EX02.英雄マーシー
この世界に来て20年ほど経った。
『不老不死』の効果で僕は老いもせず、今でも15歳の見た目だ。
冒険者を始めてから5~7年ほどは楽しくやれていた。
▽ ▽ ▽
15年前。
「マーシー!起きてよ」
僕はいつものようにユーンに起こされた。
「お、おはよ」
「おはようじゃないわよ。早く準備してよ。ホルンも起こさないといけないんだから」
そういうとユーンは部屋を出て行った。
僕達はあれから正式にパーティを組み、拠点の街に小さい家を買って3人で暮らしていた。
ランクもCランクになり、そこそこ稼げるようになった。
僕はリビングへ行くと、まだ目が開いていないホルンが椅子に座っていた。
「おはよ」
「おーおはよ」
ホルンは半分寝ているようだ。
「ちょっと!昨日見つけたダンジョンに行くんでしょ?早くしないと他のパーティに攻略されちゃうよ」
「大丈夫だろ。あのダンジョンの情報はギルドに無かったんだから、未発見のダンジョンだったってことだろ?」
「そうだけど!未発見のダンジョンってことは階層が浅い可能性があるから、すぐ攻略されちゃうって」
ホルンが落ち着かせようとするが、ユーンはダンジョンに早く行きたくてしょうがないようだ。
僕はホルンに助け舟を出すことにした。
「昨日ギルドに報告したばかりだから、他の冒険者に共有されるのはもっと後になるだろうから、そんなに急がなくても平気だよ」
「そうかな?」
ユーンは心配そうだった。
「あるとしてもギルド職員の調査くらいだと思うよ」
「わかったよ。じゃあ少しゆっくりしていいから。でも昼過ぎには行くからね!」
「「はーい」」
僕とホルンは椅子に座ったまま目を閉じた。
▽ ▽ ▽
僕達は準備を済ませた。
ホルンは僕をジロジロ見てくる。
「どうしたの?」
「いやー。マーシーは若くていいなーって思って」
「そう?25にもなって子供みたいな見た目なのは嫌だけどな」
「そうか?俺はいつまでも若くいたいけどな」
ホルンはそう言いながら自分の頬をさすった。
僕は『終わりなき学問』や『不老不死』の事は2人には言っていなかった。
今までの依頼は魔法だけでやれてきたし、わざわざ説明する必要もないと思っている。
「じゃあそろそろダンジョンに行こ」
「「おう」」
僕達が家から出ると叫び声が聞こえた。
「おい!避難しろ!モンスターの大群だ」
叫びながら走っているのは冒険者ギルドの職員だった。
「どうしたんですか?」
「お前らか。すぐに逃げろ!昨日お前らが発見したダンジョンがスタンピードを起こした」
「「「え?」」」
スタンピードとはダンジョンに大量に出てくることだ。
基本的にはダンジョンの魔物が外に出ることは少ないのだが、スタンピードはすべての階層から大量の魔物が出てくるのだ。
原因も分かっていないので、もはや災害だった。
「逃げるの?戦わなくていいの?」
「無理だ。調査に同行してもらったBランク冒険者もやられた。この街はすぐに滅びる」
「そ、そんな」
ユーンは戸惑っていた。
しょうがないよね。こんな時に力を隠すのは良くないよね。
「僕が止めます」
「「「え??」」」
3人は驚いていた。
「学友召喚!骸骨学生!」
僕の周りに学生服を着た骸骨が200体現れる。
「え?なんなのこれ?」
「おい、マーシ―これは?」
2人は驚いていた。
「ごめん。これは僕のエクストラスキルの能力なんだ」
「し、知らなかった」
「まじかよ」
「職員さん。僕が時間を作るんで、街の人の避難と戦える人の準備をお願いします」
「わ、わかった」
ギルド職員は頷くと猛スピードで走って行った。
「2人は街の人の避難の手伝いを」
「わ、わかった」
「マーシーは大丈夫なの?」
ユーンは心配そうにこっちを見ていた。
「問題ないよ。こいつらがいるから」
「わかった」
納得したのか、2人は街の人の避難に向かった。
「よし。やるか」
僕は学生帽をしっかり被り直した。
「学友召喚!骨馬!骨鳥!餓者髑髏!」
地面から骨の馬と骨の鳥と大きな骸骨が現れる。
「みんな乗り込め、行くぞ!」
骸骨学生は骨馬や骨鳥に乗りこんだ。
餓者髑髏は僕を掴んで手のひらに乗っけて歩き出した。
「あれだな。なかなか近くまで来てるな」
スタンピードは街の目の前まで来ていた。
「行くぞ、戦闘開始!」
僕の学友達はスタンピードに向かって行った。
▽ ▽ ▽
骸骨学生達に街の防衛は任せ、僕はダンジョンに向かった。
最下層に居るボスモンスターを倒せばスタンピードは止まると聞いたことがあった。
餓者髑髏にダンジョン前で降ろしてもらい、僕は最下層に向かった。
▽ ▽ ▽
最下層には豪華に着飾った骸骨が居た。
『鑑定』で確認するとノーライフキングというモンスターらしい。
ステータスを見た僕は親近感を感じた。
「『不老不死』か。でもアンデットモンスターは僕と違って成仏しちゃう可能性あるよね」
ギャアアアア!
