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95.手荒な扱いだけど重要な役割です

 長男カーティスが実家への土産に味噌を確保した頃、次男メイナードはまだ聖獣シリルに咥えられていた。普通に地上を走る分にはさほど恐怖心はないが、空中を駆けるのでヒヤヒヤする。咥えた襟が丈夫でよかったと思いながら、大人しくしていた。


『ここだよ』


「はな……話すな! 離すなぁ!」


 シリルが言葉を発したということは、咥えた襟を離したということだ。叫んだが、メイナードは落ちなかった。高い塔の中央付近で、不自然に浮いている。足下は何もない空で、ふわふわした妙な感触だ。


「お、落ちてない?」


『僕をなんだと思ってるの。巫女の兄だからね、捨てたりはしないよ』


 微妙な言い回しだが、エインズワースじゃなければ落とされてた? いや、それ以前にこんな上空まで運んでこないか。一周回って落ち着いたメイナードは、シリルと一緒に塔の窓から侵入した。


 なかなか出来ない経験である。空中に浮いた状態で、上半身から窓に入った。足をバタバタしたら、鼻先で押し込まれる。勢い余って、顔から着地した。手をつくのが間に合わなかったのは、痛恨の失態だ。


「普通に地上から来ればいいのに」


 ぶつぶつと文句を言いながらも、指示通り扉を開けていく。聖獣の獣の手でも開けられそうだが、どこに罠があるか分からないとか。猫の手ならぬ、人の手を借りた形だろう。封印の記号に触れると、シリルも閉じ込められる可能性があるようだ。


 封印したと聞いたので、地下室を想像したのだが……聖獣達は塔の中にいるらしい。気配を感じると言われたので、間違いないはず。もう6枚目の扉を開いたが、今の所それらしき生き物には出会っていなかった。


「本当にこの塔ですか?」


『この辺なんだけどね』


 シリルも曖昧な言い方をする。封印されたせいで、聖獣の気配がぼんやりしていると嘆く。話しながら、次の扉を押した途端……妙な手応えがあった。


「ここ……」


『大当たりだ!!』


 分厚い膜を押したような違和感だった。さらに強く押すと、伸びていき……最後にぷつんと途切れた感じで突き抜ける。物理的に開いた扉と同じように、妙な感触が薄れていく。


「気持ち悪い感じだな」


『お疲れさん、ついでにそこの石を蹴飛ばして』


 言われて、部屋の四隅に置かれた石に気づく。目にすればそこにあるのに、部屋を見回した時はまったく視界に入らなかった。封印に使われる石は、何か刻印が施され彩色された鮮やかなものだ。


「一つでいいのか」


『一つでバランスが崩れる』


 すべてが正しい位置にあって、初めて作動する仕組みらしい。部屋の中は空洞で何もないが、聖獣シリルの目には違うものが見えるようだ。金色に光る目を細めたシリルが小さく何かを呟く。その声は聞こえないが、メイナードはこう受け取った。


「やってしまえ!!」


 叫んで封印の石を蹴飛ばした。

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