22週目.とろろ昆布おにぎり
俺はヒューズくん達の成長に大満足だった。
「多分30分後にまた来るよなー。お米はそろそろ炊けるから、シンプルなあれを作るか」
連続で呼び出されているのと、大量の調理で正直疲れていた。
俺は取り寄せたものを冷蔵庫から取り出した。
マグロ節の味が付いているものととろろ昆布だ。
「なんか東北側から取り寄せることが多いんだよな。今度落ち着いたら、沖縄とか九州とか攻めたいな」
俺はマグロ節を具にしたおにぎりを20個作った。
「あの2人10個ずつとかペロリだよな。まあ聞いてみて、もっと欲しがるようなら追加で作るか」
俺は連絡を待った。
タッタラー♪ダン!ダン!タッタラ―♪ダン!ダン!
音楽が部屋に鳴り響いた。
俺はタブレットを持ち、【スタート】をタップし、レッドホーミングのマスクを装着した。
気絶をするような衝撃に襲われ、目の前は真っ暗になった。
[10秒後プレイ画面に移行します。プレイ時間は1時間。それでは良いバトルを]と目の前に表示された。
カウントが進んで0になると、スマホのバトロワゲームのような画面に切り替わった。
視界が晴れると、コータ・ユイ・コング・ベンジーが大量の何かを踏み潰していた。
「ん?何してるの?」
「ユーサク。敵が来た」
「え?」
「しかも俺らの世界から転移したやつだ」
「なんでわかるの?」
「俺らが踏み潰してるやつらを見ろよ」
そう言われてコングが踏み潰している物を見てみると、タマゴンだった。
「あータマゴンってことは、転移者だな」
タマゴンとは大人気横スクロールゲームの敵キャラだった。
可愛らしいフォルムなのにぶつかると即死、踏み潰す以外では倒す方法がないのだ。
コータ達が踏み潰しているタマゴンは立体なのにドットで出来ていた。
大量のタマゴンを4人は踏み潰して対応していた。
「俺はどうすれば?」
「攻撃は全部弾かれるから、違う敵が来たら対応してくれ」
「わかった」
コータの発言はフラグだった。
タマゴンの群れの奥から、グローブを付けた黒人の男性とチャイナドレスを着ていて大きなヒョウタンを背負っている女の子が現れた。
「ドン・ガイとモンモンだ」
「おい!あれはコングの担当だろ」
「良くわからんが、任せろ」
コングはドン・ガイとモンモンの元へ向かって行った。
ドン・ガイとモンモンは有名な格闘ゲームの主要キャラだ。
俺らの目の前にいる2体はタマゴンと同じように立体なのにドットで出来ていた。
「召喚された奴はだいぶゲーム好きだな」
「そうだな」
「まあ、あの2体はコングに任せて、俺達はタマゴンの処理だ」
「「はい」」
コング以外の3人はタマゴンに向かって行った。
「俺はどうしようか」
そんなことを思っていると、突然空が暗くなった。
「え?」
上を向くと空には大量の針が生えた、大きな目玉が飛んでいた。
「ユーサク。あれは確実にお前の担当だ」
「あれ、シューティングゲームのボスじゃなかった?名前とかはさすがに分からんが」
大きな目玉は、針を飛ばしながら徐々に地面に向かってくる。
「なんかゆっくり降りてくる感じもゲーム感あるなー」
俺は大きな目玉に向かって行った。
▽ ▽ ▽
バシュン!
バシュン!
バシュン!
