23週目.盛岡冷麺
「あー先週の疲れが取れない。これはまじで歳か」
俺は首を鳴らしながらつぶやいた。
今週はずっと仕事漬けだった。
先週買った大量の食料が残っているおかげで、食事だけは苦労しなかった。
「今日は何を作ろうか」
俺は冷蔵庫や食糧庫を確認した。
先週食べなかった盛岡冷麺を見つけた。
「具材もセットになってるし、今日はこれを処理するか」
見つけた盛岡冷麺は味付き牛肉、甘酢きゅうり、キムチが小分けにされてついてた。
「あと何がいるんだ?」
スマホをいじり、盛岡冷麺のトッピングを調べた。
「ゆで卵とリンゴ?スイカ?ちょっと俺にはハードルが高いかもな。甘酢きゅうりがそれの代わりなのか?」
俺はとりあえず茹で卵だけ作ることにした。
▽ ▽ ▽
茹で卵を作り終わり、仕事を進めていた。
クシカ♪クシカ♪
不快な着信音が鳴った。
『メッセージ』を開くと、コータから連絡が来ていた。
[今からゲームいけるか?モンスターを倒しに来てるんだけど]
俺はすぐに返信した。
[いいよ。マスクはまだ帰ってきてないから、タブレットになるけど]
クシカ♪クシカ♪
[わかった。30分後呼ぶわ]
[りょーかい]
俺は『ゲーム』がいつでも来ていいように準備をした。
タッタラー♪ダン!ダン!タッタラ―♪ダン!ダン!
音楽が部屋に鳴り響いた。
俺はタブレットを持ち、【スタート】をタップした。
するといつもとは違う画面になった。
[ダンジョンボス討伐報酬です。取得する弾を選んでください]
【次へ】をタップすると、3つの弾が出てきた。
○発火弾
弾が当たったところが発火する。
○粘着弾
3分間どんなものでもくっつくことが出来る弾。
○回復弾
当たったものを回復させる弾。
「そういえば次回ログイン時に弾を選べるみたいなこと言ってたな」
俺は悩んだが、コータのサポートをするために【粘着弾】をタップした。
[10秒後プレイ画面に移行します。プレイ時間は1時間。それでは良いバトルを]と目の前に表示された。
カウントが進んで0になると、スマホのバトロワゲームのような画面に切り替わった。
操作ボタンに新しいものが追加されていた。
弾丸マークに曲がった矢印が描かれたボタンだ。
多分これが弾の切り替えだろう。
「おーい。ユーサク!」
コータの声が聞こえてきた。
「悪い悪い。ダンジョンボス倒した報酬で新しい弾を手に入れた」
「え?まじ?」
「まあサポート系にしたからあんまり期待せずに」
「楽しみだ!」
コータは俺の話を聞いていないようだ。
「それで今日はどこにいるんだ?」
「遠出はしてない。ラドニークのところの近くだ」
「そうなんだ。ユイとヤリネは?」
「もう先に戦いに行ってる。ちょっと俺はユーサクと話がしたくてな」
「ん?話?」
コータは真剣な表情だった。
「先週の呼び出しの後、ドジ女神にコング達の数年後を見せてもらった」
「え?」
俺はユーサクが見たものと神様から聞いた話を話してくれた。
話の内容はなかなか受け入れにくいものだった。
「防衛成功するって聞いてたから安心してたけど、そんなことがあったのか」
「うん。俺の選択で未来が変わる可能性があるみたいだ。正直、自分の判断だけじゃ自信がない。だから俺が間違って選択をしそうなときは教えてくれないか?」
コータが真剣な表情をするのは珍しい。
だからこそ、ことの重要さが伝わってくる。
「わかった。お前が間違えそうになったら俺が撃ってでも止める」
「もうちょい優しく止めてくれないか?」
コータは苦笑いをした。
「あとクソ女神が言ってたんだが、また大きな手伝いがあるらしい」
「また時代を渡るのか」
「そーだよ!」
俺の目の前に女神が現れた。
「うわ!画面いっぱいに出てくるのやめてくださいよ」
「ごめん、ごめん!」
多分女神はわざとやってる。
「それで次の手伝いは?」
コータが問いかけると女神はにニコッと笑った。
「長期の2つと短期のが1つあるよ。まあどっちもだいぶ重要だから頑張ってね」
「やれることはやるよ」
「どっちからやる?短期?長期?」
レッドホーミングのTシャツを着ている女神は歩き回りながら聞いてくる。
「どっちでもいいが、この時代には帰って来れるんだよな?」
「うん。今回はねー」
