EX01.マサシの冒険
この世界に来て、大体1年半ぐらい経った。
スキルのおかげで生活は安定していた。
コータさんが連れてきてくれた国はコナリオ王国という所だった。
島でいろんなことを教えてもらったが、いろいろ違っていた。
冒険者や冒険者ギルドというものはあったが、ランクというものはなかった。
ギルドの運営もずさんなものだった。
一応登録をして冒険者として活動をしているが、職に就いている感じではなかった。
情報の微妙なずれからコータさんはこの時代の人間じゃないと僕はそう結論付けた。
▽ ▽ ▽
「今日もよろしく!」
「マーシー!待ってたぞ。今日も稼がせてくれよ」
「ホルン!モンスターの被害を受けてる村を助けに行くんだよ。お金の事ばっかり言わないの!」
この2人は最近よく一緒に活動している冒険者のホルンとユーンだ。
そして僕はマサシではなくマーシーとして活動していた。
「でもよ、マーシーと一緒に活動するようになってから稼ぎが増えたのは事実だろ?」
「そうだけど、私達は仲間なんだから、そういう利用するみたいな言い方しないで!」
「わかったよ…。俺だってちゃんとマーシーの事を仲間だと思ってるし」
ユーンはホルンを怒ると、ホルンは少し落ち込んだ。
「僕は大丈夫だよ。僕も稼げた方がうれしいしね」
そういうとホルンは笑顔になって声をあげた。
「ほらな!マーシーが良いって言うんだから良いだろ!」
「調子に乗らないの。マーシーもホルンに甘いよ」
「そうかな?」
「そうだよ」
歳が近いせいか、僕達は仲良くやれていた。
▽ ▽ ▽
「マーシー!ワーフロッグを頼む」
「わかった。ファイアボール!」
僕は手のひらを2足方向のカエルのモンスターに向けてファイアボールを飛ばした。
魔法は島で一通りコータさんに教わった。
『理解力』のおかげで、数回見れば覚えることができるのはだいぶ便利だった。
「土拳!」
僕が拳を付きだすと大きな土の拳が飛んで行き、ワーフロッグにぶつかった。
『応用力』のおかげで自分で考えた魔法を発動することができた。
ホルン達の方を見ると、ホーンフロッグに苦戦していた。
「四色大蛇!」
僕は火・水・風・土でできた大蛇を出してホーンフロッグに攻撃をした。
大蛇に当たったホーンフロッグは絶命した。
「ありがと、マーシー」
「大丈夫だった?」
「なんかヌメヌメしてて攻撃が当たらなくて」
ホルンとユーンは粘液が付いた剣を見ながら言った。
「これで依頼は完了?」
「おう。早く村に行って報酬を貰いに行こうぜ」
ホルンがそういうとユーンが怒った。
「まずは魔石の回収と素材の剥ぎ取りでしょ!魔石と素材だって売れるんだから」
「やるつもりだったよー」
ホルンはそう言いながらモンスターの死体の元へ向かった。
▽ ▽ ▽
「何が冒険者だ。適当な仕事しやがって!」
僕達は依頼のあった村に報告に来たが、なぜか村長に怒鳴られていた。
「こっちの依頼は、ホーンリザードとリザードマンの討伐だって言ってるだろ!」
「私達がギルドで受けた依頼はホーンフロッグとワーフロッグの討伐でしたよ」
ユーンがそう言うと、村長が怪訝そうな顔で口を開く。
「これだから冒険者っていうのは信用ならないんだ。適当な仕事をして金だけ持って行くつもりか?」
「そ、そんなつもりは」
「依頼をしっかり完了せずに金を貰おうとしてるのは事実じゃないか!」
「そ、それは…。わかりました。再度、ホーンリザードとリザードマンの討伐に向かいます」
「もういい!」
「え?」
「冒険者なんて信用ならん。依頼は取り消す!モンスターは我々でどうにかする」
村長の発言を聞いたホルンは怒鳴った。
「てめぇ、さっきから聞いてれば!」
「やめてホルン!」
村長に飛び掛かりそうになっているホルンをユーンは静止した。
「だ、だってよ」
「いいの」
ユーンは村長を見て口を開く。
「依頼取り消しについては了解しました。私達は帰ります」
「早く帰れ!適当に仕事しやがって」
村長の怒号を浴びながら、僕達は村を出た。
このようなことは良くあることだった。
ギルドのシステムがしっかりしていなく依頼料をギルドから貰う場合と依頼人から直接貰う場合があり、どちらも情報共有の不備なのか、依頼人側が嘘をついているのか、揉めることが多い。
なのでただ働きになることは珍しくなかった。
▽ ▽ ▽
2日後、僕が泊まっている宿にユーンがやってきた。
「マーシー。この前の依頼の村だけど」
「ん?どうしたの?」
「リザードマンに襲われて、村に人が全員亡くなったって」
「え?」
「私達が依頼をしっかり完了していれば…」
ユーンは泣き出してしまった。
「あれは仕方ないよ。僕達に出来ることはなかった。知らされていた依頼内容が間違ってたんだから」
村を追い出されてからギルドで依頼内容を再度確認したが、依頼内容はホーンフロッグとワーフロッグの討伐だった。
「でも、でも」
ユーンは泣きやまなかった。
この件があってから、僕達は冒険者ギルドに改善を求める抗議を行うようになった。
コータさん、未来では改善されているんですよね?
▽ ▽ ▽
それから半年が経った。
各地で同じような揉め事が起こったらしく、冒険者ギルドのシステムは大きく変わった。
ナハナ迷宮国という国に冒険者ギルドの本部を置くことになり、すべての冒険者ギルドはそこの管理下に置かれることになった。
冒険者と依頼はランク分けされるようになり、報酬もギルドが責任を持って預かるようなシステムになった。
ナハナという国はダンジョンというもので生計を立てている国らしく、有能な冒険者が多く居るという。
引退をしたナハナ出身の冒険者達が各国に派遣され、ギルドの管理をすることで統率を取っているらしい。
僕の予想だが、冒険者ギルドの改革に一役買っているのは僕と同じ世界の人間なんじゃないかと思っている。
コータさん。あなたの言っていたような世界になってきましたよ。
「マーシー!出発できる?」
ユーンとホルンがやってきた。
「うん。大丈夫だよ」
ホルンが僕をジロジロ見ている。
「マーシーは装備は買わなくていいのか?いつもその服だけど」
「いいんだよ。この服は頑丈だし、雰囲気は大事なんだよ」
「雰囲気?」
キョトンとするホルンを置いて、僕達は依頼に向かった。




