2週目.残り物チャーハン
「あー眠い」
俺はPCの前で背伸びをした。
俺はここ3日、ほとんど徹夜状態で仕事をしていた。
「やばい、すぐ寝れる。けど今日は金曜日だから、なんか作らないと」
俺はキッチンに行き、冷蔵庫を開けた。
「卵とハムしかねぇ。ここ数日はずっとコンビニ飯だったから、全然食材がないな。野菜室には使いかけの長ネギ、どうするか」
流石に出前やコンビニ飯は最終手段にしたかった。
極力コータには手作りを食わせてやりたい。
「冷凍の米があるから、チャーハンにするか。中華スープも頑張って作ろう」
俺は冷凍庫から米を取り出し、電子レンジに入れた。
「俺もあとで食べるから多めに作るか」
ハムと長ネギを刻み、卵を溶いた。
「よし、具材はこんなもんだろ」
俺は小鍋を取り出し、水を入れて火をつけた。
中華スープの素と醤油と胡麻油を入れて、沸騰するのを待つ。
チーン
俺は温めた米をボウルにいれ、マヨネーズを入れて混ぜた。
「確かこうすると米がパラパラになるんだよな」
フライパンを取り出し、油を入れて火にかける。
俺は料理をしながら眠気と格闘していた。
「あー眠すぎるぞ。まだコータ来ないでくれ」
フライパンにハム入れてを軽く炒める。
「もっと肉肉しいのを用意しとけばよかったな」
卵を投入し、すぐにご飯を入れる。
「うわ!火加減ってこれでいいのか?」
卵と米が絡まるようにフライパンを振りながら炒める。
長ネギを投入して軽く炒め、塩と胡椒と醤油で味付け。
「よし完成。チャーハンはいい感じだ」
美味そうなパラパラチャーハンが出来上がった。
「あとスープか、とろみが欲しいよな」
俺は片栗粉を取り出し、水と混ぜて水溶き片栗粉を作る。
「やばい。眠すぎる」
ボーっとしていると、小鍋から中身が噴きこぼれていた。
「うわ。沸騰してるじゃん」
俺は急いで小鍋の火を止めて、溶き卵を回し入れる。
「見た目はいい感じ。味はどうかな?」
スプーンで掬い、口に入れる。
「ちょっと薄いか」
塩胡椒を少しいれ、水溶き片栗粉を入れながら混ぜる。
「お!いい感じだ。よし、盛り付けてコータを待とう」
俺は盛り付けたらすぐに寝ようと思い、急いで皿を食器棚から取り出した。
トゥントゥルルン♪トゥントゥルルン♪
タブレットが鳴った。
「うわ!今回は早いな。まだ盛り付けてないぞ」
俺は盛り付けをあとにし、タブレットの元へ行き、緑の受話器マークを押した。
ディスプレイを見ると見知らぬ女の子が映っていた。
「え?だれ?」
俺の声が聞こえたのか、女の子は周りをきょろきょろ見回した。
「ごめんね。どなたかな?」
「!!」
タブレットに写る俺に気付いたのか、女の子が驚いている様子だった。
「あれ?どなたかな?」
「・・・・・・・・」
「あれ?もしもし?」
俺が困惑していると、コータの笑い声が聞こえてきた。
「ははは!あーおもろい。ユーサク困りすぎだって!」
女の子の後ろから、コータが顔を出してきた。
「おい、ビビったぞ。てかその女の子は誰なんだよ」
「え?この子?先週ユーサクにおにぎり送ってもらった時さ、奴隷商に捕まってたじゃん。ユーサクのおにぎり食って筋力馬鹿みたいにアップして、手錠と首輪をぶっ壊して牢屋もぶっ壊したんよ。そしたら違う部屋にこの子もいて」
「えっ!この子も奴隷だったの?」
「多分ね。手錠と首輪をぶっ壊して、この子に一緒に来る?って聞いたら頷いたから連れてきた!ちなみにそこにいたやつらは縛って、奴隷商は俺の魔法で破壊しといた」
今週も想像できない異世界話に俺は驚いた。
「その子を勝手に連れてきて大丈夫なのかよ」
「多分平気だし、なんかあったら俺が守るし」
「コータが言うならいいけど、てかその子の名前は?」
「それがさー奴隷になったショックなのかわからないんだけどさ、喋れないみたいなんだよ。だから名前はわからない!」
「まじか。ストレスからしゃべれなくなっちゃうとかだいぶ大変な思いしてたんだな。どうやってコミニケーション取ってんの?」
「俺の言葉はわかるみたいだから、頷いたりはしてくれる」
「あれ?そういえば言葉通じたの?」
俺は言葉が通じづ、牢屋にぶち込まれたことを思い出した。
「それが聞いてくれよ!あのクソ女神、俺が奴隷商を破壊した瞬間に現れやがって即座に土下座して謝ってきた。またミスったらしいんだよ。すぐに言葉を通じるようにさせて、俺と姫の服も持って来させた」
「お前女神様にどんな態度とってんだよ」
「いいんだよ、ドジ女神は!あんなやつは姫のために服を持って来ればいいんだよ!」
「ごめん、姫って?その子のこと?」
「そうそう!俺が呼び方困ってたから、姫にした。女の子はお姫様扱いするってのが俺の信条」
「女神様も女の子枠では?」
「あいつは知らん!」
コータは女神様の事をだいぶ軽視しているようだ。
多分転移するときに何かあったのだろう。
「じゃあ俺も名前がわかるまでは姫って呼ぼうかな?」
「いいじゃん。姫、こいつはユーサクっていって俺の親友。ほら、手を振ってあげて」
ディスプレイ越しの姫は困惑しながらも俺に手を振って来れた。
「うわ!可愛い!コータ、姫に悪影響がないようにしろよ」
「当たり前だ!」
ぐぅー
タブレットからお腹の音が聞こえてきた。
姫の顔が赤くなっていた。
「ユーサク!姫が食べ物をご所望だ!」
「姫ごめんね。すぐ送るから」
俺キッチンに急いで行き、大きめのお皿にチャーハンを盛り付け、スープは小鍋のまま。
スプーン2本もテーブルに置いた。
「あ!あと水も送らないと」
冷蔵庫から冷やしておいた水のペットボトルを2本置く。
「転送!」
チャーハンとスープと水が光ってなくなった。
ディスプレイを見るとカウントダウンが始まっていた。
「お!来たぞ、ユーサク!チャーハンと中華スープってお前わかってるなー!」
「一応2人前以上あるから、いっぱい食べてくれ。姫も食べてねー」
姫は俺の言葉も通じるようで、小さく頷いた。
コータと姫はチャーハンを掻き込んでいた。
「うめぇー!うまいぞユーサク!」
「お前の感想はいいんだよ。姫、美味しい?」
姫は笑顔で頷いてくれた。
「あっ、可愛すぎる!!姫、いっぱい食べなよ。コータ、ちゃんと守ってやれよ!」
「わあっえうって!」
「口に入れてしゃべるな!姫が真似したらどうすんだ。てか、カウントダウンが!コータのせいだぞ。姫!来週の金曜日、何食べたい?」
またしても返答を聞く前にディスプレイは暗くなっていた。
「あー姫の食べたいもの聞けなかった。いや、喋れないんだからあの問いかけは違うだろ」
俺は自分自身に突っ込んでいた。
一人っ子の俺に姪っ子のような存在ができて浮かれてしまっていたようだ。
「来週は子供が好きなもの使ってあげよ」
そう決意すると、俺は糸が切れたようにベッドに倒れ込んだ。