22週目.異常事態
ユーサクと連絡を取ってから2日経った。
『メッセージ』はバグってるせいで、返信が来ない。
あっちの世界では30分くらいしか経ってないらしいから問題はないだろう。
「コータさん。訓練してください!」
コングと訓練するはずのヒューズがやってきた。
「あれ?コングは?」
「ジジイは冒険者ギルドに行きました」
「あーそういえばそうだったな」
俺はコングにそんなこと言われていたのを思い出した。
元々コングは、エサトスという国の冒険者ギルドの依頼でこの廃村を調査しに来ていた。
そういえば俺達が居た国はこの時代にもあるのだろうか。
名前を知らないから、確認しようがない。
ラドニークが治めている領の名前も聞いた気がするが覚えてない。
「じゃあ。俺が訓練に付き合うけど、武術だとコングより教えられることは少ないから、スキルの訓練にしよう」
「はい!」
ヒューズはやる気に満ちていた。
「ヒューズは今まで拾った武器をインベントリに入れられるんだよな?」
「武器だけを入れられるインベントリを使えます」
「じゃあ今まで拾った武器を出してみて」
「はい!」
ヒューズは亜空間から大量の武器を出した。
「思ったより多いな」
ヒューズが出した武器は剣がほとんどではあったが、いろいろな種類があった。
「とりあえず、ここにある武器は全部使えるようにしないとな」
「はい」
「何が使いやすい?」
「うーん。ナイフと斧です」
「じゃあそれの数も増やさないとね」
「わかりました」
ヒューズは自分が出した武器の確認し始めた。
ヒューズの出した武器を見てみると、鎧の男が持っていた注射器があった。
「え?ヒューズこれは?」
「前に戦場に行った時に拾いました。インベントリに入れられたので、何かの武器だと思います」
俺は注射器を手に取ると中には液体なのか気体なのかわからないが、魔力と思われるものが入っていた。
「これを探しに来たのか」
俺はこのマジックアイテムをどうするか悩んだ。
悩んでいると急に違和感に襲われた。
違和感の正体はわかっている。
「おい。何の用だ?」
「本当にすぐ気付くね」
俺の目の前にクソ女神が現れていた。
「それで、このアイテムについてだよな?回収するのか?」
「しないよー。そんなことしたら未来が変わっちゃうじゃん」
「じゃあ何しに来たんだよ」
「うーん。それの扱いについて悩んでそうだからさー。気軽に考えていいよーって伝えに来たんだよ」
「気軽にって」
こいつにペースを崩されるのが本当に嫌だった。
「俺はこれをどうするんだ?」
「いや言えないよね。でもヒントなら教えてあげるけど」
「早く教えろ」
「一応30通りの未来があるんだけど、未来を変えないのは5通りでちょっと変わるのが22通り。そして最悪な状況になるのは3通りだよ」
俺は頭を抱えた。
「何のヒントにもなってねーよ」
「コータが決めてくれないとね。勇者なんだから」
「最悪になった場合、どうなる?」
「うーん。お手伝いが増えるかも」
「最悪になっても俺が修正できるってことか」
「3通り中、2通りはね」
クソ女神はなぜかニヤニヤしてる。
「お願いしてたお手伝いは完了したから、元の時代に返してもいいかな?」
「一応次の金曜まで待ってくれ。コングにも挨拶しないといけないから」
「わかったよー。じゃあ金曜日に迎えに行くねー」
女神は俺の前から消えていった。
▽ ▽ ▽
ヒューズの訓練を見ていたら、夜遅くなってしまった。
ユイはずっとリリアンとベンジーと魔法の訓練をしていたみたいだ。
俺はユイが寝たのを確認して、ベンジーが寝泊まりしている小屋に向かった。
「ベンジー、ちょっといいか?」
「どうしました?」
ベンジーは俺の来訪に驚いていた。
「ちょっと話が合ってな」
俺の顔をみたベンジーは何か察したようだ。
「どうぞ」
俺は小屋に入った。
俺はインベントリから注射器を出した。
「それは兵士たちが持っていたマジックアイテム!」
「そう。あいつらはこれを探しに来てたんだと思う」
「これはどうしたんですか?」
「ヒューズが拾ってたみたいだ」
「なるほど。それで?」
「これをお前に渡しておきたい」
「え?」
ベンジーは驚いていた。
「何でですか?この得体のしれないものは壊した方がいいんじゃないですか?」
「俺もそうすることを考えたが、ベンジーを操ってたやつらがこの村にやってきたときの切り札を残しておきたいんだ」
「切り札?」
「俺とヒメはそろそろこの村を離れる。俺らが居なくなった後に、ベンジーのような境遇の転移者がここを襲ってきた時のための切り札だ」
「それを僕に使えと?」
「そうだ。コングとベンジーが居れば、大体の敵は対処できるはず。だが予想外の敵が現れた時、これを使って欲しい。当然、安全な物じゃないことも分かっている。だが一度使われたと思われるお前には少なからず耐性はあるはずだ」
ベンジーは少し悩んだ。
「わかりました。それは僕が預かります」
「ありがとう」
「コングさんにはだいぶ助けられましたし、この村には弟子も居ますからね。何もなくなった僕の唯一の守るものですから」
俺はベンジーに注射器を渡した。
「これを使うようなことがないように願うよ」
「僕もです」
▽ ▽ ▽
翌日、昼過ぎにコングが帰ってきた。
しかも何人かを連れていた。
「コータ!帰ったぞ」
「なんかいっぱいいるけどどうした?」
「あーなんか、この村含めてすぐに管理ができるほど国にも領にも余裕がないみたいで」
「それで?」
「俺がこの村の代表になって、なおかつ冒険者ギルドを作ってギルドマスターになることになった?」
「は?急展開過ぎないか?」
「本当にな。なんか国の体制が今後いろいろ変わるらしく、隣国の戦争に巻き込まれない様にしたいみたいだ」
「あー最悪元冒険者だけが被害に遭うぐらいなら平気ってことか」
「ははは。まあそういうことだろ。巻き込まれて優秀な職員を失うよりかは良いってことだろ。国境近辺を守らせる戦力にもなるしな」
「なかなかえげつないな」
「まあ、国も大変みたいだ。俺もここを管理できるなら安いもんだからな」
「まあ頑張れ」
「おう。コータにも今後いろいろ手伝ってほしいんだが」
コングは笑顔を俺に向けてきた。
「あーコングに伝えておきたかったんだが、俺とヒメは次の金曜日にここを旅立つんだ」
「え?」
コングは驚いていた。
「そうだったのか…」
「一応お前を助けるっていう依頼は完了したらしい」
「いやー。コータとヒメ、それにユーサクが居てくれたらだいぶ安心できたんだけどな」
「すまんな」
「いや大丈夫だ。何人か知り合いの冒険者も連れてきたし、ギルドを作るのを手伝ってくれる職員も少ないがいるからな。金曜日まではいろいろと手伝ってもらうぞ」
「手伝わさせてもらうよ」
「残り短い間だが宜しくな」
コングが握手を求めてきた。
俺はそれに応じ、手を握った。




