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89.お膳立てが過ぎて、戦う前から勝ち戦

 女性三人集まって物騒なお茶会をしている頃、男性陣も忙しく準備に走り回っていた。ラエルは義父アイヴァンと、作戦の打ち合わせに余念がない。


「海を渡るから、上陸の瞬間が危険だ。そこだけ何か考えないといけないな」


 アイヴァンが真剣に地図を前に悩む横で、頬杖をついたラエルが首を傾げる。人間とは面倒な生き物だ。海を渡るにも船が必要で、戦をするのに武器を集めるのか。ならば、不要な部分は手助けしてやろう。


『海はさほど距離がない。僕の根で橋を作るから、歩いて渡ったらいいよ』


「聖樹様、今なんと?」


『ここから、この突端部分まで距離が一番短くて浅いんだ。ここに僕の根が通ってる。渡る時に持ち上げるよ』


 海を歩いて渡れ? 予想外すぎる作戦を平然と提示するのは、この国では神にも等しい聖樹だ。アイヴァンは素直に感謝することにした。


「ありがとうございます! 何か橋のために用意する物はありますか?」


『人間が数千人乗っても平気だから、問題はないんだけど……馬は怖がって渡らないかも? 軍馬なら渡れるのかな』


 その辺は事前に試すことにした。馬が渡れるかどうかで、隣大陸での作戦が変わってくる。作戦変更を書き込むアイヴァンの手元を覗いて、長男カーティスは目を見開いた。


「なんだ、これ。作戦っていうか……もう勝ってるぞ」


「兄さん、遊んでないで資材の手配を」


「いいから見てみろ」


 文句を言うメイナードを手招きしたカーティスに、ラエルはにやりと笑った。人間って本当に面白い。こういった反応が興味深かった。だから人間との接点を切らずに過ごしたのだ。


 ミカは真逆だった。人間と触れ合わないことで、己の領域を守ろうと閉じこもった。最終的にその作戦は失敗だったが、僕とミカの性格がここまで違うのは、生き残るための本能かも知れないね。


 他人事のように考えながら、上陸後の案内役も買って出る。地図の上を指で辿って、道なき最短距離を示した。


『今は道がない森だけど、僕の根はすでにこの辺りを支配してる。聖獣の祝福を付けるから、街道じゃなくて森を突破して。最短距離だし、僕が通れるようにしておくからさ』


 道がないなら作ればいいんだよ。最短距離で真っ直ぐに移動して、僕が下処理した人間を排除して貰わないとね。僕は人を殺しても色が濁ることはない。肉体を持たない聖霊も同様だった。だけど、聖獣は黒くくすんでしまう。


 白い毛皮がお気に入りのグレイスが嘆くから、出来たら殺すトドメは人間同士でやって欲しい。その手前のお膳立てはいくらでも手伝うよ。ラエルは黒い印象を与える笑みを浮かべた。


「これで勝てなかったら、父上が愚鈍だってことか」


「お前に言われたくない」


 余計な一言を吐いたメイナードが、父アイヴァンの拳骨を受けて頭を押さえる。その姿を見ながら、ラエルは思った。カーティスはミカの好みだね。まあ、本人が見つけるまで何も教える気はないけど。

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