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EX06.終戦

私は斬られた。

そう刺青男は思っているだろう。


「は?へ?なにこれ?こんな腕いらないよ」

私の身体はドット体に変わっていた。

無数の立方体で出来た身体にはハサミの刃が当たることはなかった。


「この村に来てから取得したから、王国じゃ把握してなかったでしょ?」

「せっかくの綺麗な腕がぁぁ!なんてことしてんだぁぁ!」

刺青男は腕を飛ばしてきたが、ドット体の私を掴むことすらできてない。


「私の腕が欲しかったんでしょ?」

私は刺青男に腕を飛ばした。

ドット体の腕は銃弾のように刺青男の身体を貫通していった。


「ぐっぐがっああ!!」

「大好きな腕にやられる気分はどう?」


私は倒れている刺青男と腕を縛り、ベンジーの元へ向かった。



▽ ▽ ▽



俺は吹き飛ばしたサンタクロースを探しに来た。

「あれ?こっちに飛ばしたんだけどな」


森の中を探していると和服を着た男性がサンタクロースを担いでいた。


「お前誰だ?」

和服男は振り返ると物凄い笑顔だった。

「あなたと同じ転移者ですよコングさん」

俺はこの男の笑顔に恐怖を感じた。


「そのサンタを置いていってもらおうか」

「うーん。見逃してもらえないですか?」

「無理だな」


和服男は笑顔で口を開く。

「じゃあ交換条件にしませんか?」

「内容による」

「今日以降、エサトスへの進行はしないですよ。ワイアット王国にも」

和服男はワイアット王国に吸収されるのを知っているようだ。


「そいつを連れて行くだけでいいのか?」

「はい。今後必要なんですよこのサンタが」

「なんでだ?」

「国を再建するためには必要なんです」

「再建?」

俺は和服男の言っていることが理解できなかった。


「ゴデュア王国は滅んだんですよ。あなた方への進行とダラーガ帝国との戦争のおかげで」

「おかげ?」

「はい。国が手薄になっている間に私が国王とその部下を全員殺しました」

笑顔でそう言う和服男の圧はもの凄かった。


「なので私が国王になって再建しようと思うのです。みんなが笑って生きられるような国にしたいんですよ。そのためにサンタは必要でしょ?」

「そいつが人を笑顔にできるとは思えないが」

「ははは。手厳しいですね。今後は戦争をするつもりがないので、このまま返してくれるとうれしいんですが。戦ってもいいですが、私が国に居ない間に他の者が再建してしまうと、また戦争をするような国が生まれるかもしれませんよ」

