18週目.松坂牛の大トロフレーク丼
マサシが来てから数日経った。
マサシは異世界で生活をすることを選んだ。
決め手は元の世界に家族がいないことと『不老不死』だった。
早くに父親が亡くなっていて、祖父母と母親と暮らしていたが先日病で亡くなったようだ。
それで途方に暮れていたところで俺が作った腕輪を見つけたそうだ。
マサシを見ると何かを書いていた。
「マサシ、何書いてるんだ?」
「ああ。いろいろこの島の事を書いてるんです」
「島の事?」
「お金の稼ぎ方や、小屋の近くの池の事とか」
「あーあのタコ?」
「はい。僕の家はいずれ誰かが住むかもしれないので、その人がこの島にもし来た時に混乱しない様に書き置きを残しておこうと」
「それはいいかもな」
俺が作った腕輪は10個だ。クソ女神がまだ何かしようとしてるのは明白だ。
「じゃあ火山には近づくなって書いておいてくれ」
「あー。強いモンスターがいるんですよね」
「うん。害を与えなければ問題ないから」
「わかりました」
数日マサシと過ごしてわかったが、マサシが暮らしている時代は俺が生きていた時代よりだいぶ前だ。
モンスターや魔法など全然理解していなかったし、話がかみ合わないことが多かった。
「それでマサシ、準備はいいのか?」
「大丈夫です。お金も稼げましたし、スキルに見合った着替えも用意しましたから」
「いや、着替えを全部学生服にする必要はないと思うぞ?」
「まあそうなんですけど。雰囲気ですよ」
マサシの異世界への順応具合は意外と高かった。スキルのおかげで理解して応用するのが早いみたいだ。
それに元の世界の物をこの世界に持ってくるとマジックアイテム化をするみたいで、マサシの学生鞄はマジックバッグになっていた。
俺はマサシに頼んでカバンを何個か買ってもらいマジックバッグにしてもらった。
「冒険者になるのでいいんだよな?」
「はい。まあ死なないので、飽きるまでは冒険者を細々としようかなと」
「お金はだいぶあるしな」
「はい!」
俺が作ったマジックアイテムはだいぶ特殊な物のようで、入れたものをお金に変えることができた。
しかも日本円にもこの世界のお金にも変えられるので、準備がだいぶ楽だった。
「じゃあ最後にこの書き置きをあっちの世界に置いてきて、タコにお酒をあげたら出発できます」
「了解。飛んで行くから、寒くなるぞ」
「僕の制服を舐めないでください」
マサシは小屋に向かって行った。
▽ ▽ ▽
俺はマサシを人がいる街へ連れて行き、島へ戻ってきた。
長時間飛ぶのは意外と魔力消費が多く、だいぶ疲れた。
「よーし。ユイを迎えに行くか」
俺は山を登って行った。
山の中には大きな鳥モンスターがいて、その近くにユイが居た。
「ユーイ!」
俺が呼ぶとユイは俺に気付き、走って飛びついて来た。
「コータ!さみしかったよー」
「ごめんね。依頼は終わったから帰ろう」
「え?でもリーヌは?」
「あっ、そうか」
ユイは鳥モンスターをリーヌと呼んでいた。
俺達が話しているとリーヌの身体がものすごい光を発した。
「え?」
「リーヌ!大丈夫?」
ピィィィィィ―――――!
リーヌは大きな声で鳴く。
「え?そうなの?」
ユイはリーヌと『テレパシー』で会話したみたいだ。
光はどんどん小さくなって消えていった。
リーヌが居たところには大きな卵があった。
「え?これなに?」
「コータ。リーヌがこの卵を山の暖かい場所に置いておいてだって」
「これがリーヌなの?」
「そうみたい!」
「わかった。ちゃんとリーヌとお別れは出来た?」
「うん。それにまた会えるって」
「そうか」
俺は卵を持ち、空を飛んで火口から中に入って卵を置いた。
▽ ▽ ▽
今日は準備万端だ。
昨日というか一昨日の夜中は酔っ払ってしまったせいで、俺が酔って買ってきた物を送ってしまった。
今日はそんなことない。
コータからの『メッセージ』の感じでは、多分呼び出されるのは今日だ。
米も炊いているし、高級卵もある。
準備は出来てる。いつでも来い。
トゥントゥルルン♪トゥントゥルルン♪
タブレットが鳴った。
「よし!」
俺はすぐに緑の受話器マークを押してビデオ通話にした。
「ユーサク。久しぶりだな」
「いや、俺からしたら1週間経ってないんだが」
「そうだった!」
ディプレイに映るコータはだいぶ元気そうだった。
「手伝いは全部終わったのか?」
「ああ。無事にな。飯食ってユイが寝てる間に元の時代に戻してくれるとよ」
「お疲れ!」
「ああ」
コータは元気だったが、どこか少し疲れているように見えた。
「大丈夫か?」
「あ?ばれた?」
「当たり前だろ。なんか体調悪いのか」
「先週お前の飯食えなかったから、調子が悪くて」
「なんだよ。心配して損したわ!」
俺とコータが話していると、ユイが口を開いた。
「ユーサク!お腹すいたー」
「ユイー。先週はごめんな。ちゃんとお腹いっぱいになったか?」
「うん!辛いのとモニョモニョの飲み物おいしかった!」
多分胡椒餅とタピオカの事だろう。
「それで今日のメニューはなんなんだ?」
「お腹すいたよー」
「今日は大トロだ!」
「え?」
初めて聞いたコータの残念そうな声。
「ユーサク。島に来てから魚ばっかなんだよ。少しは考えてくれよ」
「松坂牛」
「え?」
「松坂牛」
「松坂牛?」
「松坂牛の大トロフレーク」
「えー!お前最高すぎるぞ!」
コータは手のひらをひっくり返して俺を褒めた。
「しかも新鮮な高級卵付きだ!盛らずに送ってやるから好きなだけ食べろ!」
「た、卵か」
「え?なんか問題でも?」
またしてもコータは不穏な声色になった。
「ユイが仲良くなったモンスターが鳥のモンスターで、今日卵になったんだよ」
「え?卵になった?」
「うん。ユイ平気かなー」
「卵なしでも美味いから、とりあえず送るぞ」
「わかった」
「転送!」
テーブルの上の物は光って消えた。
そしてカウントダウンが始まった。
「おー美味そう!」
「これどうやって食べるの?」
「ご飯の上にこれをかけて卵を乗っけるんだけど、ユイはどうする?」
「卵大好きー!」
「そうか。よかった。じゃあ俺が盛ってあげるからな」
「うん」
コータとユイの会話を聞いて俺は安心した。
ディスプレイは暗くなった。
「あーよかったー。てかそういうの『メッセージ』で共有してくれよ!」
俺は不満を漏らしながら、自分の分の大トロフレークを取りにキッチンに向かった。
「え?うそ?全部送った?卵も?」
俺は1人むなしく白米を食べることにした。




