17週目.タコ焼きとたい焼き
「あー詰め込み過ぎた―!」
俺は新年早々地獄の日々を過ごしていた。
受けた仕事の半分が結構厄介なお客さんで、修正を繰り返す毎日だった。
「なんで最初と全く違う修正になるんだよ。修正して戻しての繰り返しじゃねーか」
俺の机の上にはエナジードリンクとコンビニ弁当のごみが積まれていた。
「再来週は横浜で泊まりがけの撮影になったし、まあ撮影が金曜日じゃないことが救いだな」
俺は洗っていない頭を掻きながら、パソコンに向かった。
タッタラー♪ダン!ダン!タッタラ―♪ダン!ダン!
音楽が部屋に鳴り響いた。
「え?今日金曜日?まずい!何も用意してない」
俺はタブレットを持ち、【スタート】をタップした。
[10秒後プレイ画面に移行します。プレイ時間は1時間。それでは良いバトルを]とディスプレイに表示された。
カウントが進んで0になると、スマホのバトロワゲームのような画面に切り替わった。
「ユーサク!モンスター倒しに行くぞー」
タブレットからコータの声が聞こえてきた。
「悪いコータ。木曜日だと勘違いしてて、今日はモンスターと戦う余裕ないわ」
「まじか。忙しい時にすまん!それなら飯も適当でいいぞ」
「本当?悪いな。量は用意するようにするから」
「おう!じゃあ何時くらいに呼ぶのがちょうどいい?」
「えーっと20時くらいかな」
「わかった。タブレットの時計がそっちの時間を指してるから、20時になったら呼び出すわ」
「うん。ありがとう」
俺はタブレットの【EXIT】をタップして、仕事を進めた。
▽ ▽ ▽
時間は18時になった。
「よし!一区切りついたぞ。3人の飯を用意するか」
俺は一度背伸びをして立ち上がり、速攻でシャワーを浴びた。
すぐに着替えて、店へ向かった。
「えーハンバーガーと焼き鳥は前に食べさせたし、うどんと餃子もダメか」
俺は駅へ続く商店街を歩いていく。
歩いているとソースの匂いが漂ってきた。
発生源はタコ焼き屋だった。
「よし、今日はタコ焼きだ」
俺はいろんな種類のタコ焼きを買い、ついでにたい焼きも買った。
▽ ▽ ▽
家に帰ると、すぐにパソコンに向かった。
帰宅中に修正のメールが来たので、それの確認だ。
地獄だ。さっきの修正を元に戻すことになるなんて。
トゥントゥルルン♪トゥントゥルルン♪
タブレットが鳴った。
「あーやば!」
俺は緑の受話器マークを押してビデオ通話にした。
「ユーサク、大丈夫そうか?」
コータは気を使って小さな声でしゃべっている。
「大丈夫。また修正が来たから、すぐに転送していいか?」
「おう。悪いなほんとに」
「こっちこそごめん。今日は学生時代によく食った、あのタコ焼きとデザートにたい焼きを買っておいた」
「ありがとう」
俺はタコ焼きとたい焼きをテーブルに置いた。
「転送!」
テーブルの上のものが光ってなくなった。
そしてカウントダウンが始まった。
「おーありがとう!」
「すまんな。すぐ仕事に戻る。時間が終わるまでは繋いでおくから、来週の希望とかあったら言ってくれ」
「おう」
俺はタブレットを置き、仕事を始めた。
タブレットからはユイとヤリネの声が聞こえてきて少し和んだ。
「コータ。来週の金曜日、何食べたい?」
「あー。来週も忙しいのか?」
「まあちょっとな。厄介なお客さんとの仕事なんだよねー」
「そっかー。じゃあ牛丼が食べたいな」
「牛丼なんかで良いのか?」
「家の近くの牛丼屋まだある?」
「あるよ」
俺はコータがよく家に来ていたことを思い出して懐かしくなった。
「じゃあ牛丼を何杯か用意してくれよ。あれ久々にやりたい」
「トッピングランキング?」
「そう!」
「お前さー。毎回ネギ玉が1位なのにまだやりたいの?俺が知ってる限り、10大会連続優勝してなかった?」
「いや、1位以外の変動が重要なんだよ」
「じゃあミニサイズの牛丼を大量に買っておくよ」
「ユイとヤリネの分もな。人の意見も聞きたいし」
「俺のチーズおろしポン酢は毎回最下位にしてたくせに」
「いや、チーズ最高。おろしポン酢最高。この二つを混ぜようとするのが気に食わん」
「お前にはわかんないよ、このセンス」
いろいろ懐かしい思い出を思い出した。
「そろそろ俺もタコ焼き食うかな」
「冷める前に食っちゃえよ」
「まだ冷めてないぞ!はふはふ」
「ん?」
タブレットから聞いたことのない女の子の声がした。