ノーライフキングが叫ぶと大量の火の槍が飛んでくる。
「泥龍!」
泥で出来た龍が火の槍を飲み込んでいく。
土魔法と水魔法を混ぜた攻撃は火魔法に効果抜群だった。
ギャアアアア!
ノーライフキングは石の槍と風の刃を飛ばしてきた。
「めんどくさいな。学友召喚。骨竜!」
僕は骨の竜を召喚し、ノーライフキングに攻撃させた。
骨竜の攻撃をノーライフキングは瞬間移動で避けていく。
ギャアアアア!
ノーライフキングは手のひらから光の球を出し、骨竜に当てた。
「聖魔法も使えるのか。でも残念ながらお前達と違ってうちの学友はアンデットじゃないから効かないよ!」
『学友召喚』で召喚した骸骨学生達は、この世界にいるスケルトンというアンデットモンスターに似ているが全く別物だった。聖魔法も効かないし、死ぬことがないのだ。
『学友召喚』を初めて使った時は驚いた。
元の世界の知り合いを召喚できるのかと思っていたが、そんな能力ではなかった。
僕と同じように死なない存在を召喚する能力だった。
骨竜はノーライフキングを圧倒していたが、やはり『不老不死』のせいで倒せないようだ。
「試してみるか」
僕は聖魔法を使うイメージをした。
「合掌!」
僕が構えると、ノーライフキングの横に光で出来た大きな掌が現れた。
パン!
僕が手を合わせると、同じように光の掌はノーライフキングをつぶして浄化をさせた。
「成仏できたかな?」
ノーライフキングのいたところを見てみると、頭が転がっていた。
「鑑定!」
○不死王の骨面
ノーライフキングの骸骨で作られた面。
魔力増(超)・認識阻害(超)・瞬間移動
「すごいアイテムだな。貰っちゃおう」
僕は学生鞄に骨面を入れた。
当たりを見渡すと壁がうっすら光っていた。
「採掘爪!」
壁を壊すと中には大きな水晶が入っていた。
掘るときの衝撃で水晶は割れていた。
「これってダンジョンコアとかいうやつ?」
冒険者ギルドの本部があるナハナ迷宮国からダンジョンの情報は共有されていて、そういう情報は必ず目を通すようにしていたので知っていた。
「ってことは、ダンジョンが消滅しちゃう」
僕は急いでダンジョンから退散した。
▽ ▽ ▽
街へ戻ると返り血を浴びた骸骨学生が整列していた。
街は守り切れたようだった。
「「マーシー!」」
ホルンとユーンが駆け寄ってきた。
「大丈夫だったの?」
「まあなんとかね」
ユーンは安心したようだ。
「それにしてもお前凄いぞ、一人でスタンピード止めるなんて英雄だよ」
ホルンは興奮しているようだ。
「ははは。そんな英雄なんかじゃないよ」
「英雄だよ!マーシー、お前はすごい!」
ホルンに物凄く褒められて悪い気はしなかった。
「スタンピードを止めたことを報告に行きたいんだけど」
「そうだな、行こう」
ホルンに肩を組まれながら報告へ向かった。




