幼いサイルバルタンをしっかりサポートしてくれている」
「なるほどね。そういう経緯か。サイルバルタンが部下に「さん」をつけてたのに違和感があったんだよな」
「サイルバルタンが自分の仕事で手が回らないから、私の土地で魔獣人族を預かることにしたんだ」
「でもちょっと甘やかしすぎじゃないか?」
「そうかもな…」
ゴフェルはどこかサイルバルタンに自分を重ねているんだろう。
不自由ないように手を貸したことで、あのような性格になっていることを少し後悔しているようだ。
「まあ俺が言ったことだけど、あんま気にするな。成長するときは勝手に成長するもんだから」
「だといいんだがな」
ちょっと余計なことを言ってしまったんじゃないかと少し反省した。
明日に響かないといいんだが。




