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0週目.半年ぶりのピザ

「やっと終わった。納期は月曜日の午前中だから、明後日最終チェックしてデータ送るか」


外山優作とやまゆうさく(29)は在宅ワークで動画編集の仕事をしている。

食事はほとんどコンビニ飯や出前ばっかりで、自炊なんて米を炊く以外ほとんどしない。


俺はキッチンの食料庫を開けると大量の米が入っていた。

「米を送ってきてくれたから、米が大量だ。来週は米処理ウィークになりそうだな」

親が米だけはちょくちょく送ってきてくれていているおかげで、生活はだいぶ楽だった。


食料庫の扉を閉めて、スマホでアプリを開きピザを注文した。

「先に頼んでおくんだったな、食べたい時にすぐ食べれないのはなかなか難点だよなー」



ピザが来るまでの間、空腹を紛らわすためにテレビを見ながら待つことにした。

「うわ。食べ物系のCMは駄目だろ」

食べ物のCMに悶絶しながら、ピザを待ち続けた。


ピンポーン


インターホンが鳴り、俺は素早くインターホンに向かった。

「はい」

「ご注文の品、配達に参りました」

「ちょっと待っててください!」


玄関に向かい、ドアを開けると見慣れた制服の店員が立っていた。

「こちらでデラックスピザのMサイズとお飲み物のコーラです!」

「ありがとうございます」

俺はピザと2Lのコーラを店員から受け取った。


「ありがとうございました!またご利用ください」

支払いはクレカだったので、店員はすぐにいなくなった。

ドアを閉め、リビングに戻る。


リビングのテーブルにピザとコーラを置き、台所からグラスとウィスキーをもってくる。

グラスにコーラとウィスキーを入れた。


「ちょっと薄いけどコークハイボールの完成。腹減ったー。じゃあ、いただきます」


ピザを取ろうとテーブルに目を向けると、テーブルの上に見たことないタブレットが置いてあった。


「これなに?俺のじゃないよな」

俺は見たことのないタブレットに驚いた。

俺以外の誰かのものかとも思ったが、この家に人が来たのはずいぶん前だからありえなかった。


「え?なんか昔使ってたやつ?いやそんなわけないしな」

どう考えても見たことがない。


「昔はよく人が来てたけど、最近は家に誰も来てないしな」

俺は人がよく来ていたころを思い出した。

大学生の時に高校時代の友人4人と俺で金をかき集めてよく宅飲みしていた。

社会人になっても、その4人のうち何人かが家に来ることはちょくちょくあった。


「いやそんな前のものが今更ここにあるわけないしな。それに一番よく来ていたあいつは…」


俺はその4人の事を最近は全く思い出してなかった。

なぜなら4人のうち1人が1年半前に居眠り運転のトラックに轢かれて亡くなった。

そして半年前にも1人トラックに轢かれて亡くなった。

半年前に亡くなった友達は、一番家に遊びに来ていた親友とも呼べる奴だった。

そのせいか、4人の事を思い出すのが辛くなっていた。



トゥントゥルルン♪トゥントゥルルン♪



急に謎のタブレットが鳴り始めた。

タブレットを覗いてみると、ディスプレイには「コータ」と書いてあった。


「は?なんかの悪ふざけか?」

俺は信じられなかった。

ディスプレイに表示された名前は半年前に亡くなった俺の親友の名前だった。


トゥントゥルルン♪トゥントゥルルン♪


鳴り続けるタブレット。

俺は恐る恐るディスプレイの緑の受話器マークを押す。

するとタブレットはビデオ通話になった。


タブレットから聞き慣れた声が聞こえてきた。

「ユーサク!おーい!聞こえてんのか?なんか天井みたいなのしか見えないぞ」


俺はタブレットを持ってディスプレイも見てみると、

ディスプレイに写ってるのは半年前に亡くなったはずの親友の橘浩太だった。


「は?なんで?」

俺と戸惑いなんて気にもせず、ディスプレイ越しの浩太は話を始めた。

「おーやっと顔が見えたぞ。久しぶり!髪型変えた?てか聞こえてる?おーい」

こんな状況にも関わらず、能天気な発言。まさしく浩太だった。


「なんだよ!これ!お前死んだんじゃなかったのか?」

「聞こえてたのか。よかったー!あのクソ神がまた変なアプリを寄越したのかと思ったよ」


俺はこの状況とコータの言っていることを理解できず混乱していた。


「何言ってるかわかんねーよ!本当に浩太なのか?」

「悪い悪い!1から説明するわ。まず俺はお前の親友の橘浩太だ。今はコータってことになってる。

実は異世界の女神のせいで半年前にトラックに轢かれて死んだんだけど、俺を異世界で勇者としていろいろさせるために殺したらしいんだよ。やばくね?」

「ごめん。全然意味が分からない。コータを勇者にしたくて殺した?」

「そうそう。まあそれで自分の顔も体も気に入ってるからさ、クソ女神に無理言って俺のコピーの身体を作らせて、それに魂をいれてもらって異世界に送ってもらったんだ。で、今に至る感じ」

