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4週目.漬けマグロ丼とお吸い物

「いやーちょっと呑みすぎたか?」

俺はちょっとふらつきながら家に着いた。

今日は仕事の打ち上げに呼ばれた。

顔馴染みの人達だが、現場に行かないから滅多に会うことはない。

珍しく呼ばれたから行ってみたが、案の定呑まされてしまった。

「水を飲まないと」

俺は水道水をコップに入れて、一気に飲み込んだ。


「よし!金曜日だ。コータと姫に飯を作らないと」

俺は冷凍庫から小袋を2つ取り出した。

「今日のために、取り寄せた漬けマグロ。俺は明日食べるから2人の分だけ作ろう」


ボウルに水を入れ、漬けマグロの小袋をいれる。

蛇口を捻ったまま、水をボウルに流し続ける。


「流水解凍で10-15分か。ネギと海苔を切っておこう」

万能ネギと海苔を細かく刻んだ。


「汁物は手抜きでごめんだけど、寿司の出前についてきたお吸い物にしよ」

お椀にお吸い物の素をいれて、ケトルでお湯を沸かす。


お湯が沸くのを待っているとふと思った。

「今更だけど、姫って生魚平気か?多分あっちの世界って生魚食わないよな」

美味いものを食わせようと考えすぎて、食文化を忘れていた。

「うわーやってしまったか俺」



トゥントゥルルン♪トゥントゥルルン♪


タブレットが鳴った。

「お!きた!」

俺はタブレットを持ち、緑の受話器マークを押すとビデオ通話になった。


ディスプレイにコータと姫が映っていた。

「・・・・・・・・・」

何も音が聞こえなかった。

「ん?どうした?なんも聞こえないぞ!」

「あ!すまん。最近、姫と喋ってばっかりだったから、声出すの忘れてた」

「ん?どゆこと?」

俺はコータの言っていることが理解できなかった。


「いや、聞いてくれよ!先週オムライスを食べてる時に、なんか頭の中で声が聞こえるって思ったのよ」

「あー通話が切れるとき、変な感じだったのはなんかが聞こえてたってこと?」

「そーそー!そしたら、なんと!その声の主が姫だったのよ」

「え?どういうこと?」

「姫がエクストラスキルの『共有の女傑』とかいうのを取得したらしいんだ。そのお陰でテレパシーが使えるようになったんだよ!」

「えー!全然よくわかんないけど、なんとかスキル凄すぎ」

「俺のタブレットもレベルが上がって、カメラで見たものの鑑定が出来るようになったんだけど、それでわかったんだよ」

「鑑定ね。あの鑑定ね」

わけのわからない単語が飛び交っているせいで全然理解できなかった。

とりあえず、姫がテレパシーを使える事だけはギリギリ理解できた。


「ってことは、俺にもテレパシーをできる?」

ディスプレイの中の姫は俺の方を見つめてくる。

「こい!こい!こい!」

全然頭の中で声は聞こえてこなかった。


コータが申し訳なさそうにこっちを見ていた。

「ユーサク、すまん。無理みたいだ」

姫も申し訳なさそうに俺を見つめていた。


「ま、まあしょうがないよね…」

俺はわかりやすく落ち込んだ。


「俺が通訳するから、元気出してくれよ」

「ありがとう。姫は俺のことなんか言っているか?」

コータは姫の方を見た。

「姫が、ユーサクいつも美味しいご飯ありがとうだって!」

「うわー!コータ、泣いていいか?嬉しすぎて涙が出そうだ」

「その気持ちわかるぞ!俺もそうだった」

おじさん2人が涙目で話しているのを姫はくすくす笑いながら見ていた。


「そういえば、話せるようになったってことは姫の名前わかったのか?」

「いや、姫は物心ついたころら孤児で、名前のようなもので呼ばれたことがないんだって」

「ああ、苦労したんだね」

「姫が、俺とユーサクに出会えたから最近は楽しいよ!だってさ」

「あーいい子すぎだよ。そのセリフがお前の声なのは不満だー」

「それは本当にすまん。最近はテレパシーを使いながら、喋れるようにトレーニングしてるからもうちょっと待ってくれ」

「そうするよ。姫、今日もかわいいよ」

姫は照れ臭そうにしている。


「姫がいつもかわいいって言ってくれてありがとうだって」

「おじさん泣いちゃうよ」

俺の涙腺は終わっているようだ。



「ユーサク、泣いてないで今日のご飯をお送りください」

「あっ!それが、ちょっとミスっちゃって」

「え?無いの?」

「いや、漬けマグロ丼を用意したんだけど、そっちの食文化考えてなくてさ」

「あーなるほど。生魚かー。ちょっと姫に聞いてみる」


コータは姫を見つめていた。。

多分テレパシーで話しているんだろう。


「ユーサク!姫が言ったことをそのまま伝える」

「わかった」

俺は姫が生魚が無理なら違う飯を用意しようと思っていた。


「ユーサクが作る料理はいつも美味しいから、生魚は食べたことないけど食べてみる。だってさ」

「姫が優しい。コータ、なんか違うの用意しなくて平気か?」

「姫が食べるって言ってるし、何事も経験だ!」

「なんかコータがちゃんと保護者してる。わかった、俺も腹を括る。姫が食べられなかったら、来週はいつも以上に頑張る」

「じゃあ頼んだ!」

「最後の仕上げをしてくる」


俺はキッチンに行き、ケトルのスイッチを再度入れる。

どんぶりに米を盛り、漬けマグロが入った小袋を開けて米に乗っける。

万能ネギと海苔と胡麻をかけて、漬けマグロ丼完成。

カチッ

ケトルのお湯をお椀に注ぐ。お吸い物の完成。

完成したものと、お茶のペットボトルと箸とスプーンをテーブルに置く。


「お待たせしました。漬けマグロ丼とお吸い物、飲み物はペットボトルの日本茶。ぜひ食べてみてください。

転送!!」


漬けマグロ丼とお吸い物が光ってなくなった。

そしてカウントダウンが始まった。



「きた!ユーサクありがとう!じゃあさっそくいただきまーす」

コータは漬けマグロ丼を食べていく。

「やっぱり生の魚はうまいなー!味がしっかり染みてるよーてか醤油最高だ」

「よかったよかった」

コータは味に満足してくれているようだ。


俺は姫を見てみるが、まだ手をつけてない。

「姫、無理しなくていいからね」

姫は首を横に振り、スプーンで漬けマグロを掬って口に運んだ。

「おいしい」

姫が呟いた。


「「え?」」

一瞬、時が止まった。

姫自身も自分の声が出たことに驚いているようだった。

「えー!姫が喋った?」

「姫の声かわいすぎ!てかやばい時間が。コータ!来週の金曜日、なに食べたい?」


ディスプレイは暗くなっていた。


「また聞けなかった。でも姫が喋れてよかった。なんか騒いだらお腹空いたな。俺も漬けマグロ解凍するか」


俺はキッチンに行き、漬けマグロの解凍を始めた。




別作品の投稿もしています。

一緒に読んでもらえると、本作が少し面白くなると思います。

良ければ読んでください。

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