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22週目.3種のからあげ

先週の金曜日から、仕事がない間はずっと料理の準備をしていた。

約10品の献立を考え、食材を手配して、下処理などは済ませておいた。

わざわざ炊飯器も購入して、いっぱい米が炊けるようにしておいた。


時間がバグる可能性があるということは前回のタイムトラベルでわかったので、今回は念入りに準備をした。


「よーし。とりあえずこれだけあれば何が起きても料理でフォローは出来るはず」

ここ数日、俺は『メッセージ』でコータと打ち合わせを重ねた。

前回同様、タイムトラベルしてから俺を呼び出す算段になっていた。


そして今回ネックなのは、先週女神から届いたものだ。

たぶんこれはVRゴーグルなのだろう。

俺が知っているものとは形がまったく違く、フルフェイス型だ。

初めて見るアイテムなのに親近感が沸くのは、デザインが完全にレッドホーミングの頭部だからだ。

「これ付けて『ゲーム』することになるのか」



タッタラー♪ダン!ダン!タッタラ―♪ダン!ダン!


音楽が部屋に鳴り響いた。

俺はタブレットを持ち、【スタート】をタップした。

[VRゴーグルを装着してください]

レッドホーミングのマスクを装着した。


「うわ!」

一瞬、気絶をするような衝撃に襲われた。

目の前は真っ暗だ。

[10秒後プレイ画面に移行します。プレイ時間は1時間。それでは良いバトルを]と目の前に表示された。

カウントが進んで0になると、ゲームのような画面に切り替わった。


視界が明るくなると森の中に居た。

FPSゲームのようだ。ファイアホーミングガンをちゃんと構えている。

どういう原理かわからないが、俺が動きたい方向にちゃんと動く。

もしかしたら疑似の身体のようなものを動かしているのかもしれない。


「ユーサク。何してんだ?」

「コータ!俺の身体どうなってる?」

「え?身体?銃のことか?」

「え?なんか身体とかない?」

「いつもと変わらないぞ。銃が浮いて動いてる」

「まじかー」

操作の感覚は変わったが、他は何も変わっていなかったようだ。


「それでどんなかんじ?」

「うーん。わからん。ここがどこかも分からん」

「じゃあ周りの探索からか」

「ユイが起きてからな。まだ寝てる」

「ユイの偽名も考えないとな」

「そうだね」

コータは寝ているユイをおぶっていた。


「あれ?」

視線の右上にあるタイマーが全然進んでいなかった。


「コータ。タイマーが全然動いてない」

「え?」

「もしかしたら、いつもより長く居られるかも」

「本当か?それは良かったわ―。ユイ起きてないのに呼び出しちゃったのミスったって思ってたんだよ」

「本当だよ。起きるの遅かったらどうするつもりだったんだよ」

「ははは。すまん」

俺とコータはユイが起きるのを待つことにした。


▽ ▽ ▽


ユイが起きたので、俺達は森を探索した。

この時代にいる間はユイの事はヒメと呼ぶことにした。


「姫、疲れてない?」

「うん。だいじょうぶだよ」

姫は依頼と聞くと冒険者スイッチが入るのか、今の状況に何も疑問を持っていなかった。


少し歩くと森が終わり、開けた場所に出た。

「ん?あっ!あっちに家っぽいのが見える」

「え?見えないけど」

「私も見えない!」

「いや絶対ある!家に向かおう」

俺とユイはコータを追いかけた。


コータを追いかけていると本当に家はあった。

何棟もあったが、どれもボロボロだった。

「すごいボロボロだな」

「そうだな。こんなところに人がいるのか?」

「ちょっと遠いところから声が聞こえる。こっち!」

コータについて行くと、20人近い人が1か所に集まっていた。


俺達は物陰に隠れてその様子を観察した。

集まってる人は皿を持って1列に並んでいた。

並んでる先には鍋から何かをスープのようなものを皿に入れてあげているゴリラが居た。


