22週目.コングコール
俺は完全に疲れ切ってた。
あの量のチャーハンを作ったせいで、腕はパンパンだった。
「運動不足だな。次呼ばれるのは明後日とかになるのか?それともだいぶ先になるのか?次も大量に用意しないとダメだよなー」
俺はベッドに倒れこんだ。
タッタラー♪ダン!ダン!タッタラ―♪ダン!ダン!
音楽が部屋に鳴り響いた。
「は?30分しか経ってないぞ?」
俺はタブレットを持ち、【スタート】をタップし、レッドホーミングのマスクを装着した。
気絶をするような衝撃に襲われ、目の前は真っ暗になった。
[10秒後プレイ画面に移行します。プレイ時間は1時間。それでは良いバトルを]と目の前に表示された。
カウントが進んで0になると、スマホのバトロワゲームのような画面に切り替わった。
視界が明るくなると目の前にはユイと知らない子供2人がいた。
「え?」
「ユーサク!」
「姫、コータは?」
「コングさんとおうちを作ってるよ」
「それで姫は何してるのかな?コータから何か聞いてる?」
「えーっとヒューズとリリアンのスキルを聞いて、うまく使う方法を考えてくれだって」
「そこの2人のこと?」
「うん」
全然意味が分からなかった。
俺はとりあえずユイを質問攻めした。
それでわかったのは、コータとユイはこの2人を鍛えていて、武術や魔法は少しずつ出来るようになっているがどうもスキルを有効活用できてない。
だから俺に丸投げしたようだ。
しょうがない、やるしかないな。
「それじゃあヒューズくんとリリアンちゃんのスキルを教えてもらえる?こんな姿だけど怖がらないでね」
「はい!よろしくお願いします!」
「お願いします!」
2人はだいぶ良い子のようだ。
俺は2人のエクストラスキルを聞いた。
ヒューズくんは『武器拾い』というスキルで武器を拾うのが早くなるらしい。
範囲内にある武器の近くに高速移動をするらしい。
あと武器をマジックバックのように別空間に収納することが出来る。
確実に戦闘向きではなかった。
リリアンちゃんは『増殖』というスキルで、物を少しの間増やせるらしい。
増やせるものは手に乗るサイズの物を倍に増やすことしかできないらしい。
レベルが上がればサイズも量も増やせるかもしれないとコータに言われたみたいだ。
「うーん」
俺は悩んだ。
「ユーサク。待ってる間、訓練しててもいい?」
「あっ!ごめん。いいよ」
3人は何やら訓練を始めた。
俺はいろいろ考えたが、全然思いつかなかった。
なんか奇妙なことが思いつくのはどちらかというとコータなんだが。
3人を見てみると、手から小さな火の玉を出してそれを動かしてる。
「ん?それは何をしてるの?」
俺はユイに問いかけた。
「魔法ってまっすぐ飛ぶんだけど、魔力操作の練習をすると動かすことができるんだよ」
「へぇー」
全然言っていることがわからなかった。
「リリアンちゃんは魔法がいっぱい使えて、ヒューズくんは戦うのが得意なんだよ。それで2人とも魔力操作の練習もしてるの」
「そうなんだ。ありがとう」
俺は頭は追い付かなかったので、理解するように努力した。
ヒューズくんは格闘が得意で、リリアンちゃんは魔法が得意。魔力操作をすると魔法が自由に動かせるから練習している。
たぶんユイが言いたいことはこういうことだろう。
俺が混乱していると、コータが現れた。
「ユーサク。どんな感じ?」
「おい。こういうことが得意なのってお前だろ?」
「魔法が使えるようになってから、奇策みたいなのをしなくなっちゃって、なんか鈍ってるんだよな」
「なんだよそれ」
俺はコータの言い訳が不満だった。
「まあ元の世界でも面白いことを思いつくのは俺でもユーサクでもなかったもんな」
そう言われ、いろいろ懐かしくなった。
「そういえば飯についてなんだけど」
「てか前回から30分しか経ってないから、大量に用意するの時間がかかるぞ。米も全部使ったし」
「え?30分?逆に良かったか」
「どういうこと?」
「ダンジョンで手に入れた素材をコングに全部あげたんだよ。それを飯の資金にできるように」
「ってことは大量に用意しなくていい?」
「おう。ユーサクの料理に慣れちゃうと、いろいろ困るだろ」
「そうだな」
「だから、今日は2人分でいいぞ」
「わかった」
大量に作らないでいいと知って安心した。
ドゴーン!