声の主が分かったのか、コータは機嫌悪そうに口を開いた。
「何しに来たんだよ、クソ女神」
「クソって言うなよー!女神様だよ?」
俺は混乱した。
「どういうこと?コータ、説明して」
「あーすまん。えーっと」
コータが何か言おうとすると、コータの後ろから水色の髪の女の子が顔を出した。
「初めましてだね。ユーサク!」
「えーっと…」
「僕がコータを勇者に任命した偉大なる女神クシカーロだよー」
「えっと?」
俺はもっと混乱した。
そんな俺を見たコータが俺に説明してくれる。
「こいつが時々話した、ドジカスゴミ女神のクシカーロ。俺を殺した犯人」
「しょうがないじゃん!召喚したかったんだもん!」
「うるせークソ女神。何の用だ?」
女神とコータは普通に喋っていたが、俺は状況を理解するのに時間がかかった。
なんせ自分を女神と言っている女の子はどっからどう見ても普通の女の子だった。
いや、普通じゃないか。
見た目はユイと同じくらいの年齢に見えるし、水色のグラデーションのある髪だし、なぜか異世界なのに大きいダボダボのTシャツを着ている。
「えーっと。あなたが女神様なんですよね?」
「うん。そーだよ」
「コータと言い合いを続けられても困るので、要件を聞いてもいいですか?」
俺は恐る恐る聞いてみた。
「うん。ユーサクの方が話が通じるね。今日は2人?いや、3人にお願いがあってきたんだよ」
「3人にお願い?」
「クソ女神!何を間違えたんだ?何の尻拭いをさせようとしてるんだ?」
「間違えてないし、尻拭いでもないよ!ちょっと友達の神に頼まれごとをされたから、それを手伝ってほしいんだ」
女神はぴょんぴょんと飛び跳ねながら喋っている。
「それは一体?」
「お願いしたいことは3つ。別の時代に行ってマジックアイテムを作ってほしい。それと、あるモンスターと仲良くしてほしい。そしてその時代で出会うある人と仲良くしてお願いを叶えてあげてほしい」
「ん?別の時代?」
俺はまた混乱した。
するとコータは口を開いた。
「別の時代に行くってどういうことだ?タイムトラベルか?」
「うん。そういうことだよ!」
女神は笑顔で答えた。
「それをコータとユイとヤリネにお願いしたいと?」
「違うよ!コータとユイちゃんとユーサクにお願いしたいんだよ」
「えー」
「まあユーサクはいつも通りそこから手助けって感じなんだけどね」
「あーなるほど」
俺は少しづつだが理解してきた。
「あとユイちゃんには、時代を渡ったことを教えちゃダメだからね」
「じゃあどうやって一緒に行くんだよ」
「今みたいに時間を止めてる間に送っちゃうよ」
そう言われてユイとヤリネを見てみると、まったく動いていなかった。
「あるモンスターと仲良くするってお手伝いはユイちゃんがいないとダメなんだけど、時代を超えられることを今知ってほしくないんだ。まあいつかは知ることになるんだけど」
女神はなんか含んだような言い方をした。
「わかった。それでいつ出発だ?それにこの時代には戻って来れるのか?」
「出発はいつでもいいよ。戻ってくるのも出発したタイミングに戻すから、諸々気にしないで」
「じゃあ来週の朝だな。ラドニークのところにヤリネを帰してからだ。クソ女神がミスって、ヤリネを危険な目に合わせる可能性がある」
「もーミスらないよー」
女神は頬を膨らませていた。
「じゃあ出発は来週ね!いろいろ僕から指示出すためにタブレットに『メッセージ』入れといたから」
「お前からの指示はそれで来るのか?」
「うん。まあ出発するときはまた顔だすから寂しくないよ!」
「寂しがってねーよ!」
女神は笑っている。コータをからかっているみたいだ。
「コータとユーサク間でもやり取りは可能だからうまく使ってね。まあ1日5往復くらいしかできないけど」
「わかった。じゃあそろそろ時間を動かしてくれ、あと今日言った内容はまとめてメッセージに入れておいてくれ」
「わかったー。じゃあ時間を動かすよ!」
そういうと女神は消え、ユイとヤリネの声が聞こえてきた。
「めんどくさいことに巻き込んでごめんな」
「いやいいよ。俺は飯を用意するだけだし」
俺がそういうとディスプレイは暗くなった。
タブレットを確認すると、女神が言っていたように『メッセージ』のアプリが入っていた。
「神様ってあんな感じなんだ」
俺は自分のタコ焼きを温め直した。