「コータ、ゴリラが飯を配ってるぞ」

「ああ。獣人だな、奴隷になってるやつを何人か見たことある」

アニメなどでは知っていたが、獣人を初めて見た俺はテンションが上がった。


「貧しい村に配給しに来た獣人?」

「うーん。獣人の人間嫌いは根強いらしいんだけどなー。最近は少し緩くなってきたみたいだが」

「ここは過去だから、根強いんじゃないか?」

「ああ。そうか」

俺とコータが話していると、ユイが首をかしげた。


「過去?」

「い、いや過去じゃなくて…えーっと」

「かっこいいって言ったんだよ。ユーサクは俺の事をかっこいいって言ったんだよ」

「そうか。コータかっこいいもんね」

不満だが、ギリギリごまかすことができた。


食事を貰った人たちが徐々にいなくなり、ゴリラの獣人1人になった。

「あいつに話聞いてみるか」

「そうだね」

俺達はゴリラの獣人の元へ行った。


近づいてくる俺達に気付いたゴリラの獣人は口を開いた。

「ん?お前日本人か?」

「「え?」」


▽ ▽ ▽


ゴリラの獣人と座って話すことになった。

「ははは。獣人?違うぞ。これはマスクだよ」

ゴリラの獣人はそういうとマスクを外した。本当に人間だった。


「えーっと俺は二階堂武志。日本人だ。こっちの世界ではコングって名前でやってる」

「俺はコータ。一応日本人だ。そこに浮かんでる銃はユーサクっていう日本人が操作している。それと仲間のヒメだ」

「ユーサクです」

「ユ、ヒメです」

俺達は自己紹介を済ませた。


「それでコングは何で俺が日本人ってわかったんだ?」

「それはこれだよ」

コングはマスクを見せた。

「俺が元の世界で使ってたマスクなんだが、これには『鑑定』の能力がある」

「元の世界で使ってた?」

「ああ。俺はプロレスラーだったんだ。あんま有名じゃなかったがな。知らないか?ゴリラ―マスク」

「違う動物なら知ってるが」

「ああ。アニメとか人気だもんな」

コングという男は本当に日本人のようだ。


「それでここで何やってたんだ?」

「実はこの村は廃村なんだ」

「え?さっき人が居たよな?」

「あいつらは戦争難民だ。隣国の2つが戦争を起こして、それでうちの国に逃げ込んできたんだ」

「なるほど、それでそいつらに食事の提供をしてたのか」

「そうだ。こっちの世界に来て冒険者として活動している。ある日この廃村に人がいるという目撃情報が入り、その調査でここに来たんだ。そしたらこんな人数の老人や女性や子供が飢えで苦しんでいたんだ。ギルドには報告を入れたが、すぐに対応が出来ないみたいで、俺が自腹で飯を用意してあげることにしたんだ」

「なるほど。コングはこの世界に来て、どれくらいなんだ?」

「12年だ。エクストラスキルのおかげで、この小さい国の中じゃ3本の指に入る冒険者になったよ」

「すごいな」

俺は単純の驚いた。コータ以外の日本人が居る事も驚いたが、順応して生活をしているなんて。


「お前達は何でここにいるんだ?」

コングは不思議そうに聞いてきた。


「俺達は、お前の手伝いをしに来た」

「え?」

「まあ、そういう依頼なんだ。あんまり詮索しないでくれ」

「そうか…」

コングは少し俺らを怪しんでいるようだった。


「それで、コングは今後どうしたいんだ?」

「いきなり言われても困るが、この村であいつらが生活できるようにしてやりたい」

「なるほど。衣食住の確保だな」

「まあそうだな。この国の冒険者はそんなに稼げなくて、TOP3の俺でも資金もだいぶ苦しい。国が何かするまでどうにか延命したいんだが」

コングは悔しそうに食事をする難民を見つめた。


「わかった。俺達が手伝ってやる」

「ほんとか?」

「おう。ユーサク!」

コータは俺を見る。


「飯だな。わかった。けど『ゲーム』を終了させないといけないな」

すると目の前に文字が現れた。

[『ゲーム』中にゴーグルを外すと、『デリバリー』を使用できます]