大きな目玉は俺が放った弾丸を喰らい消滅した。
「あぶねー。攻撃パターンが一定だったから余裕だったな」
俺は4人を見てみると、タマゴンもドン・ガイとモンモンもいなくなっていた。
今はぴょんぴょん飛び跳ねる1頭身の動物達の対応をしていた。
「なんかあれが出てくるゲームも見たことあるなー」
俺は手伝おうとコータ達に近づくと、タマゴン達が現れた方向から人が現れた。
見たことあるロールプレイングゲームのボスキャラ2体の間に居るのは、様子がおかしい外国の女性だった。
「コータ。たぶん操られてる転移者が来たぞ」
「わかった!ってかガルーとドラルじゃん」
「やってた?」
「リメイクだけどやったよ」
「強いの?」
「だいぶ強いぞ。強さが反映されていないことを願うわ」
「そうだな」
「ユーサク、ヒメ、行くぞ」
「「わかった」」
俺とコータとユイは魔獣王ガルーと邪竜騎士ドラルに向かって行った。
「コータ。俺達は?」
コングさんが叫んだ。
「増援が来るかもしれないから、注意しといてくれ」
「わかった」
俺はドラルに向かって引き金を引き、連続で弾丸を放つ。
ドラルは避けもせず、弾丸を手で弾く。
「うーわ。俺じゃ無理パターンだこれ」
コータは手のひらをガルーに向ける。
同じようにユイも手のひらをドラルに向ける。
「ストーンボール!」
ユイが叫ぶと、2人の手のひらから大きな石の塊が出て、ガルーとドラルに当たる。
2人の攻撃は効いているようだ。
ガルーが何かを唱えるとガルーとドラルは緑色に光った。
「コータ。あれは?」
「回復かな?ゲームと同じだったら」
「回復したのかよ!てか俺の攻撃じゃ効かないみたいだ」
「じゃあ、飯を頼む!それで一気に片づける」
「わかった」
俺は飯を準備しようとマスクを外そうとすると1人の男が叫びながらやってきた。
「コングさん!村の外に大量の魔物と兵士です」
「なんだと?本当か?」
「はい。村に来た冒険者で対処していますが、おかしな恰好をした男がなかなかの手練れで苦戦しています」
「わかった。コータ、俺とベンジーはそっちへ向かう」
「いいぞ!あとでユーサクに飯を届けさせる」
「ありがとう」
そういうとコングさんとベンジーさんは冒険者が来た方向へ走って行った。
「ということだから、大量に頼むな」
「わかったよ。少し時間はかかるぞ」
「なる早で」
「やるよ!」
俺はマスクを外した。
▽ ▽ ▽
「炊飯器追加で買っておいてよかった。10合炊きが一瞬でなくなるのは恐怖だな」
俺は作ってあった20個と同じサイズのおにぎりを残りの米を全部使って作った。
「よし。異世界の人の口に合うかわからんけど仕上げだ」
俺はおにぎりの表面にとろろ昆布を巻き付けた。
「よし。転送!」
テーブルの上のものが光ってなくなった。
カウントダウンが始まった。
俺はすぐにマスクを被った。
「コータ。どうだ?」
「美味そうだ。ありがとう」
「おう」
「ユイ。俺に5個投げてくれ。2体は俺が押さえておくから」
「うん!」
ユイはコータにとろろ昆布おにぎりを投げた。
「俺の分はインベントリに入れておくから、ユイが食べる分以外はマジックバックに入れてユーサクの銃に引っ掛けてくれ」
「はい!」
ユイはおにぎりを5個確保し、マジックバックを銃に引っ掛けた。
「じゃあ俺はコングさん達の元へ向かう」
「頼んだ」
俺はコングさん達が向かった方向へ進んだ。
▽ ▽ ▽
到着すると戦場は凄いことになっていた。
ベンジーさんが魔法で作った大量の石の槍が広範囲に降り注ぎ、敵の進行を止めている。
モンスターの数は多いが、兵士の数は少なかった。
コングさんを探すと、ピエロの格好をした男と戦っていた。
俺はモンスターに攻撃をしながら、コングさんの元へ向かった。
「コングさん!飯です。少しは力になるかもです」
「すまない。今は手が離せない。まさか操られてない転移者がいるとは」
コングさんはピエロの攻撃を避けながら返答した。
「え?操られてない?」
「What?gun?」
ピエロは俺を見て驚いているようだ。
「外国の人かよ。それにしてもピエロの格好は怖いな。コングさん俺が時間を稼ぐので、その間にマジックバックから飯を取ってください。それをみんなにも配ってください」
「すまない」
俺はピエロに向かって銃を撃ちまくった。
パシュン!
パシュン!