俺は今回という言葉に驚いた。
「待て待て、いつかこの時代に戻れなくなるってこと?」
「うん。そーだよ」
女神は呑気に答えた。
「ユイも一緒に行くんですよね?」
「うーん。連れて行けないかなー。というより連れて行かない」
「え?」
「だから、ユイちゃんとの時間を大切にしてね」
俺はいきなりの事で呑み込めなかった。
「それで今回の手伝いはユイは連れて行けるのか?」
コータは平然としていた。
事前に聞いていたか、気付いていたのだろう。
「長期は2人だけ!短期は連れて行ってもいいよ。あとお手伝いの前にコータにはちょっとやってもらいたいことがあるから」
「わかった」
コータは頷いた。
状況を飲み込めてない俺に気付いた女神が話しかけてくる。
「ユーサク。ユイちゃんとそんなに離れたくないの?」
「え?」
「あと何個か手伝いがうまくいけば、ユイちゃんとまた居られるかもよ」
「「え?」」
コータも驚いていた。
「うん!だから頑張ってね」
そういうと女神は目の前から消えていった。
「コータ。俺もがんばるよ」
「まあ俺ら2人ならなんとかなるだろ」
俺とコータは気持ちを切り替え、ユイとヤリネの元に向かった。
▽ ▽ ▽
無事にモンスター討伐を終えた。
俺は次の呼び出しが夜になるとわかったのでリビングでだらけていた。
「ユイと別れたくはないな。手伝いを成功させ、なおかつ未来を変えないようにしないとダメってことだよな。てか成功してる未来を変えないってことは、手伝いは成功するんだろ?なんか話がおかしくないか?」
俺はタイムパラドックスが理解できなかった。
「もしかして女神が言ってることは嘘で、未来をいい方向に変えさせてるのか?」
俺はいろいろ考えてみたが、答えは出なかった。
そういえばヤリネの奴隷商が出来上がったらしい。
モンスター討伐中にヤリネがうれしそうに報告してくれた。
なので今日の食事は、その奴隷商で食べることになった。
まだ時間があるので、俺はパソコンへ向かって仕事を進めた。
▽ ▽ ▽
トゥントゥルルン♪トゥントゥルルン♪
タブレットが鳴った。
「よし、来た!」
俺は緑の受話器マークを押してビデオ通話にした。
ヤリネがディスプレイに映っている。
背景は物凄く豪華な建物だ。
「おーすごい。ここがヤリネの奴隷商?」
「はい。どうですか?」
ヤリネはタブレットをゆっくり360度回してくれた。
コータもユイも居た。
「品があるね」
「家具とかはコータさんが持ってたモンスターの素材などを貰って作ってもらいました」
「へーそうなんだ」
よく見てみると絨毯などが明らかにモンスターが素材の品だった。
「それで今日は料理は何ですか?」
「冷麺っていう麺だよ」
「麺?」
ヤリネが首をかしげるとユイが口を開いた。
「もつ鍋の時に最後に食べたチュルチュルのやつだよ」
「あーあの長細いやつですね」
ユイの記憶力はすごかった。
シメの麺を用意してたことなんて完全に忘れていた。
「じゃあ準備してくるからちょっと待ってて」
俺はキッチンに向かい麺を茹で始めた。
スープは水で溶かすだけだから、茹で終われば盛り付けて出来上がりだ。
麺が茹であがり、盛り付けも終えた。
テーブルの上に並べた。
「転送!」
テーブルの上のものが光ってなくなった。
カウントダウンが始まった。
「今日も美味そうだな。いただきまーす!」
「「いただきまーす!」」
3人は冷麺を食べ始めた。
「感触が良いな。韓国の冷麺も好きだけど、俺はこっちのほうが好きだな」
「チュルチュルおいしー」
「この牛肉美味しいです」
ヤリネは本当に牛肉が好きみたいだ。
「そういえば、ヤリネは旅をあんまり出来なくなるの?」
「そうですね。レベルもだいぶ上がりましたし、この奴隷商を稼働させないと」
ヤリネは前に比べてだいぶ心強くなった。
メイスでモンスターの群れを殲滅するくらいには成長していた。
「ユーサク!来週はパーティーするか」
「わかったよ。牛肉メインのを考えるよ」
「本当ですか?」
「そのかわり、奴隷になった人達のためにがんばってよ」
「はい!」
ディスプレイは真っ暗になった。
「ヤリネはお別れになっちゃうのか。やっぱりさみしいな」
俺は自分の冷麺を茹でにキッチンに向かった。