俺は悩んだ。だが今この男と戦っても勝てないだろう。

信用は出来ないが、話に乗るのが最良かもしれない。


「わかった。サンタを連れて行っていい」

「ありがとうございます。お礼と言っては何ですが1つ良いお話を聞かせましょう」

「なんだ?」

「私が殺した国王が、決着がつかないのにイラついて試作品で作っていた魔導砲を発射させたんです。あっ!魔導砲っていうのは魔力を発射する大砲です」

「は?」

和服男はニコニコしている。


「試作品なので1発しか打てなかったようですが、しっかり発射されたようです」

「それはどこに向かって撃ったんだ?」

「わかりません。この戦場なのかダラーガ帝国との戦場なのか。まあ1発なのでどちらかですね」

「着弾はいつだ?」

「わかりません。でもそろそろじゃないですか?私も巻き込まれるといけないのでそろそろお暇しますね」

和服男はそういうとものすごいスピードでいなくなった。

「まずいぞ。どうにかしないと」



▽ ▽ ▽



爆煙が晴れるとボロボロに倒れているピエロ男と見知らぬスーツの男が居た。

「お、お前は?」

僕の体力も限界だった。


スーツ男は僕を見るとメガネをくいっとあげた。

「どうも。すみませんがこの人回収しますね」

「どこへ連れて行く気だ?」

「すみません。時間がないんです。そろそろ魔導砲が着弾するので」

「は?ど、どういうことだ」


スーツ男はノートパソコンをいじっていた。

「えーっと。添付、送信!」

ピエロ男が消えた。


「僕も巻き込まれたくないので、失礼しますね」

「ま、魔導砲ってなんなんだ」

僕がそう聞くと、スーツ男は頭を掻きむしった。


「あー!うるさいな!ここに物凄い攻撃が降ってくるの!ここに居たら死ぬから早く移動したいんだよ」

「な、攻撃?」

「あんたはここで死ぬんだから知らなくてもよかったんだよ!あー時間が!添付、送信」

スーツ男は目の前から消えた。


「ど、どうにかしないと」

僕は立ち上がった。

「ベンジー!」

振り向くとニッキ―がいた。


「大丈夫だった?」

「うん、なんとか。ベンジーはボロボロじゃない」

「ああ。ギリギリ勝てたよ」

「良かった。早く帰ろう。コングさんも帰ってきてる」

ニッキ―は僕に肩を貸してくれた。


「ダメなんだ。ここに物凄い攻撃が降るみたいなんだ」

「え?」

ニッキ―は驚いている。


「なんとか止めないと。それにもう1人と戦っていた冒険者達も心配だ。僕はここに残るから、冒険者達を見てきてくれ」

「え、え?」

「頼む。君にしか頼めないんだ」

「わ、わかったわ」

ニッキ―は冒険者達が向かった方へ走って行った。


「コータさん。こんなにはやくこれを使うタイミングが来るとは思いませんでした」

僕は注射器をマジックバックから出した。


▽ ▽ ▽


俺は急いでベンジー達の元へ向かった。

すると途中で倒れている冒険者達を見つけた。


「おい!どうしたんだ?」

火傷が多い。サンタの野郎が村に来る前に戦っていたのだろう。

魔導砲がどれくらいの規模かわからないが、巻き込まれない様に冒険者達を担いで移動させた。


「コングさん!」

冒険者達を運んでいると、ニッキ―がやってきた。


「遅くなってすまん。大丈夫だったか?」

「はい。でもベンジーが」

「ベンジーがやられたのか?」

「いえ。物凄い攻撃がここに降るみたいでそれを一人で防ごうと」

「魔導砲か」

「魔導砲?」

和服男のやつ、ここが攻撃されるのを知ってたんじゃないのか。


「ベンジーの事はわかった。すぐに向かおう」

俺がそういうと空がものすごい光を放った。


空から巨大な魔力の塊が降ってきた。

「まずい。間に合わない」


すると魔力の塊の下に同じように巨大な魔力の壁が現れた。

魔力の塊は魔力の壁にぶつかった。

ぶつかった衝撃があたり一面を震わした。

壁はどんどん空に向かって進み、魔力の塊は空中で破裂をした。


その衝撃で俺とニッキ―と冒険者達は吹き飛ばされた。



▽ ▽ ▽



騒動から1週間ほどが経った。


魔導砲を止めたのはベンジーだった。

一番近い距離であの衝撃を受けたから、いまだに目を覚まさない。


俺や冒険者達は大小けがを負ったが命に別状はなかった。

サンタクロースに蹴られたヒューズも気絶はしていたが怪我はなかった。鍛えておいて本当に良かった。


村の小屋が数棟壊れていた。

ベンジーが村の周りに柱を立ててくれたおかげで被害は最小になったのだろう。

本当にベンジーはヒーローだった。

俺はベンジーが目を覚ました時の為に、村の復旧を急いだ。



▽ ▽ ▽



あれから5年が経った。

無事ワイアット国に吸収され、エサトル領になった。

村は大きくなって街になり、俺はギルドマスター、ベンジーはこの街の町長になった。


あの戦闘の後、ベンジーは目を覚ますと歩けなくなっていた。

本人が言うには膨大な魔力を使ったせいで身体にダメージが来たと言っていた。

マスクをつけていると多少は歩けていたが、ニッキ―が付きっきりで介護をしてくれている。

俺はいろいろなコネを使って、車いすの作成を依頼した。

元の世界の物よりかレベルが低いがどうにかなっている。



そして今日はヒューズとリリアンがこの街から旅立つ日だ。

冒険者としての第1歩だ。

この街で稽古をしながら冒険者活動をしていたが、そろそろ外の世界を見るべきだ。

まずはワイアット王国の先にあるナハナ迷宮国へ行き、ダンジョンに挑戦するという。

正直2人だけだとだいぶ心配だが、信じて送り出そうと思う。


「おい、ジジイ!泣いてんじゃねーよ」

俺は涙が止まらなくなっていた。


「しょうがねーだろ。手塩にかけた子ザル達の旅立ちなんだからよ」

「はいはい。ベンジーさんもニッキ―さんもわざわざ見送りありがとう」

「僕にとっても君達は大切な存在だからね。無理をしないでたまに遊びに来てくれよ」

「「はい!」」


リリアンが少しもじもじしながら口を開いた。

「みんなに胸を張れるような冒険者になるわ」

「楽しみにしてるぞ!」

俺はリリアンの頭を撫でた。


2人は馬車に乗り込み出発をした。


「寂しくなりますね」

ベンジーがしみじみ言った。


「そうだな。でもまだ弟子は居るからな、そいつらの訓練は今まで通りやらないとな」

「ははは。そうですね。がんばらないと」

「クソガキばっかだからな」

「口が悪いですよ」


俺らは会話をしているが顔をまったくあわせなかった。

多分理由は同じだろう。

顔が涙でぐちゃぐちゃだからだ。

ニッキ―は俺らを見て、クスクス笑っていた。


「でも僕らが教えた内容を、将来ヒューズとリリアンが誰かに教えてくれるとうれしいですね」

「ははは。コング流武術とベンジー流魔法術か?」

「ダメですね。だいぶ名前がダサい」

「そうだな」

俺達は馬車が見えなくなるまで見送りを続けた。


「そろそろ帰るか」

「そうですね」

俺らが家へ帰ろうとすると、呼び止められた。

「久しぶりだな、2人共!あとそこのお姉さんは俺のこと覚えてるかな?」


聞き覚えのある声に俺らは驚いた。




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