さっきのボス達とは違い、しっかり肩と膝を貫通した。
「OHHHHHH!」
ピエロは叫んでうずくまった。
その間にコングさんはマジックバックからとろろ昆布おにぎりを取り、みんなに配りだした。
少し目を離したすきに、うずくまっていたピエロが居なくなっている。
「え?」
俺は周りを見渡そうとするが視線が動かない。
「Hahahhahaha!」
後ろからピエロの声がする。
振り向けないから確認できないが、多分銃を掴まれていた。
カチャ!カチャ!
ピエロは引き金を引いてるようだが残念ながら弾は出ない。
ドンッ!
視界が大きく揺れた。
「え?」
「大丈夫かい?ユーサク」
コングさんの声が聞こえると、視界を動かせるようになった。
コングさんがピエロに攻撃をして、手から銃が離れたのだろう。
「ありがとうございます」
俺は振り向くと、2回りほど大きくなったコングさんがいた。
「え?コングさん?」
「ははは。ユーサクの飯はこんなに力が出るんだな。これならこの奇妙なやつを簡単に倒せそうだ」
「それならよかったです」
コングさんはピエロに向かって行った。
▽ ▽ ▽
モンスター達は飯を食べてパワーアップした冒険者とベンジーさんが殲滅した。
残るはピエロのみになった。
「行くぞー!エアコーナー」
コングさんはボロボロになったピエロを担いで叫んだ。
コングさんは空中に立ち、ピエロを担いだまま地面にダイブした。
これで勝負がついた。
「コングさん!」
俺はコングさんに近づいたが様子がおかしい。
ダイブしたはずのコングさんとピエロが、地面擦れ擦れで浮いていた。
「え?どういうこと?」
コングさんとピエロを見ると、数本の腕が2人を掴んでいた。
掴んでいる腕は空中をぷかぷか浮いている。
コングさんとピエロはゆっくりと地面に降ろされた。
数本の腕は掴むのをやめ、コングさんの目の前に移動した。
手を開くと手のひらから綺麗に包まれている小さな箱が大量に転がった。
ボン!ボン!ボン!ボン!
箱が次々爆発し、コングさんが吹き飛んだ。
「コングさん!」
俺はコングさんの元へ行くが、コングさんは気絶していた。
爆発したところを見ると、ピエロも腕も消えていた。
「なんだあの腕は。増援?ピエロを回収に来たってこと?」
俺は強化されたコングさんを倒した相手に恐怖を覚えた。
▽ ▽ ▽
冒険者達と共にコータ達と合流をした。
俺達は気絶したコングさんを連れ、コータ達は気絶した女性を担いでいた。
「そっちもなかなかハードだったみたいだな」
「うん。詳しくはあとで話すから、2人を家に運んで回復を頼む」
「わかった」
俺達は村へ向かった。
2人の回復を終えたコータと自分達の小屋に移動し、起きたことをすべて伝えた。
「操られてない転移者はなかなかまずいな」
「それに多分1人じゃない。2人以上は居た」
「今日、ここを離れる予定だったけど厳しそうだね」
コータは少し悩んでいるように見えた。
「うん?元の時代に戻るよ」
「うわ!」
俺の目の前に女神が現れた。
「またお前はいきなり現れて!」
「ごめんねー」
「帰るの延期は出来ないのか?」
「うーん。してもいいけど、コータが居たいタイミングには居させられないよ」
「ってことはまた攻め込んでくると?」
「うん。まあコータの選択のおかげで、無事防衛できるけどねー」
「本当か?」
「うん。まあ細かいことは今度話してあげるけど、とりあえず一番いい選択をしたってことだね」
「よかったー」
コータは安心したようだ。
俺は全然話について行けてなかった。
「今日の夜ユイちゃんが寝たら、また来るからよろしくね。あとユーサク!」
「は、はい!」
「マスクが不具合というか、僕の想像通りの性能じゃなかったから回収するね」
「え??」
すると目の前の景色は自分の家のリビングになっていた。
「マスク回収って、こんな強制的にかよ」
俺は女神と会話をしているコータの様子が少し不安になった。
「正直何にもやってやれないけど、支えてやらないとな」
俺は汚くなったキッチンを掃除するために立ち上がった。
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