もの凄い爆音が近くから聞こえた。
「え?どうした」
「わかんない。とりあえず見に行こう」
「わかった!」
「3人はここで待ってて」
「「「はい!」」」
俺達は爆音がした方向へ向かった。
▽ ▽ ▽
爆音がした方向へ向かっているとコングさんと合流をした。
「さっきの音はコータか?」
「いや違う」
「じゃあなんなんだ?」
「今からそれを確かめに行く」
俺達は森へ入っていった。
森を進むと、爆音の発生地だと思われるところに付いた。
木々は倒れ、地面は抉れていた。
「ここだな」
「そうみたい」
俺は辺りを見渡すと人影が現れた。
鎧を着た男が2人とボロボロの服を着て首輪に繋がれている男が居た。
「おい!そこのお前ら。こういうものを知らないか?」
鎧を着た男は注射器のようなものを見せながら話しかけてきた。
「いや。知らない」
コングさんが冷静に答えると鎧を着た男は首輪で繋がれている男を前に出した。
「じゃあ用はない。死ね」
首輪に繋がれている男が手を俺らに向けると、大量の石の槍が飛んできた。
「任せろ!」
コングさんはそう言うとゴリラのマスクをつけた。
「行くぞー!」
コングさんが叫ぶと身体が光り、服装が変わった。
どっからどう見てもプロレスラーの格好だった。
コングさんはものすごいスピードで大量の石の槍に突っ込んでいき、拳ですべてを破壊した。
「コングさん強くね?」
「肉弾戦じゃ100パー勝てないな」
コータはなぜかニヤニヤしていた。
コングさんはそのまま鎧の男に突っ込んでいき、ラリアットを食らわせた。
「ぐわっ!」
鎧の男は吹き飛んだ。
「ユーサク。もう1人の鎧のやつの脚を撃て。大怪我したら俺が治すから」
「わかった」
「俺はあの危ない奴を止める」
そういうとコータは向かって行った。
俺は照準を鎧の男の膝を狙って引き金を引いた。
ドシュン!
「いでぇーー!」
弾丸は見事に膝を貫通し、鎧の男は倒れた。
初めてこの状態で発砲したが、反動までしっかり感じた。
コータは首輪の男と戦っている。
相手もだいぶ魔法が得意のようだ。
「コータの手助けに行くか?」
気絶した鎧の男を背負ったコングさんが心配そうに聞いてきた。
「いや、大丈夫ですよ」
「そうか?互角のように見えるが」
「コータが笑ってるので任せて平気です」
「ユーサクがそういうなら」
コングさんは俺が撃った鎧の男の元へ行き、担いで戻ってきた。
「こいつらにはしっかり話を聞かないとな」
▽ ▽ ▽
コータは思ったより時間がかかっていた。
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫なはずです」
俺は少し心配になっていた。
するとコータが叫んだ。
「コング!こいつ『鑑定』をしてくれ」
「え?」
「俺もしたんだけど、間違ってないか確認したい」
「わかった」
そういうとコングさんはじーっと首輪の男をみた。
「え?コータ、そいつはたぶん俺らの世界から来た人間だ」
「え?」
「そうだよな。じゃあ様子がおかしいのはこれが原因か?」
シュッ!