全然意味が分からなかった。

わかることは、死んだと思った親友が生きてた時のように早口で捲し立てるように訳のわからないことを言っていた。


「は?マジで全然意味が分からない」

「まあ、そうだろうけど話は最後まで聞いてくれ。いざ転移したんだけど、あのバカ女神がミスりやがって転移した反動で半年間眠ってたのよ俺。信じられる?良くわからない洞窟で裸で眠らされてたのよ」

「は、はあ…」

「やっと昨日目覚めて、クソ女神に謝罪の品を要求して、今日やっと人がいる街が見えるところまでたどり着いたのよ!」

「ごめん、まだ全然理解できてない。よくある異世界アニメと一緒って考えていいのか?」

「そうそう!細かい違いはあるけど大体一緒。それで街も見えてひと段落ついたから、転移するときに貰ってたチート機能付きのタブレットを触ってみたのよ。そしたらユーサクにビデオ通話が出来たのよ」


俺は混乱していた。

「このタブレットがチート機能?」

俺は持っているタブレットを見た。

「なんか、レベル上げるとアプリが増えるらしい。今はビデオ通話とデリバリーってアプリしかなくて、まあとりあえず使ってみたのよ。そしたら説明文が出てきて」


コータがそういうと俺のタブレットにも説明文が出てきた。

「俺の方にも説明文が出てきた」


[あなたは異世界の勇者の支援者に選ばれました]

[デリバリー:毎週石の日に勇者に食事と飲み物を送ることができます。その食事と飲料は勇者のパワーアップに繋がりますので真剣にお選びください]


「そんなかんじか。俺のはビデオ通話を開いたら、転移前の友人のリストが出てきて、[あなたの支援者を1人選択しろ]って出てきてユーサクを選んだのよ。デリバリーを開いたら[毎週石の日に食事と飲料をもらい、世界を救え]って感じだった」

「その支援者ってやつに俺を選んだのか?」

「当たり前だろ。いつもつるんでたユーサク以外の3人の事も頭には浮かんだが、一番の親友のお前しかいないだろ」

そんなことを言われるとは思わなかった。

俺はコータの言葉が心の底からうれしいかったが、ものすごく恥ずかしい。


「うるさいな、そんな調子のいいこと言っても何もやらんからな」

「本心だって。てか石の日ってのが分からないんだよ。そっちは今何曜日の何時??」

「こっちは金曜日の21時だぞ」

「こっちも夜だから、時間のズレはなさそうだな。金曜日がこっちの世界でいう石の日なんだと思うんだけどな」


いつもはアホみたいなのに、こういう時は頭が働く親友を見て、楽しかった思い出をいろいろ思い出した。



「ユーサク!それじゃあ、なんか送れそうな食べ物ある?飲み物も!」

感傷に浸ってる俺の邪魔するところも変わってない。


「半年間眠ってたし、街に着くまでの道中にいた魔物の肉と草しか食べてないんだよ。何でもいいから食べ物ない?」


そんな話を聞くと、流石にちょっと可哀想になってきた。

「なんでもいいのか?」

「食い物ならなんでもいい!」

「夕飯で食べようとしてた、ピザがあるけど」

「ピザ!!!頼む!それ送ってくれ!」

「いいけど、どう送るんだ?」

「念じるとか、呪文言うとかじゃねーかな?」

「呪文?」


この歳で呪文を唱えることになるのか俺は。


「な、なんて言えばいい?」

「知らんよ!俺、勇者だから無詠唱よ?とりあえず転送とか言ってみたら?」


まじで呪文を唱えるのか。この歳で。

「て、転送」


テーブルが光り、ピザとコークハイボールが消えた。


「お!届いた!ピザだーーーーーー!ありがとな」

コータは物凄く喜んでいた。

俺は少しうれしくなった。

「じゃあ、いただきます!」

コータは勢いよく、ピザを食べ始めた。

「うまい!久々のちゃんとした飯だ。本当にありがとな、ユーサク」

「あんま急いで食べるなよ。あとそのグラスのコーラはコークハイだから一気に飲むなよ」

「酒?マジかよ!!最高すぎる」


喜んでいるコータを見ていると、ディスプレイに謎のカウントダウンが出ていることに気付いた。

「おい、コータ。変なカウントダウンがあるけど」

「あれ?なんだこれ?」

コータもこのカウントダウンが何かはわからなかったようだ。


「うーん。たぶんこの通話が終わるってことかな。じゃあなんか伝えないとな」

コータが手に持っていたピザを置き、カメラ目線になった。


「転移することになって、お前に2度と会えないと思ってたから、今日は顔を見て喋れて本当にうれしかったぞ!また、来週の金曜日もよろしくな」

コータの言葉に目が潤んだ。

「俺も本当にお前またこうやって喋れて、やばい時間が。コータ!

来週の金曜日、何食べたい?」


ディスプレイが黒くなった。

タップしても動く気配がない。



俺はさっきまでの夢のような出来事から現実に戻された。


「晩飯頼まないとな、ピザ無くなったし」

スマホでアプリを開いて注文しようとするが、なかなか注文できない。



「あー生きててくれて本当によかったぁぁぁぁぁ」

俺は半年ぶりに大号泣した。




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