「いや、このままいける」

「頼んだ。出来るだけ多く」

「おう」

俺はゴーグルを外した。


「品数を多くするんじゃなくて、量を多くするべきだったのかよ」

俺は文句を言いながらキッチンで調理を始めた。


▽ ▽ ▽


ユーサクが料理の準備に向かった。


「ヒメ。さっきここに集まってた人に、まだ食事があると言ってここに集めてくれないか?」

「うん!わかったー」

ユイは散らばった人々を探しに向かった。


「コングはどうやってこの世界に来たんだ?」

「え?プロレスを怪我で引退して、心機一転して違う土地で再出発しようと家を買ったんだ。そうしたらその家の倉庫とこの世界が繋がってたんだ」

「え?」

「繋がってた先は無人島だったんだよ。俺よりも前にその通路を使ってた人がいたみたいでメモが残ってたからすんなり別の世界にいるって理解できたよ」

俺には思い当たることが多すぎた。


「その島ってどんな島?」

「え?繋がってたのは汚い小屋で、大きい山があって、近くの池にはタコのモンスターがいた」

マサシの気遣いはちゃんと為になっていたんだな。

まさかあの島からマサシ以外の人間がやってきているなんて。

俺は自分がしたことが何か役に立ったと感じ、嬉しくなった。


「それで島からはどうしたんだ?」

「泳いだ。物凄く泳いだ」

「すごいな」

コングは見た目通りの肉体派みたいだ。


「エクストラスキルで体力とか筋力がものすごく上がってるからな。引退の原因だった怪我も治ったし」

「怪我が治ったんなら元の世界で暮らそうと思わなかったのか?」

「うーん。神がこの世界でやっていけって言ってる気がしてな。通路を通るためのリングもぶっ壊してやったよ」

「ぶっ壊した…」

俺が作った時は強度をものすごく上げたはずなんだが、コングには勝てなかったか。


「今後、食事については心配しないでくれ。食べれるモンスターを狩ってくるし、金曜日にはユーサクから飯が届く」

「なんか面白いスキルだな」

「まあな。あとは俺とコングで簡易的な家を作ろう」

「わかった。木材はすぐには買えないが」

「俺が魔法で木を刈って、木材として使えるように乾燥させるから心配すんな」

俺がそう言うと羨ましそうな目線で俺を見る。


「いいな魔法。俺使えないんだよ」

「そうなのか。ステータスにも何も出てないのか?」

「自分を『鑑定』したから確かだ」

「え?なんで『鑑定』した?」

「ステータスの一部が読めない文字になってたんだ。マスクの『鑑定』が無かったら、ずっとわからないままだった」

「なるほど」

そういえばマサシも一部見えなかった。


コングと話していると、ユイが帰ってきた。

「みんなに声かけてきたよー」

「ありがとなヒメ」

「うん!」

ユイは褒められてうれしそうだ。


「おーい!コータ!できたぞ」

銃が俺の目の前に現れ、ユーサクの声が聞こえてきた。


「じゃあ送ってくれ!」

「転送!」


▽ ▽ ▽


テーブルの上の物は光って消えた。

そしてカウントダウンが始まった。


「はぁー。さすがに揚げ物と大量のチャーハンはしんどかった」

俺はレッドホーミングのマスクをかぶった。


目を開けると、俺が作ったチャーハンと唐揚げにみんなが群がっていた。

今回は前日から仕込んでいた唐揚げだ。ニンニク醤油・塩・カレーの3つの味で漬け込んでいた。それだけじゃ物足りないので、炊いてた米を全部使った大量の余りものチャーハンだ。

「ユーサク。ありがとう!これだけあればみんな腹いっぱいになるよ」

「ああ。ちょっとがんばってみた」

するとコングが近づいてきた。


「ユーサク。本当にありがとう」

「いいんですよ。これから色々協力しますんで、がんばりましょう」

俺がそういうと目の前が真っ暗になった。

[ゲームが終了しました。キル数0]と表示された。


「え?ちゃんと伝わった?」


▽ ▽ ▽


みんなにユーサクの料理を配り終えた。

チャーハンと唐揚げは綺麗に無くなった。


コングはなぜか自分が用意していた料理が入った皿を2つ持ちながらきょろきょろしていた。

「どうした?」

「いつも遅れてくる子供が2人いるんだが、そいつらがまだ来ないんだ。あのガキはまた危ないところに行ってるんじゃないだろうな」


ドゴッ!