コータはそういうと見えない刃で首輪を破壊した。
首輪が外れた男は一瞬ふらついて身体が小刻みに揺れ始めた。
コータは俺達の元へやってきた
「ミスった!あの首輪で力を抑えてたのかよ。たぶん今からさっき以上の攻撃が来る。俺一人じゃだいぶ大変だ。ユーサク、コング、手伝ってくれ」
「「わかった」」
俺達は元首輪男に向かって行った。
石の槍は無限に現れ、コータを狙い飛んで行く。
「コータ、普通に倒すのでいいのか?」
「いや、多分あいつは洗脳か奴隷にされてる。それに魔力が異常だ。身体から魔力が溢れまくってる。だからとりあえず攻撃をしてあいつの身体から異常な魔力を全部出す。俺は石の槍をさばくので手一杯だ。コング行けるか?」
「わかった。行くぞー!」
コングさんは叫んで向かって行く。
「エアロープ!」
コングさんは何もないところに倒れこんだと思ったら、勢いよく突っ込んでいって首輪男を掴んで投げ飛ばした。
飛んで行く首輪男は何もない空中で止まって跳ね返るようにコングさんの元へ戻って行き、ラリアットを喰らった。
見えないリングがそこにあるような戦い方だった。
コングさんの勢いは止まらない。倒れた首輪男を再度起き上がらせる。
すると首輪男の腕が燃え上がり、コングさんの身体を掴んだ。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」
コングさんが距離を置くと、石の球が大量に現れてコングさんに飛んで行く。
「うっぐ!」
攻撃を喰らったコングさんはふらついていた。
「ユーサク、撃って援護しろ!コング、回復必要か?」
「わかった」
「い、いや、だ、大丈夫だ」
俺は首輪男を狙い引き金を引き続ける。
「ユーサク、スペシャル技!」
「わかった」
俺はスペシャル技を出そうとするが、このマスクに変更したせいで出し方が分からない。
「すまん、出せない」
「じゃあ撃ち続けろ」
「わかった」
俺は首輪男を撃ち続けるが、すべて風の壁に阻まれてしまう。
首輪男が左手を上にあげると、コングさん空中に持ち上げた。
そして右手に大きな石の塊が纏わり、コングさんの頭を殴った。
「ぐわっ!」
首輪男は何度も何度も殴り続ける。
「ぐっ!うっ!あっ!」
コングさんの頭は血だらけになっている。
「おい、コング!回復は?」
コータが叫ぶ。
「い、いらない。その代わり、1つ頼んでもいいか?」
「なんだ?早く言え!死ぬぞ!」
コングさんは俺から見ても虫の息だ。
俺は撃ち続けるが全く当たらない。
「コングさん!死んじゃうから!」
「早く言え!コング!」
血だらけのコングさんが口を開いた。
「コ、コングコールをし、してくれないか?」
「「は?」」
「は、早く。頼む」
俺とコータは顔を見合わせた。
「「こ、コーング!コーング!コーング!コーング!」」
俺らの恥ずかしがりながらのコングコールを聞いたコングさんの身体が震え始めた。
「おおおおおおおおおおおおお!」
コングさんの身体が2回りほど大きくなった。
首輪男が石の塊を再度コングさんの頭にぶつけようとした瞬間、ものすごいスピードでコングさんは後ろに回り込んで身体を掴みジャーマンスープレックスを決めた。
「「コーング!コーング!コーング!コーング!」」
「エアコーナー!」
コングさんは叫ぶと何もない空中に立っていた。
「行くぞー!コングサルト!」
コングさんは跳びあがって1回転し、首輪男にのしかかった。
「グワォォォォォォォォ」
首輪男は断末魔をあげ、気絶をした。
コータを攻撃していた石の槍もなくなっていた。
「コング、すごいな。ヒール!」
コングさんの怪我はすぐに治った。
「すまん。ありがとう」
「なんかいいもん見せてもらったよ」
「いやほんとにすごかった」
俺は正直感動していた。
「俺は声援を貰うと能力がアップしたり、ダメージを負えば負うほど強力な技を出せるようになるんだ」
「まさにプロレスラーだな」
「俺に合った良いスキルだよ」
戦いを終えたコングはもの凄くかっこよく見えた。




