22週目.選択した未来
「よし。元の時代に戻ってきたってことでいいんだよな?」
「うん。お疲れ。お手伝い良くできましたー」
クソ女神は俺を撫でようとぴょんぴょん跳ねている
。
「おい。なんで時間を止めたままなんだ」
「ん?聞きたいこととかあるんじゃないの?ないなら時間動かすけど」
この女神のすべてを理解している感じがむかつく。
「コング達はどうなった?」
「うん。じゃあ行くよ!」
パンパン!
クソ女神は手を2回叩いた。
俺の目の前は先ほどいたラドニークに用意してもらった家ではなく、森に来ていた。
ユイの姿もなかった。
「おい!どういうことだよ」
「実際に見せながら説明したほうがよくない?」
そういうとクソ女神は俺の手を引いて歩き出した。
少し歩くと城壁に囲まれた街が見えてきた。
「ここはワイアット王国のエサトス領のタンドールの街だよ」
「エサトス領って…。まさか負けたのか?ワイアットって国に攻め込まれてたのか?」
俺はクソ女神に詰め寄った。
「きゃははは。心配しないでよ。ワイアット王国は戦争してた国じゃないよ。攻め込んできたのも違う国。防衛は成功したって言ったじゃん」
「ああ、そうか」
「エサトスはだいぶ前から崩壊寸前だったんだよ。王様はいい人だったんだけど才能が足りなかったんだ。国民を苦しませないために、戦争をしていない友好的な隣国のワイアットに吸収合併してもらったんだ。一応王政だったから自分の命を差し出すつもりだったみたいなんだけど、ワイアット国王の慈悲で貴族として爵位をもらい、ここの土地の領主を任命されたんだよ」
「なるほど」
「ちなみにタンドールの町長はベンジーだよ。それと冒険者ギルドのマスターはコング」
「え?」
「じゃあ見に行こー」
そういうと俺の身体は浮いて街へ向かって行った。
立派な家の2階の窓の前に付いた。
中を覗くと少し老けたベンジーがいた。
「君が渡したアイテムを使ったことが防衛の決め手だったんだよ」
「そうなのか、よかった」
中を覗いていると、ドットのゲームキャラを出して戦っていた女性が部屋に入ってきた。
「あれは?」
「あれは君が気絶させた転移者。ベンジーと結婚して子供も生まれたんだ」
「そうなのか。よかった」
ベンジーをよく見てみると、木製の車いすに乗っていた。
「あれはどういうことだ?」
「さすがに身体が魔力を耐え切れなかったんだよ。あの魔力は20人から無理矢理奪った魔力だからね」
「あれのせいでベンジー歩けなくなったのか?」
「そうだよ」
「ふざけんな!」
俺はどうしようもない怒りを女神にぶつけた。
「思う所はいっぱいあると思うけど、ベンジーは死ぬか歩けなくなるかの2択だったんだよ。コータの良い選択をしたんだ」
「だけど、俺があのアイテムをあいつに渡さなければ」
「渡してなかったら、この村にいた人はみんな死んでたよ」
「でも…」
「攻め込んできた国は魔力を国民から奪い、それを使って何度も異世界召喚をしてたんだ。たまたま犯罪者を数人召喚したせいで、操らないでいい最強の戦闘狂を生み出してたんだ。ピエロのやつなんて凶悪犯なんだよ。ベンジーがあの魔力を使ったおかげで、今みんなが笑顔なんだよ」
「…」
俺は何も言えなくなった。
自分の選択が最良だったのはわかった、だけどどうにか出来たんじゃないかと思ってしまう。
「じゃあ次は冒険者ギルドに行くよ」
女神に連れられて移動した。
冒険者ギルドの裏には大きな空き地があった。
そこで戦っている3人は見覚えがあった。
「ゴングは新人の育成を重視し、ヒューズくんとリリアンちゃんは将来有望な冒険者に成長したんだよ」
ゴングはベンジーと同じように少し老けていて、ヒューズとリリアンは大きくなっていた。
「これは今後のためにとっても重要なことだったんだよ。コータのおかげで救える命が増えたんだ。頑張ってくれてありがとねコータ」
「なんだよ、気持ち悪いな」
「きゃはは。君の行動はこの世界の幸せに繋がっているんだ。僕の事を信用しなくても嫌ったままでもいい。だけど、自分ができた最良な行動を責めないで」
女神の珍しい雰囲気に俺は驚いた。
初めてこいつに神様感を感じた。
「じゃあ帰るよ」
パンパン!
女神が手を叩いた。
ラドニークに用意させた家に戻った。
「ちなみにさっき見に行った時代はいつなんだ?」
「うーん。いまからだいたい10年前くらいかな?」
「じゃあ。会いにいけるのか?」
「うん。タイミングが合えば会いに行ってみてもいいと思うよ」
「いいのか?」
「うん。でも少ししたら短期の手伝いと長期の手伝いがあるからね。あと、ユイちゃんとのお別れもいつかあるから時間は大切にしてね」
「別れは予想していた。手伝いもやるよ」
「ありがとー。あとさっき話した犯罪者の転移者は逃げ延びてるからまだ生きてるよ」
「え?それを倒すのが手伝い?」
「ううん。それは誰かに任していいかも。コータには大きい仕事があるから」
「わかった。じゃあ俺が知り合うやつに注意喚起をしたい。情報はあるか?」
「うーん。ごめんねー教えられない。教えられるのはあのタイミングで転移した犯罪者は5人いるよ」
「わかった。ありがと」
「じゃあ僕は次のお手伝いのタイミングでまた来るね。寂しかったら『メッセージ』で連絡してね」
「するか」
俺の返答も聞かずに女神は居なくなった。
「コータ。いつ帰ったの?」
ユイが自分の家に居る事に驚いていた。
「寝ている間に移動したんだよ。とりあえずヤリネとラドニークに会いに行くか」
「うん!」
俺はユイの手を引き、家を出た。