俺は何者かに脚を蹴られた。

振り返ると犯人はユイとそんなに変わらない男の子と女の子だった。


「お前誰だ?」

俺を蹴った子供は、ボロボロな服を着ていた。

男の子は身体に見合わない剣を背負っていて、女の子は男の子の後ろに隠れるようにいた。


2人を見たコングは怒鳴った。

「おい!また戦地に行ったのか?」

コングに怒鳴られても男の子は動じなかった。


「うるせえよジジイ。俺のクソスキルじゃ、そうやって金目のものを集めないと生活できないんだよ」

「戦地で死体から武器を集めてもそんな金にはならないぞ?大人になって普通の仕事に付けるようにいろいろ教えてやるから、戦地に行くのはやめろ」

「やだよ。普通の仕事をするぐらいなら、冒険者になってやるよ」

「お前達じゃ無理だ。冒険者も危険なんだぞ」

「うるせーよ」

男の子はコングが用意していた料理をコングの手から奪い取り、女の子を連れてどこかに居なくなってしまった。


「あの子ザル共!」

「あの子達はなんなんだ?」

「さっき言ってた子供だ。戦争孤児で、戦争で親を亡くしてるんだ」

「なるほど」

コングの口調は荒いが、子供達の背中を見つめていた。


「エクストラスキルが戦闘向きじゃないせいで親を守れなかったって思ってるんだよ。女のほうも塞ぎ込んじゃってるし」

多分あの2人が女神が言っていた子供だろう。

あの2人を鍛えるのか。


「コング。あの2人の事は俺に任せてくれないか?」

「本当か?それは助かる」

コングは頭を下げた。


「あと、これをどっかで売って金にしてきてくれ」

俺はダンジョンを攻略中に手に入れた大量のモンスターの素材と魔石をインベントリから出した。

「え?え?」

コングは素材の量に驚いていた。


「マジックバックはあるか?」

「あ、ああ」

「じゃあ売って金にしてくれ。それをみんなの食事代に」

「すまない。助かる」

コングは再び頭を下げた。


俺はユイを連れて、2人の元へ向かった。


▽ ▽ ▽


2人は廃村の端で食事を食べていた。

だいぶお腹が空いていたのだろう。物凄い勢いで掻きこんでいた。


「おい。うまいか?」

俺の声に警戒し、男の子は女の子を守るように立ち塞がった。


「警戒すんな。それに早く飯を食えよ。冷めちまうぞ」

「お前に関係ないだろ!」

2人は俺を無視して食事を続けた。


俺とユイは二人の近くに腰かけた。

「お前達、名前は?」

「うるせー」

「戦地で武器集めてどうすんの?」

「うるせー」

「コングも心配してたぞ」

「うるせー」

「うーん。お前達はこれからどうしたいの」

「うるせー」

「そこの女の子を戦地に連れて行って、女の子が怪我したらお前のせいだな」

「…」

「力もないのに危険なことをするのはバカがすることだ。ってことはお前はだいぶバカなんだな」

「…」


俺が男の子を責めていると、女の子が叫んだ。

「そんなことない!ヒューズは馬鹿じゃないもん」

「おい、リリアン」

「ヒューズにリリアンか。良い名前だな」


俺に名前がばれたことに気付いたヒューズは不機嫌そうに口を開く。

「うるせーよ。お前は何がしたいんだよ」

ヒューズは俺を睨んでいる。


「何がしたい?うーん。お前がバカにならない様にしてやろうかなって」

「は?」

「お前が本気なら、俺がお前を鍛えてやる。その子を守れるくらいにはしてやるぞ」

「は?そんなことお前にできるのかよ」

「うーん。じゃあこの子と戦ってみる?」

「え?」

俺はユイの肩を掴んだ。


「ヒメはたぶんお前より年下だけど、俺と一緒に旅してたからだいぶ強いぞ」

「年下の女に負けるわけないだろ!」

「じゃあやろうか。ヒメお願いできる?」

「なーに?」

「この男の子と組手してくれるか?ヤリネといつもやってるみたいに」

「うん。いいよー」

ユイはやる気のようだ。


「じゃあ、組手開始!」




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